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「過去未来報知社」第1話・第28回

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>>第27回
(はじめから読む)<<第1回
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「やっぱり、猫が多いな」
 少し欠け始めた月を背に、男と笑美は夜の六合町を歩いていた。
 男が持っているのは笑美の荷物である。
 いくら「自分で持てる量ですから」と言っても聞かず、運んでくれている。
 もっとも最初から「いくら夜だからって、役場から荷物を持ってくることぐらい
できます」と何度言っても聞かず、ついてきたのだが。
「こう多いと、見張られてるような気がしてくる」
「それで、逐一ネコさんに報告されてるんですかね~」
「なんだ、それは」
「いや、ただ、なんとなく」
 笑美は満月を背に猫を従えたネコの姿を思い出した。
 あれは一体、なんだったのか……。
「お前は、やっぱりこの町に住むことにするんだな」
「は? そりゃ、勤め先がここですから、そうなるでしょ」
 どこかため息混じりのようにも聞こえる男の声に、笑美は眉をしかめた。
「ところで、あなたの用事は済んだんですか?」
「ああ、しばらく六合荘に住むことになる」
「やっぱり、そうなったんですか」
「不満か?」
「いえ、別に。あ、そういえば、あなたの名前、なんていうんですか?」
 一瞬言葉に詰まったように男の足が止まる。
「? どうしたんですか?」
「いや。なんでもない」
 男は再び歩き出した。
「明石慶太」
「は?」
「名前、聞いただろ」
「あ、そうでした。……どっかで聞いたことあるような、ないような?」
「知らないだろう、お前は」
「なんか、いちいち引っかかる言い方ですね。
 私、前にあなたにあったこととか、ありましたっけ?」
「いや、過去には、ないな」
「……あ、そうですか」
 何か男の言葉に引っかかるものを感じたが、笑美の興味はそこで尽きた。
「私はね、ここで新しい生活を始めるんですよ」
「そうか」
「新しい町で、新しい家で、新しい環境で」
「古いものは嫌いか」
「……過ぎた過去はいいじゃないですか」
 満月を少し過ぎた月を見上げる笑美。
「欠けても月は奇麗ですよ」
「そうだな」
 暫く笑美と慶太は、黙って六合荘への道を歩いた。
 道の端々から、猫たちがそれを見ていた。

>第29回
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