「過去未来報知社」第1話・第85回
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「いや~、晴れたな~!」
アカシのマネージャー、鈴木は大きく伸びをした。
「雨男のアカシにしては珍しく!」
「一言余計だ」
ぶすっと言葉を返したアカシは、登山服の襟元を広げた。
「暑いんだよな、この衣装」
「しょうがないよ。登山家の話なんだから」
「いくら山育ちだからって、オファーが安直なんだよ」
「何がきっかけでお仕事もらえるか、分らないでしょ」
「アカシ、機嫌悪いんですかね」
遠巻きにその様子を見ていた谷口は、田中に小突かれた。
「お前、本当に分ってないなぁ」
「まだAD歴、浅いっすから」
「あれは、上機嫌なの」
「……あれが?」
マネージャーに絡み続けるアカシに田中はニヤリ、と笑う。
「本当に機嫌が悪い時は、口を開きやしないよ。
かなりテンション上がってるみたいだな」
「……そんなに楽しい撮影ですかねぇ」
「俺は楽しいけどな」
いそいそとカメラを用意する田中に、谷口はため息をつく。
「……撮影許可、本当にとってあるんですよね」
「平気、平気」
「いや、平気じゃなくて……」
「あ、田中さん。本当に来たんだ」
上から降ってくる声に谷口が顔を上げると、仏頂面のアカシが立っていた。
「お、おはようございます」
「なんか、いい画録れんの? 諸国漫遊の」
「バッチリだよ!」
グッ! と親指を立てて見せる田中。
「……まぁ、今日はよろしく」
軽く右手を上げると、去っていくアカシ。
「……よろしく、だって。確かにご機嫌ですね」
「なぁ? いい予感しかしない!」
ぐぐっ、と身を反らすと、田中は遠方に見える山に吠える。
「いい心霊が録れそうな気がする!」
「それはいいことなのか……?」
嫌な予感しかせず、谷口は肩をすくめた。
その肩がちょんちょん、と叩かれる。
「はい?」
「あの、おたずねしますが」
控えめで清楚な雰囲気の夫人が、にっこりと微笑む。
「あなた方は、映画の……?」
「山への案内は、やっぱり市の方がされるの?」
「はあ。そうっす。前に諸国漫遊撮った時にお世話になった職員さんが
案内してくれるって、言ってましたね」
「……そうですか」
にこっ、と微笑むと夫人は去っていった。
「アカシのファンにしては年がいってんな……」
「あの、すみません」
今度は逆側から、控えめに声をかけてくる青年がいる。
田中と同じ年齢ぐらいだろうか。どこか顔色が悪い。
「今ここに、60ぐらいの女性がきませんでしたか」
谷口は首をめぐらせる。
「さっきの人……60いってたかなぁ」
「来たんですね」
「はあ、撮影のこと聞かれて、あっちに……」
谷口は夫人が去った方向を指し、青年を振り返った。
「何やってんだ、お前は」
「……あれ?」
呆れた顔の田中がカメラを構えている。
いつの間にか、青年の姿は消えていた。
「……あれ? 今確かにそこに……」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねぇぞ。さあ! 行くぞ!
我らが心霊山へ!」
ドサッと田中にカメラを押し付けられ、慌てて受け取る谷口。
「……ま、いっか」
意気揚揚と歩いていく田中を、谷口は慌てて追掛けた。
>>第86回
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