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「過去未来報知社」第1話・第86回

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「あの頂が、50年前のラストシーンを撮った場所ですよ」
「はあ、そうですか……」
 頼まれもしないのに意気揚揚と撮影隊に参加した飯塚が、指を指して言う。
 背後から息も絶え絶えについてくる笑美(と撮影隊)をあざ笑う如く元気だ。
「本当に、詐欺じゃないのか、あの爺さん……」
 笑美ほどではないが息をあげて、アカシが本音を口にする。
「80近い爺さんの脚力じゃないだろ、あれ」
「六合ですから……何があっても……驚いてちゃキリないですよ」
「……」
 ちら、と笑美を振り返ると、アカシは笑美が背負っていた荷物を取り上げる。
「あ」
「なんだってこんな、八甲田山みたいな格好してるんだ?」
「えーと、これは……」
 笑美はアカシから目を反らして曖昧に笑う。
「市役所の……撮影用・必要装備?」
「諸国漫遊の時は、随分軽装だったと思うが」
「そこはそれ、山ですから」
「それに、なんであんた、さっきから周りをきょろきょろしてんだ」
「えーと……それは……」  
 額に汗して笑美はしどろもどろになる。
「化け物が出てくるかもしれないので警戒してます」
 とは流石に言えない。
 だからこそ、スタッフ、そしてできれば役者には近づきたくなかったのだが。
(なんでこのタレントは、私にくっついてくるのよ!)
 喉まででかかった言葉を笑美は飲み込んだ。
(それに、猫やら、慶太さんやらはどうした! 私を守るんじゃないのか!) 
 あれだけ相談に乗っていた大家も猫も、慶太すらも、ここにはいない。
「普通に仕事してろ」
 とは大家の談だが、一体この状況で何が普通に出来るものか。
「なあ、この町って、変なところだよな」
「は? 何を今更……」
 といいかけ、笑美は語りかけてきてるのが大家でも慶太でもなく、
 アカシであることに気付き、我に返った。
「へ、変って、何がですか?」
「なんか、時間の流れ方が違うって言うか……」
 アカシは遠くに見える町外れの大木を振り返る。
「世間から何か切り離されたような、そんな感じがする」
「……田舎、だからじゃないでしょうか」
「いや、違う。時計の針が進む時間じゃない、
 何か違う時間が、自分の周りを回っているような気がする」
「時計の針が進む時間?」
「時間っていったら、スケジュールみたいなもんだろ。
 あれをする時間、これをする時間。
 じゃあ、スケジュールが無かった頃の時間ってどう流れていたんだ?」
「えっと?」
「生まれて目が開いた時、初めて立った時、言葉を話した時。
 うまく言えないけど、時間の流れってのはそういうもんのような……」
「それが今はない?」
「そう! それだ!」
 笑美を指差し、アカシは深く頷いた。
「時計の針ばっかりが進んでいって、自分の中で何も先に進んでいない。   
 そんな感じが……あんたからした」
「えっ?! 私?!」
 いきなり自分の話題になり、笑美は目を見開いた。
「な、なんで、ですか?」
 アカシは首を傾げる。
「さあ……。空気感? みたいなもん?
 自分の周りで起こることを、ただただ他人事みたいに流している……
 そんな感じ、かな?」
「停まった時間。回りだけ進み続ける時間……」
 ふっと笑美は、あの現金書留の衝撃の瞬間を思い出した。
 あの時から、何かしたか? 何かできたか?
 高嶋小宵の時間は、今どうなっている?
「時間が……奪われた?」
「そう! それそれ! まさにそれだよ!」
 笑美の独り言に、わが意を得たり、アカシは叫ぶ。
「最近、ごっそリもってかれてる感があるっていうか。
 でもこの間思ったね。この六合の街でソレを取り戻せる気がするって」
「取り戻せる……?」
「あの、最後にいった建物」
「六合荘?」
「あそこで確信した。何かがこの町は違う。
 そして俺は、この町で何かを得る」
「……その根拠は?」
「あ? カンだよ、カン!」
 びし、と指を立ててみせるとアカシは胸を反らした。
「俺はこのカン一つでここまで生きてきたんだ。
 俺のカンは、当たるぜ。ここに来たのも、きっと偶然じゃない」
「全ては偶然ではなく、必然……?」
 どこかで聞いたような言葉に、笑美は何か強い引っ掛かりを感じた。


>>第87回

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