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てんとう虫は冬を越す

 ある日、朝の満員電車のドアにてんとう虫が止まっていた。新卒の5月ごろだったと記憶している。会社に行くのが嫌で嫌で仕方なかった頃だ。誰も知り合いのいない土地で、初めての一人暮らし。それはそれは毎日が憂鬱だった。「こんなとこにいてかわいそう」、少し自分と重ねる部分があった。手に乗せて外に逃がしてやろうと思った。手に乗せた後でてんとう虫はくさい液を出すことを思い出した。案の定、黄色い液が手についていて少しだけ後悔した。手を広げると太陽の方へ飛んで行った。てんとう虫は太陽の方へ飛ぶから※「てんとう」虫という名前になったそうだ。

※『テントウムシは漢字では「天道虫」と書き,「お天道様の虫」という意味を持つ。 これは,太陽に向かって飛んでいくところから,太陽神の使いの虫であると考えられたことに由来しているらしい。』
(岩田泰幸「テントウムシの話」より出典
:https://www.bunchuken.or.jp/management/1469.html/#:~:text=テントウムシは漢字では「天道虫,淑女の虫となる%E3%80%82 )

 あれからもう10ヶ月ほどが経つ。てんとう虫は成虫になっても冬を越せるそうだ。僕はこの寒くて長い、厳しい冬を越せたよ、って伝えたい。あのてんとう虫もまた、この冬を乗り越えられたのだろうか。


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