人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 五十九話「沖縄の舜天公」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
五十八話のあらすじ
偽司祭の悪鬼ファルソディオをなんとかするため、虹の竜を呼び出す世界の十二の秘宝を求めて冒険と商売の旅を始めた信長公一行。台湾を離れ、次の目的地、琉球へと向かう海の上で、火や風の神術を使って、お昼ごはんを作ったのでした。
五十九話
信長一行を乗せたキャラック帆船「濃姫号」は、台湾の緑島を離れて海を渡り、琉球王国の領海に入った。目指すは、冊封に入って明の大国の臣下となり、地域の豪族尚氏が王となった政治が安定して、貿易が盛んな沖縄本島の港町、那覇だ。
本能寺の変が起きた1582年(天正10年)もそろそろ終わりに差し掛かったこの頃、琉球王国の都となった沖縄本島は、表向きに明の国が認めない商うひとびとを多く受け入れて、アジア地域の大きな貿易港のひとつとして隆盛を誇っていた。
尚氏、正しくは第二尚氏とも呼ばれるが、この源為朝の子孫とされる王の一族は、第二尚氏の6代目尚永王の時代だ。先代の尚元王の冊封の確立と、日の本の島津氏とのつながりを継承した。日の本だけでなく世界の各地が戦国時代という世にあって、琉球では政治や戦争など、国としての大きな出来事は何もない、とされる時代だった。
「穏やかな港じゃのう」
濃姫号を那覇の港に停泊させ、沖縄の地に到着した信長は、戦国時代の日の本とはまったく異なる、何とものんびりとした雰囲気の漂うひとや風景を見やった。
「はい、上様。平戸の松浦さまに頂いた、印籠のおかげで楽に入港もできました。世界のなかには争いで、臨戦態勢の土地もありますから、ここはとても穏やかな方だと僕も思います」
「そうじゃな、蘭丸。松浦隆信殿の印籠のご縁がさっそく役に立ったわい」
「信春はん、この地は商売繁盛がえらいとこやと聞いてまっせ! 焼き物も、新しく仕入れたアミ族はんの香辛料も、もしかしたら、よう売れるかもしれまへん」
「確かにこの賑わいは、京にも堺にも負けぬ様子じゃからな、助左よ。のちほど市場も尋ねてみようぞ」
「さいですわ! 商人の魂が、なんや震えまっせ~」
「ノッブ! お迎えのひとが、いるぞ」
ジョアンや助左衛門と談じていた信長は、弥助の声に、ふと顔を向けた。
そこにはきらびやかな装束をまとった、高貴な雰囲気の青年が、ふわりと浮かんでいた。2匹の狛犬のような生きものがそばに控えている。シーサーだ。港を行きかうひとびとは彼らを気にしていないので、一行だけに見える姿のようだった。
『めんそーれ、沖縄! わんよー『舜天』言うさー』
青年の人懐っこい笑顔が印象的だ。
『ようこそ、琉球王国へ。俺の名前は『舜天』という、だそうですよ』と天使ナナシが訳す。
「舜天公! 日の本の文献や伽の話にて、かすかに見聞きしたことがござる。確か、源為朝公の、琉球の地に、妻とともに残した息子殿で、琉球王国初代の王の方でござったな」
信長の言葉に、舜天はうなずいた。
『ここも困ってるさー、ゆたくしうにげーさびら』とすこし畏まった調子で言う。
『困っていることがここにもある、よろしくお願い致します、だそうです』
「もちろん、お聞きいたしましょうぞ」
『ノッブ! ここのお菓子は何だろうネ! ついていくヨ』
初代琉球の伝説王、舜天を前に、畏まった一行。それを尻目に、ゴブ太郎が興味深そうにあたりをキョロキョロと見回したのだった。
(続く)
※ 舜天さまは、沖縄の地を初めて治めたとされる人物です。薩摩藩の支配下に作成された「中山世鑑」という琉球の正史とされる書物に登場します。平安時代の終わりに暴れまわった源為朝公が、伊豆大島への流刑時代に沖縄にもやって来て、現地妻の息子として舜天さまを残し、日の本の地へ去ったと伝わります。この書物は、のちに曲亭馬琴氏作・葛飾北斎氏画の名作「椿説弓張月」の元となりました。この源為朝公も、かなり神話のスサノヲさまのような暴れっぷりでいろいろと各地の伝説が残されている人物なので、気が向かれましたら彼の伝説を調べてみてくださいね。蛇退治や天狗とのやりとりなど、日本の神話寄りな伝説がたくさん残っています。
次回予告
※ 8月2日(火)と8月9日(火) の「信長の大航海時代」は、私事で申し訳ございませんが夏のお休みを頂くことと致します。8月16日(火)に「ガーディアン・フィーリング」をはさみ、本作は8月23日(火)に再開を予定しております。どうぞご了承くださいませ。
舜天さまの困りごととは……。どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりよみんさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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