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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 六十八話「双頭の龍神から新たな神術を授かる」

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

六十七話のあらすじ

石垣島の英雄アカハチ公も加勢した、双頭のハブ蛇との対決は信長公一行の勝利となりました。その後にとむらいも兼ねてハブ蛇の体をあますところなく料理し、歌と踊りで宴会となった場に、ハブ蛇をいぶした火の煙から双頭のりゅうが現れました。彼らは、倒されたあとに弔われたことで、この地の龍神となった、と告げたのでした。

六十八話

煙の姿をしていた双頭の龍神は、たちまちのうちに実体となった。信長は、彼らがこれからはこの地を守護すると聞いていぶかしむ。

とむらわれたことで、そうも簡単に敵を許せるものでござるか? 双頭の龍神殿。 わしは、数々の武将と敵になった最後の戦い、本能寺で焼き滅ぼされるに至るまで、立ちはだかる敵、裏切った敵は誰ひとりとして許せぬと思っていましたぞ。さすが、龍となる御身おんみは違うのでありましょうな」

信長は戦乱に明けれた自らの人生を思い、双頭の龍神を敬う気持ちが強くなったようだ。

『余らは、双頭のハブ蛇として長く長く生きてきた。腹が減っては目に見える生きものをとにかく食った。いつしか食うだけの人生、いやハブ蛇の生が嫌になってしもうていてな。余らのようなオロチや蛇神の崇める虹の竜さまにうた、はるか昔にそれを言うてみたら……これまで余らが何もかもを食うてきたように、いずこかの勇士に倒され、その身を相手に捧げてやれば、徳を積むこととなる。さすれば龍神りゅうじんとなれるやもしれぬ、と告げられておったのじゃ。今日、まさにそれが叶ったぞい』
「わあ……僕らが呼び出そうとしている、虹の竜さまからおはなしがうかがえたのですね。イエス・キリストのように、その身を誰かに尽くして役立てれば、死後にハブ蛇さんも神さま……天使さまでしょうか、そのような存在になれるのですね」と、その言葉を聞いて、ジョアンはひとびとのために十字架にかけられた主、を想起したようだ。
『ほほほ! 余らが天使! なかなか面白いことを言う子じゃな』

双頭の龍神は、さも面白そうにジョアンの思いを聞いて笑った。

『酒だ、酒! せっかく龍神となった祝い酒をくれ』と、もうひとつの頭が言う。

「双頭の龍神さま! 自分と同じ、ハブ酒を飲むのか?」と弥助がさすがにびっくりした様子で聞いた。

『ときには同じハブ蛇を共食いもした身だ、まったく構わん!』とその頭の龍神が応じる。
「分かり申した、それでは、祝いの酒をおぎ致しましょうぞ」と信長。
「ほんなら、ジョアンと俺とでやりますわ、信春はん」

助左衛門が祝杯を引き受ける。

「じゃあ、お注ぎ致します! 双頭の龍神さま」とジョアンが一方の龍神の頭へさかずきを運んだ。もう一方にも助左衛門が盃をしずしずと持って行く。

「それでは祝杯を! ……倒した相手を祝うというのも不思議な心地にござるな。長らくひとや生きものを喰らったハブ蛇から、石垣島を護りなさる龍へとなられたこと、誠におめでたきことにて」

信長が祝杯をあげ、双頭の龍神はそれぞれにハブ酒の盃を空けた。

『祝いついでに、余らからは【毒撃ぽいずんあたっく】の神術しんじゅつつかわそう』
「おおきに、龍神はんの方々! ごっつう強くなれそうな神術やなあ」
『使いどころは見極めろ、最初はほんのすこしのしびれしか与えられぬが、強くなれば神術使いとして一撃で相手を打ち負かすこともできるようになろう』と、もうひとつの頭の龍神が告げた。

「どうしよう、助左くん。僕はイエス・キリストの教えもあるし、誰かを苦しめるような術は、ちょっと……」とジョアンは戸惑とまどいの表情を浮かべた。

『ならば、余がジョアンとやら、そなたに『防毒しーるどぽいずん』を授けよう。世界にはたくさんの毒がある、それらを最初はずいぶんと時間をかけて抜く術じゃが、次第にあっという間に元気を取り戻すほどの使い手になれようぞ、優しき子のそなたならば』と、双頭の龍神のひとりはいたくジョアンのその気持ちを気に入ったようだった。

「それなら喜んで授かります! ありがとうございます、双頭の龍神さま」

相手に毒を与えるのではなく、味方を毒から防ぐ神術を受け取ることとなり、ジョアンはたちまちパッと笑顔になった。

「よかったのう、神術もますます役立つこととなりそうじゃ。蘭丸、助左よ、おぬしらが【防毒しーるどぽいずん】と【毒撃ぽいずんあたっく】とをそれぞれ覚えたなら、役割が分けられて儂も心強いぞ」

信長は、だんだんと力をつけていく若者ふたりを満足そうに鼓舞こぶした。

「ふたりに神術を授けてくださったのちには、ふたたび酒の席と参りましょうぞ、双頭の龍神殿」
『心得た、信長公よ』
『おう、飲もう飲もう!』

にぎやかに喜ぶ双頭の龍神たちと、信長一行に『良かったな、旅先にそのふたつの術があればまたどこかの洞くつで毒を持つ化け物にった時、必ず強みになろう』とアカハチが笑った。

(続く)

※ 双頭のハブ蛇が、その身を誰かに捧げて龍神となる、というお話は、日本の民話にある悪さをしていたオロチが改心して龍神になる、というストーリーをどこかで知ったものをもとに、イエス・キリストの聖書におけるお話や、ヤマタノオロチなどの伝説と石垣島や沖縄に生息するハブ蛇とを合わせたアレンジを致しました。

次回予告

新たな神術と秘宝の最初の地図を手に入れた信長一行は、石垣島をあとに船出をします。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより喜業家つぼたこうすけ/感護師つぼさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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