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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 六十一話「キジムナーの火」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

六十話のあらすじ

沖縄で一行を待っていた、琉球王国の初代王、舜天公。彼からキジムナーに困っている、なんとかしてほしいと頼まれたのでした。

六十一話

信長たちは、那覇の町はずれにやって来た。琉球王国のあきなう海洋貿易がうまくいったおかげで、急速に人口が増えつつあり、家を建てて新しく森を開いたこの地に、キジムナーは出没をして、悪さをしているという。

舜天のもとを離れた二匹のシーサーがくんくんと鼻を効かせ、何かに気づいたようにこっちだ、と一行を先導していく。

『ピカピカのおうちばっかりだネ、ノッブ』

円覚寺えんかくじのおもてなしで出てきたちんすこうのひとつを取り出して、もぐもぐと頬張ほおばったあと、ゴブ太郎が町の様子を口にした。

「そうじゃな、ゴブ太郎よ。なるほどのう、最近森の木を切ったばかりということじゃな。キジムナーが木の精霊と言うならば、ややもすると……」

舜天とのお茶の場で、沖縄の風に吹かれてのんびりしきった気持ちを、なんとか元に戻した信長。彼には思い当たるふしがあるようだ。

すると、街並みの一角で悲鳴があがった。その方角を見て、ガウ、とシーサーたちが吠える。

「た、たしきー! キジムナーよう、わんやー焼いとぅ!」

『公、キジムナーがひとの家を焼いているそうです! 助けてくださいと求められています』と、住人の言葉を天使ナナシが訳した。

一行が急ぎその場へと到着すると、南国の森と人家がぽつりぽつりと点在するところで一軒の家がメラメラと燃えていて、その屋根では火のなかに赤い髪を長くらした、真っ赤な肌の子どもが踊っていた。キジムナーだ。

『もえろ、もえろ! おいらの森を、焼いたやつらの家なんて!』

キジムナーは火のなかで踊りながら、怒りの表情を浮かべている。

「森を、焼いた?」と弥助が不審そうな顔をした。

「やはりのう、弥助よ。まずはこの火を消さねばなるまいが、キジムナーの話も聞かねばならぬようじゃ」と、信長が答える。

「よっしゃ、俺らの『雨乞うぉーたーこーる』の出番やで、ジョアン!」
「助左くん、僕らの術だけで足りるかな? まだほんのちょっとの水しか降らせられないよ」
「ならば、まずはひとつのおけにふたりで雨を降らすが良い。その水の入った桶を、ゴブ太郎が分身で増やし、わしらも加わって水をかければ一気に火は消えるじゃろう」と、少年たちの発案を、信長が足す。

「それはいい考えだ、ノッブ! 桶は、オレが探してくる」

弥助が急ぎ、周りを探してすぐに桶を見つけ、戻ってきた。

「相変わらずいい思い付きやなあ、信春はん! おおきに。やったるで~、雲龍招来!」
「上様、素晴らしいアイディアです! 雲龍招来!」

助左衛門とジョアンのふたりが雨乞うぉーたーこーるの呪文を唱えると、たちまちのうちに雲龍が現れ、サアサアと桶に向けて雨を降らせた。

『この水と桶を増やせばいいんだネ!』

水のたっぷりと入った桶を抱えたゴブ太郎は、一瞬にしてわらわらと増えた。

『な、なんだ、おまえたち!』とキジムナーがあわてる。

バシャリ、ザバア、と一気に一行から水をかけられ、火は消し止められた。二匹のシーサーが、ガルルゥ、とキジムナーに飛び掛かり、その体を押さえつけた。

『おいらの負けだ! 降参だ』とキジムナーはシーサーの大きな足の下で、縮こまった。

「キジムナーよ。ひとの家を焼くほどのことを致すには、それほどの思いが溜まりに溜まった理由があろう。儂らが話を聞くゆえ、ひとまずこの火の悪さはやめようぞ」

信長がそっとキジムナーをさとす。

『お、おいらの話を聞いてくれるのかい? そんなひとがいたなんて! うわあああん!』

キジムナーは大粒の涙をこぼして、泣き出した。

(続く)

※ キジムナーは沖縄の地に伝わる木の精霊(妖怪)で、気に入られるとご利益をもたらしますが、怒ったり嫌われたりすると、とんでもない悪さをする、とされています。今回のお話はその悪さのひとつである、不審火はキジムナーのしわざ、キジムナー火という言い伝えをもとに致しました。

※ シーサーたちは、沖縄に火から家を守ると伝えられてきた守護獣で、「獅子しし」がシーサーになった、とも伝わります。現代では邪気を払うお守りとして、民芸品の沖縄定番のおみやげにもなりました。

次回予告

キジムナーの怒りのわけを聞き、信長公一行は……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより四葉の幸せさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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