人生は５０から！　信長公、アフリカへ行く　五十五話「ティダルの想い」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが：　みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ：　本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発たつ。

ジョアン/ジョヴァンニ：　没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん：　堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎：　ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ：　本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

五十四話のあらすじ

偽司祭の悪鬼ファルソディオをなんとかするため、虹の竜を呼び出す１２の秘宝を世界に求めて冒険と商売の旅に出た信長公一行。台湾の緑島りょくとうでアミ族に歓迎された一行が、朝に目覚めると巫女のティダルが海の神フララクスにさらわれてしまっていました。海中へと行ける羽織を持つ、公と弥助、そして東洋の少年神哪吒なたさまが救出に向かいます。

五十五話

赤や緑、さまざまなサンゴや海藻が揺らめく水中を、哪吒が先導していく。ほどなくして、海の神フララクスの宮殿は見つかった。

日の本の海の女神豊玉姫とよたまひめの住んでいた、きらびやかで多くの配下の魚たちが守っていた宮殿と形は似ているが、誰かがいるという気配が薄い。門番は誰もいなかった。

「なんと、不用心じゃのう」
「ノッブ、海の神も景気のいいのと、悪いのがいるのかな？」

信長の言葉に応じ、弥助がジョークを飛ばす。

『海の神フララクスは、乱暴で気まぐれだ、っていう噂うわさだよ！　神々の世界でも。嵐の神でもあるからねっ』と哪吒。

「うっ……本能寺の変の直前、増長しすぎた儂わしを思い出すわい」

信長は、フララクスのことを他人と思えなくなったようだ。

無人の宮殿の奥へと進むと、何やら楽しそうな談笑をする男と女の声が聞こえてきた。女の方は巫女ティダルだ。どうやら、彼女は無事らしい。

「ティダル殿！　無事でござるか」

奥の間に、信長は入った。がらんとした大きな部屋に、ティダルと、ぼさぼさの髪をした、荒くれもの風の男がいる。

『まあ、信長さま！』とティダルが笑みを見せる。

「さらわれたと聞いて、助けに参りましたぞ」

『そうですか！　それはほんとうに、ありがとうございます。ただ……』

信長に対し、ティダルはすこし口ごもってから、意を決したように続けた。

『フララクスさまは、このように誰もいない宮殿にお住まいだったのです。そのために、あまりに寂しくてわたくしを嫁にと、さらってしまったようなのですね』
「なんと、さようでござったか」
『巫女として、これほどまでに荒れ、誰もいなくなった宮殿にフララクスさまをこれからもおひとり、とするわけにもいかないと思いまして』

ティダルが、となりに座り、寂しげな顔のフララクスを見やる。

『さらってきたのは、悪かった！　しかし俺も、もう、ひとりだけで宮殿に暮らすのは嫌なのだ』

フララクスは正直に詫びた。

「そうか。寂しいのは、人間も神さまも同じなんだな、フララクス」

弥助がその立場を慮おもんばかった。

『じゃあさ、こうしたらどうかなっ？』

哪吒がふと、アイディアを思いついた。

「何でござるか？　哪吒殿」

『太陽が、朝から夕方まで出てるときは、ティダルはアミ族の村にいて、日が沈んだら朝まで、この宮殿でフララクスといっしょにいたらいいんじゃない？　いっしょにいる時間を、アミ族のひとたちと、フララクスと半分こで』
「そうか、それならどっちにも寂しくないな」と弥助。
『どうなの？　フララクス』

哪吒の問いに、フララクスは頷いた。

『夜の限りなく寂しいこの宮殿に、太陽のような巫女、ティダルがいてくれるのなら、十分だ』

「ならば決まりじゃな。無理やりさらったと聞いて、大悪党と思うとったが、ティダル殿に乱暴を働くような様子もなさそうじゃ。この荒れて誰もいない神の宮殿、そこに住まうフララクス殿を、巫女のティダル殿が放っておけないのも理解が出来まする。ティダル殿が、良いのならば日が昇り、沈むまでをアミ族のひとびとと、夜のときをフララクス殿と、過ごすことで解決じゃ」

信長はそう応じ、話をまとめたのだった。

（続く）

次回予告

ティダルとフララクスとの話をまとめた信長公たちは、アミ族の村へと戻ります。どうぞ、お楽しみに～。

※　見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりもぐもぐハリネズミさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。