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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」38話 恋人たちはノマド .af(アフガニスタン1)

37話のあらすじ

メタルクラッド飛行船に乗って、アラブ首長国連邦からアフガニスタンへ移動中の絵美が持つ万能通信アイテム、コミュニ・クリスタルと、日本にいる彼女の姉真菜の持つ、宇宙人たちのグループ「全天21星連合」が作った黒いペンダントとの通信によって、絵美と真菜、そして彼女たちの家族はみんなで語らう時間を持つことができた。そして、宇宙人リトルグレイとシリウス星人も加わって、絵美と真菜の一族が代々守ってきた日本家屋の縁側で記念撮影をしたのだった。

38話

場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 18才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること

アフガニスタン。アラブ首長国連邦と同じ、イスラム教が主に今も息づく土地で、古来からさまざまな文明と勢力とがやってきたところだ。10万年前には、すでに人々が暮らしていた跡があることは分かっている。

文明としてはあのインダス文明、メソポタミア文明や、イランのペルシア湾に面した地で花開いたエラム文明の影響もあり、インダス文明とほぼ同時期に、都市の高度な暮らしをしていたことが分かっているオクサス(第五)と呼ばれる文明があったことも。

そのころから、この地の古い文明は新しい文明に吸収されたり、あるいは戦争によって滅ぼされてきた。ペルシア帝国の侵略もあったし、アレキサンダー大王の侵略もあった。古代インドのマウリヤ朝に支配されたこともあって、そのころに仏教やヒンズー教が広まっていったらしい。

2世紀ごろからはシルクロードのひとつの通路として仏教が中国や中央アジアへ伝来もした。アフガニスタンのほぼ中央にあるバーミヤンは世界遺産にも登録されていて、悲しいことに、当時のタリバンという勢力に2001年、貴重な仏像の遺跡が爆破されたことで有名にもなった。

イスラム勢力の狂信的な人間たちがやったのだ、と当時はそういう論調が多かったのだけれど。現地の彼らからすれば、戦争の苦難にあえぎ、貧しくて餓死する人間が大勢この地にいるのに、それを誰も顧みず、世界遺産の仏像へお金持ちの旅行者が殺到する事態に腹を立ててやった、とも言われている。

「アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない、恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」という当時の映画監督の言葉が、23世紀では貴重な紙媒体の本でも残っている。

2001年は苦難の年で、同年の9月11日にはアメリカ本土で大規模な同時多発テロ事件が発生した。ニューヨークの世界貿易センタービルはハイジャックされた4機の航空機のうち、2機の衝突によって崩れ落ち、何千人というひとびとが命を失い、2万人以上のひとびとが負傷した。この事件の首謀者をかくまったという主張をもとに、アメリカを中心とした軍隊が、首謀者を匿ったひとびとであるタリバンを敵として、アフガニスタンに攻め込んできた。

アフガニスタンでの、アメリカの侵攻による死者は17万人とも言われ、軍人・警察が12万人、民間人が約5万人、直接の戦争による死亡では無いものの、それによる餓死者や病死者などを含めると、もっと多い。

それから20年後、2020年にはアメリカとタリバンとの和平交渉が署名をもとに行われ、その後もタリバンの攻勢があったものの、アメリカ軍の撤退が決まったことにより、この戦争は終結となった。

アメリカ軍が駐留していたころから進められていた、国連WFP、国際連合食料計画による、アフガニスタンで飢えに苦しむひとびとへの食料支援は政権がタリバンに変わってからも続けられた。

気候変動の影響が大きい洪水や干ばつ、渇水、そして地震などの影響もあったけれど、日本のお医者さんであった中村哲さんの始めた土地やひとに負担の少ない農業や医療支援なども現地のひとびとに広がっていって、23世紀の今は、みんなが食べていけて、戦争のない国になっている。

アメリカ軍が撤退したときは、無法者というイメージの強かったタリバンを恐れたひとびとが大混乱に陥って、脱出しようと殺到したアフガニスタンの首都の、カブール空港。

僕と絵美を乗せたメタルクラッド飛行船は空港に降り、今はとても静かなその地に僕らははしごを使って到着した。空が抜けるように青い。美しい空の広がる地球で、僕らの祖先は何千年ものあいだ、馬鹿馬鹿しい殺し合いや戦争を続けてきたわけだ。21世紀の中頃までには核廃絶も進んで、ヒロシマとナガサキのあとに一度も核戦争は起きず、23世紀を迎えられて本当に良かったと思う。

『このアフガニスタンでもようこそ、ジョニー、絵美』

パタパタと翼をはためかせ、空港の青い空に大天使ガブリエル……いや。この地ではジブリ―ルが浮かんでいる。

「わー、ジブリ―ルさま、ずっとメタルクラッド飛行船といっしょに飛び続けていたんですから、お疲れじゃないですか?」

絵美がすこし心配そうな顔をする。

『大丈夫ですよ、天使は疲れたりしないものです』

ジブリ―ルがよいしょー、と似合わない小さな力コブを主張して、絵美と微笑むそのやりとりを見て、僕は今このときをかけがえのない平和があるのだ、と感じた。

(続く)

次回予告

大天使ジブリ―ルとともに、ジョニーと絵美は新たな守護者の誕生の地へ……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりHIRO.Yamashitaさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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