人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 七十一話「平戸へ帰る」
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
七十話のあらすじ
那覇にて、舜天公に石垣島で世界の秘宝の手がかりが見つかったことを報告した信長公一行。舜天公は、村はずれへと一行を連れて行き、そこではかつてキジムナーをののしった村人も新しい森を育てていることを知らせたのでした。一件落着、一行は沖縄を出港し、平戸へと向かいます……。
七十一話
海の向こう、平戸の島々が見えたとき、助左衛門は思わず歓声をあげた。
「平戸や、平戸に戻ってきたで~! 済州島に澳門に、台湾に沖縄! これからもっと旅する、まん丸っちゅう大きな世界よりは日の本に近いんやけど、それでもずいぶんと長くて濃い旅だったわ~」
「そうだね、助左くん。僕ら、無事に平戸へ戻ってこられて良かったよ」とジョアンも相づちを打つ。
「分かるぞ、助左よ。刺身と醤油と味噌汁が恋しいのう」
「やっと、まつさんに会えるな。良かったな、助左」
信長、弥助も加わり、甲板の上で久しぶりの日の本が近づいてくるのを見ながらの会話が弾む。岸辺が近づくと、平戸の老隠居の実力者である松浦隆信の娘、助左衛門と夫婦になったまつ姫が迎えに立っているのが分かった。
姫が愛らしく手を振って一行を迎える。
「住吉の神さまがたに、皆さまが平戸へ来るとの知らせを受けました! お帰りなさい、信春さま、弥助さん、ジョアンさん、……それに、助左さん。よう、帰ってきたとね」
船の上の一行に向けて、まつは微笑んだ。
「まつさ~ん! 帰ってきたで~!」
助左衛門がぶんぶんと強く手を振り返す。船と陸地の距離がなければ、姫のもとへ飛んでいきそうな勢いだ。
「無事でまこち良かったばい、皆さんも、助左さんも」
「船の商売もぼちぼちうまくいってるし、お土産もぎょうさん買うてきたで~。まつさんの聞きたい、俺らの冒険の話も、始めたらきっと止まらへん」
「楽しみばい! 助左さん……それと、父さまから、ほんの少しだけ旅の許可を頂いたけん、これから信春さまに船で壱紀の島まで行かせて頂けるよう、お願いしたかと」
「壱岐の島やて? えらい古くからのすみよっさんのお社のあるとこやな」
「ええ、住吉の神々の方々へ、わたしと助左さんの結婚を、お礼に」
「すみよっさんに! そら行かなあかんわ〜。そういうことやけど信春はん、ええでっしゃろか」
「もちろん良かろう、さようなことは朝飯前じゃ、助左、まつ殿」
若い夫婦となったふたりを前に、信長は彼らのハネムーン旅行を快諾したのだった。
(続く)
※ 壱岐島は平戸にも比較的近い、朝鮮半島と日本の航路をつなぐ重要な場所として古くからひとびとが利用している島です。神話では、伊弉諾尊さまと伊耶那美命さまが日本の島々をお産みになった際、五番目に誕生した島として登場します。詳しいことは、次回以降に。
次回予告
まつ姫を船に乗せ、信長公一行は壱岐島へと……。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーより*michi*さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?