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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 七十二話「壱岐のイルカを見る」

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

七十一話のあらすじ

日の本の北の地へと向かう航路の途中、平戸へと寄港した信長公一行。夫婦となった助左衛門とまつ姫を乗せて、彼らのすみよっさんへの結婚の報告とお礼をしに、そしてハネムーン旅行として壱岐島いきのしまへ渡ります。

七十二話

朝に平戸の港を出たキャラック帆船「濃姫号」は、海の女神豊玉姫とよたまひめや住吉三神の加護もあってか、帆に順風を受けて夕方には壱岐島の近くへと到着した。

「あっ、まつさん、イルカや。イルカがおるで」
可愛かわいか~」

壱岐島に住みかのあるイルカたちなのか、キャラック帆船の航路に寄り添うようにして数頭が付いてくる。水上で弧を描くと、きらきらと夕日に彼らの水しぶきが映えた。

「……なんとも仲睦まじきは良きことじゃが……イルカとな、わしも甲板へ見に行きたいのう」

こっそりと、船室から外のふたりの様子を見て信長が言う。

「今はやめておきましょう、上様……。助左くんとまつさんの良い雰囲気の邪魔になっちゃいます」

そわそわと甲板へ行きたがる信長を、そっとジョアンがたしなめた。

「ノッブ、トランプでもやってよう」
「……そうじゃな」

弥助の発案に頷いて、三人で船室の中でトランプに興じ始めた、そのとき。

『ヨーソロー! ノッブ! みんな! 壱岐島だヨ! わあ~、イルカが来たヨ、いっしょに見ようヨ、キジムナー!』

帆柱から元気なゴブ太郎の声が降ってくる。あちゃあ、とジョアンと弥助は苦笑した。

「……ゴブ太郎くんとキジムナーくんまでは、ノーマークだったね、弥助兄さん……」
「ああ、ジョアン」
「ふむ、ゴブ太郎が呼ぶのであれば致し方あるまい!」

信長は早々と甲板へ出た。数頭のイルカが踊るように美しいそれぞれの弧を作って海の上を跳ねていく姿を目にとめる。

「イルカか……綺麗なもんじゃのう」
『そうだネ、ノッブ!』と、甲板に降りてきて、キジムナーといっしょにイルカを見ていたゴブ太郎は無邪気に笑う。
「でかしたぞ、あとで褒美の菓子をくれてやるわい」
『……? オイラ、ノッブとみんなを呼んだだけだヨ』
「かかか、それが立派な仕事だったのじゃ! おかげでイルカの舞を見逃さずに済んだわい」
『ふふ、もしかしてふたりに気を使っていたのかい? ノッブ』と、キジムナーがそっとささやき声で聞いた。
「バレていたかの。そうじゃ、できればふたりの良い雰囲気を、邪魔はしとうなかったのでな」
『……それなら、大丈夫そうだよ?』

キジムナーはそう言って、甲板のふたりのほうを向く。

「ああ、まつさん。この時間がいつまでも、いつまでも続くとええなあ♡」
「助左さん……こげん良か旅やけん、わたし、まこちしあわせばい♡」

夕日に色づくイルカの舞を眺めながら、ふたりはふたりの世界を完璧に作り上げていたのだった。

(続く)

※ 壱岐島は「魏志倭人伝」などの歴史書にもその名が見える、古来からの朝鮮半島や大陸と日本とを結ぶ要衝ようしょうのひとつです。日本の神話では古事記に「伊伎島」の名で記述があり、別名を「天比登都柱あめのひとつばしら」とされています。伊弉諾尊いざなぎのみことさまと伊弉冉命いざなみのみことさまの夫婦神から5番目に誕生した島です。

古くからの住吉社も、いろいろな神さまがたのおやしろも、現在では神社庁に登録されているだけでもその数は150を超えます。麦焼酎の発祥の地でもあると伝わっていて、食も美味、源泉かけ流しの温泉もあるそうです。

今回のお話のイルカのシーンは、壱岐島のイルカとひととのふれあい体験が出来る「壱岐イルカパーク&リゾート」さんの取り組みからインスピレーションを頂きました。

次回予告

壱岐島で一行を待っていたすみよっさんの一柱、底筒男命そこつつのおのみことさまと、信長公一行は夫婦となった助左衛門とまつ姫を祝福します。

※ 来週の1月31日(火)は、これまでのほぼ一年の「信長の大航海時代」をまとめた記事となります。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりニッポン観光連盟さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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