創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」17話 絵美とジョニーと周りのひとびと
16話のあらすじ
絵美のボーイフレンド、ジョニーは、彼の父ザックから謝罪の言葉を受けて関係を和解した。そして、勇気をふりしぼって絵美に愛の告白をしたのだった。ここからは、絵美の記録。
17話
日時: 2222年2月27日 冬の恋人の日(火星自然創生コロニーにて)
記録者: 絵美(エミ) マイジェンダー: やや女性 16才
出身地: 日本 趣味: ネコとたわむれること
わっわっわっ! あたしは、宇宙にでも意識が飛んじゃったみたいな気持ちになった。舞い上がる気分ってやつ。しかたがないよ! たった今ジョニーから愛の告白を受けたんだから!
「絵美。ガールフレンドは今日までにして、これからは僕の恋人になってくれませんか?」
もちOK! でも、何て言って返せばいいんだろう。うれしすぎるときって、感動が先に来てなかなかうまい言葉が出せなくなっちゃう。
「……あたしも、ジョニーのことが大好き。これからもお付き合いのほど、よろしくお願いします」
どうかな。変じゃなかったかな?
あたしの返事を聞いて、ジョニーがふぅー、と大きく息を吐いた。
「良かった……断られたらどうしようって思ったよ」
「そんなわけないじゃん!」
「僕はデザイナーベイビーなんだよ? ……その、この先のこととして遺伝子のことは恐くないの?」
「その事実もぜんぶ含めてジョニーはジョニーなんだから。あたしが好きなのは、そのジョニーなんだよ」
「……本当にありがとう。火星に来て良かった」
ジョニーが泣きそうだ。
「あたしたち、恋人になったんだから、火星の滞在期間の完了を合わせてもらって、一緒の宇宙船で地球に帰ろうね。そのくらい、融通(ゆうずう)はきくと思う」
「そうだなあ。帰る時のことなんて、あんまり計画を立てていなかったけど。地球に帰っても一緒にいたいよ、絵美」
「うん! 地球から火星に来た人は、まだまだ少ないほうだから。あたしたちふたりで、いろんな国とか地域を回って火星滞在の面白さとか、大変だったこととか、話して回る仕事が出来るよね」
「そっか! いいね、絵美はそんなことも考えてたんだ」
「せっかくのご縁だもの。ジョニーとは、ずっと一緒にいたいってあたしも思ってる」
ジョニーの告白に、あたしもずいぶん気分がハイになってるみたい!
「地球を巡る旅を僕らふたりで出来るって思ったら、早く帰りたくなってきたよ」
「うん! でもジョニー、一番早くこの火星の滞在期間を終えても、宇宙船で地球に帰れるのは三年先だね。コールドスリープを使えば、肉体的な年はとらないけど」
23世紀の今、地球と火星の行き交(か)いは無重力空間でも宇宙船の中の生命体が暮らしやすい、ゆっくりとした移動を想定したものに変わっている。昔にあったロケット噴射のような成層圏までの重力を離れるための装置が付いているものはほとんど無い。宇宙エレベータがロケット噴射に代わって地球や火星の周回軌道まで人や物資を運ぶからだ。
あたしたちが使う火星自然創生コロニーのメンバーのために作られた、地球と火星を行き来する宇宙船は、大きな葉巻(はまき)型。
葉巻型の宇宙船の内部は、三年の時を無重力のなかで暮らすためのエリアと、コールドスリープ、冷凍睡眠の機能を使う人間を含めた生命の保管庫のエリアがある。地球と火星のあいだを航行するとき、その三年間を起きているか、コールドスリープで眠るかは、出発時に選択できるんだ。
あたしは、面白そうだから行きは三年間を無重力のほうで暮らしてみたけど。むちゃくちゃ大変だった! 帰りは絶対にコールドスリープにするって決めている。火星の共用コロニーで、譲渡してもらった飼いネコのタマも帰りは一緒だから、無重力でタマにエサをやったり遊ばせたりするのも大変だし、ネコの命の三年間は決して短くないことを考えたら、一緒にコールドスリープがいいよね。
「三年後か。そのころには、父さんや母さんや、ローズ姉さんがかかった感染症も落ち着いているかな」
「うん! きっとそのくらいの時間があれば、ワクチンだって出来るし、人類としての免疫力(めんえきりょく)だってつくだろうし、たくさんのデータをもとにしてAIが個人に最適な薬を選択することだって出来るようになってるよ」
「そうだね。うん、ほんとに帰るのが楽しみになってきたよ、絵美」
ジョニーが微笑んだ。
「あっ、そうだ。地球のことで思いだした。お姉ちゃんに頼まれてたことがあったんだっけ」
そう! 先日、珍しく地球の故郷、日本から「コミュニ・クリスタル」にお姉ちゃんの連絡があると思ったら。お姉ちゃんから、宇宙のスペースデブリの回収作業の仕事をしたいっていう希望を聞いたんだった。
「君のお姉さん?」
「うん、真菜お姉ちゃん。……今まで、12才から始まるいろんな仕事の体験プログラムを試したんだけど、どれもなかなか続かなくてね。でも家のことをやってるんだから、それでライフキープマネーをもらってれば別にいいじゃんっていう気もあたしはしてたんだけど、本人がちゃんとした仕事をしていないっていう気持ちがすごく強くて」
「そうなんだ」
「うん。でも先日に、地球の空に浮かんでる宇宙ゴミ、スペースデブリの回収作業がやってみたい、絵美、頼ってもいい? ってお願いされてたんだ」
「スペースデブリか! 地味だけど、とても大切な仕事だね」
「うん。あたしたちが働いてるこの火星自然創生局は、ちょっと部署が違うけど、それでも宇宙の仕事をしている人つながりで何とかなると思うんだ」
「そうだね、絵美。……お姉さんの役に立ってあげたらいいよ。生きている、うちに」
ジョニーの表情がすこし陰(かげ)りを帯びた。……きっと彼のお姉さん、感染症でつい最近亡くなってしまったローズさんのことを考えたのだろう。死者や神さまがたとお話ができる「コミュニ・クリスタル」があっても、触れることが出来なくなることは、とても悲しいよね。
あたしは、努(つと)めて明るく言った。
「うん! 地球に帰ったら、真菜お姉ちゃんにも会ってね、ジョニー! お姉ちゃんは大和撫子(やまとなでしこ)のいい女だから、浮気したら許さないからねっ」
「ははは、心配ないよ、大丈夫。僕の両親や、お世話になっているひとにも会ってほしいな」
「うん、楽しみだね」
「じゃあ、また」
「またね、ジョニー」
それで、ジョニーとの通信は終わった。
さあ、お姉ちゃんと話そう。あたしはヘアアクセとしてポニーテールを留めている「コミュニ・クリスタル」を使って意識を集中した。
「……絵美?」
「お姉ちゃん! 先日聞いてた、スペースデブリの仕事、何とかなると思うよ」
「ほんとに?」
「うん。スペースデブリ拾いとは言っても、一応宇宙の仕事だから、体験プログラムもちょっと長くなるかもしれないけど……やる?」
「うん」
「じゃあ、決まりだね。宇宙で仕事をしているひとつながりで、連絡しとく」
「……ありがと、絵美」
!! お姉ちゃんから、感謝の言葉が出た! どうしたんだろ、今までと違ってすごく積極的な気がする。何かあったのかなあ? でもうれしい変化。姉妹ふたりで宇宙の仕事をすることになるなんて、お父さんやお母さんもきっとびっくりだよね!
(続く)
次話予告
18話は、三年後の地球。絵美の姉、真菜はスペースデブリ拾いのリモートワークにもすっかり慣れ、仕事に勤(いそ)しんでいた。真菜の記録。
どうぞ、お楽しみに~。
※見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからフジさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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