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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 六十六話「石垣島の洞くつ」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

六十五話のあらすじ

澳門マカオの偽司祭、悪鬼ファルソディオをなんとかしようと、虹の竜を呼び出す世界の12の秘宝を求め、キャラック帆船「濃姫号」に乗って冒険と商売の旅をする信長公一行。沖縄で石垣いしがき島にそのひとつがあるのでは、という情報を入手しました。到着した石垣島で彼らを待っていたのは石垣島の英雄アカハチ公。彼との相撲勝負に勝った信長公は、石垣島の鍾乳洞しょうにゅうどうへと案内をしてもらい、ともに洞窟の奥へと探検を始めました。

六十六話

石垣島の鍾乳洞は、20万年の歳月をかけて自然が作り出した、それはもう大きく広い穴だった。助左衛門が指先にともす火の先、つららのように垂れる鍾乳石しょうにゅうせきを見た信長は「綺麗なものじゃのう」と思わず感嘆の声をあげた。

パタパタと音がして、鍾乳石が連なる天井のあたりを飛んでいるのはコウモリだ。火の術が、コウモリの影を長く伸ばして鍾乳石の壁にうつす。

「かわいいコウモリだな、ノッブ。ここのコウモリは、血は吸わないんだな」と、弥助がさりげなく物騒なことを言った。

「なんと、弥助よ。血を吸うコウモリも、世界にはおるのか」
「いる。興奮してひとを襲ってくると、すごく厄介だ」
「さようか……。これほど石垣島の鍾乳洞が美しいのであれば、血を吸うコウモリがおろうと、世界中の洞くつも見てみたくなるのう。ファルソディオのやつよ、なかなか楽しい場所にわしを行かせるきっかけを作ってくれたものじゃわい」
「上様、それでも迷子になってしまったら大変ですよ」とジョアン。
「かかか、今回はアカハチ殿もおられるし、いざとなれば天使ナナシを呼ぶわい。天使ナナシは壁を通り抜ける術を使えるからのう」
「さいでっか! それを聞いて安心しましたわ、信春はん。あまりに広くて迷って死ぬまで出られへん、にはならへんのやな」

助左衛門がほっと息をつく。

洞くつの、数々の行き止まりに落胆したり、洞窟のなかの泉を眺め、その水琴窟すいきんくつとなって響く流れの音を楽しんだりしながら、一行は奥へ奥へと進んだ。

きらり、と洞くつの奥に、何かが光った。それは、小さな宝箱だった。

「わあ! きっと、これですね」とジョアンが歓声をあげる。
「秘宝に関わる、箱か……それほど大切なものならば周りになにか仕掛けがあるやもしれぬな」

信長は、城を護る際には数々の罠や、守り側の使いやすい工夫をしたことを思い出して用心をする。

一行は、箱の周りに罠が無いかを探った。幸い、今回は自然の鍾乳石が並んでいるだけのようだ。

「……さすがに、城のように攻め来る者どもへの仕掛けはなかったか。ひと安心じゃのう」
「ほんなら、俺が開けますわ。このくらいの箱のかぎなら、なんとかなりますさかいに」

助左衛門が箱を探って、鍵を開ける。中には、一枚の羊皮紙が入っていた。

「これは……新しい地図だ、ノッブ」と弥助。
「地図に一本の線が引いてありますね、上様。……これは、北半球の緯度を示しているみたいです」

ジョアンが入手した地図を見て、告げた。

「緯度とな?」
「はい。紙の地図で、場所を示すときには経度と緯度を使うんですけど、この地図はこのあたりの海と陸が書いてあって……。北緯の線です」
「ほんなら、ジョアン。もしかすると、経度の線のある地図が、もう一枚あるんやないか?」
「箱の中には。この一枚しかなかったけど……。そうだね、聖アントニオさまに頂いた世界の12の秘宝の地図の、細かな位置が、経度の線のある地図と合わせると分かるのかも」
「なるほどのう! ではこの一枚を持ち、もう一枚の経度の地図とやらを探してみようぞ」
「はい、上様!」

一行は洞くつをさらに探してみたものの、経度の線のある地図は見つからなかった。

「ここにないなら、聖アントニオさまからもらった地図の、次の印のところだな、ノッブ」
「そうじゃな、弥助よ。次の目標地、北の蝦夷へと行くのが楽しみになってきたわい」
「はい、これから行くところで、きっと新しい地図が見つかりますよ、上様」
「せやな、信春はん! 旅は始まったばかりやで~」

四人は手がかりの地図が見つかったことを喜んだ。

『……洞窟の探検は終わったか? 良いものが見つかってよかったな』と、アカハチが一行の探索をねぎらう。

帰りの道を歩く。すると、鍾乳洞の出入口にさしかかろうとしたとき、シュルシュル、と何か生きものが這う音が聞こえてきた。シャアア、と威嚇いかくの姿勢を見せたのは、なんと頭がふたつある、双頭の巨大なハブ蛇だった。

(続く)

次回予告

信長公一行とアカハチは、力を合わせて双頭の巨大なハブ蛇と戦います。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりらいむさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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