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創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」44話 恋人たちはノマド .af (アフガニスタン7)

43話のあらすじ

ジョニーと絵美とが視線を交わす儀式に、歌と踊りが加わった。現れたのはナーゾ・アナー、アフガニスタンの母と呼ばれる女流詩人だった。彼女とともに、運転手ガブリや大天使ジブリ―ルも、イスラムの学びマドラサへ向かった……。

44話

場所: 地球、アフガニスタン(ドメイン .af)

記録者: ジョニー  マイジェンダー: やや男性 18才

出身地: ブリテン  趣味: ネコとたわむれること

ガンベリ記念公園から、ガブリさんが運転する4WDのジープに乗って、新たなアフガニスタンの守護者ガーディアンとなった伝説の女性詩人ナーゾ・アナー、大天使ジブリ―ルとともに僕らは中村哲さんが建設したと伝わる地域の大モスクとマドラサへ移動した。

マドラサは、イスラムの伝統と文化のなかにおいて、祈りの場であり、また金曜日の礼拝「ジュンマ・プレイヤー」において各地の首長さんたちが集まって、地域のさまざまなことを話し合うモスクの近くに建てられる神学生タリバンのための学び舎だ。

21世紀が始まってまもないころ、アメリカや西欧の国々と敵対し、またアフガニスタンの地でほとんどの者が旱魃かんばつや洪水で農地が疲弊し、餓死者が続出するなかで、お金持ちの外国人が仏教遺跡に殺到する世界の矛盾に怒りもあり、仏像の爆破をしたことで、タリバンという言葉は野蛮な宗教テロリスト、という直訳を世界の認識ではともなうことになった。

だけど、本当の意味での神学生、を示す言葉のタリバンは、アッラーのもとに人生において良き学びを続けていくひとびとのことだ。

彼らの学びの場であるマドラサは、コーランをもとに学びを進めるところで、地域によっては科学技術や先端の知識を誰でも学べるような生涯学習センターとして、また、飢餓や戦争などで孤児が出たら、彼らの保護を担う場所としても機能する。戦争になってもアラブの地域でストリートチルドレンがあまりいなかったのは、このマドラサがあったからだとも聞いている。

だけど、21世紀の仏像爆破で、狂気のテロリストとして扱われることになったタリバンと、その思想の母体であるイスラム教のモスクやマドラサを支援する世界の団体はそのころ無くて。

中村哲さんが住民の望みを丹念に聞いたことで、地域の復興にはモスクとマドラサが欠かせないと判断し、アフガニスタンの外からの支援団体では初めて用水路とともに建設した。

それが、今から行くモスクとマドラサだ。

アフガニスタンでは、伝統的に男の子と女の子は別々に学ぶそうなんだけど、今日だけは中村哲さんが建てたマドラサに、アフガニスタンの新たな守護者に会いに、そして僕らの火星滞在体験を聞きに、集まるのを大人たちが特別に許可してくれたらしい。

4WDジープが止まる。ひとびとが中村哲さんから受け継ぎ、大切にこれまで守ってきたモスクとマドラサに到着だ。

遠景に峻険しゅんけんな山々、ふもとに緑野へと変わった大地、そのなかに21世紀から守られてきた古式ゆかしい形の大モスクとマドラサ。

23世紀の地球では木材利用が盛んで、さらには植物樹脂の研究が進んで最近発明された、2万年以上耐久性を誇りつつ、溶液を使うことでいつでも自然に簡単に戻せる建築資材「アプサラス・オリーブ」が出来たから、建物は木材と「アプサラス・オリーブ」を使うことが多い。

石材せきざいや鉱物資源で新しく建てるのは、どうしても生きていたという証をしっかり残したいひとたちのお墓やモニュメント、そして強い放射線を遮断する必要のある宇宙ステーションや火星のコロニーくらいなものだ。

だけど、ここのモスクとマドラサは、200年以上昔の、そのままの姿だ。きっと、中村哲さんを思慕するひとたちが、建設されたときのその姿を守りたい、と23世紀の今日に至るまで、中の資材の補強は老朽化にともなって行いつつ、かたちはそのままにしてきたのだろう。

モスクから、そしてマドラサから、大人たちや子どもたちがたくさん出てきて、僕らを迎えてくれる。

「アッサラームアライクム!」
「サラーム!」

あなたの神に平安あれ、とアラビア語の挨拶が次々に聞こえる。彼らの手には、万能通信アイテムのコミュニ・クリスタルを持つひとたちは少ない。だけど、コミュニ・クリスタルを持った神学生タリバンのひとがすぐにその場で訳してくれるので、特に問題はないみたいだ。詩をお互い即興するポテンシャルのあるアフガニスタンのひとびとならば、それで十分なのかもしれない。

『ワ アライクム アッサラーム』

あなたにも平安あれ、とナーゾ・アナーがにこやかな挨拶を返す。僕らもそれに続いて「ワ アライクム アッサラーム」を返した。

(続く)

次回予告

アフガニスタンの新たな守護者、ナーゾ・アナー、そしてジョニーと絵美たちは、モスクとマドラサに集まった子どもたちやひとびとと対話をする……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりD Tsujimoto┃wabi-zen s.u.a.r.l代表さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


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