見出し画像

人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 六十二話「キジムナーの話を聞く」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

六十一話のあらすじ

琉球王国の初代王、舜天から悪さをしているキジムナーをなんとかしてほしという依頼を受けた信長公一行。悪さをしている場所へ行くと、町のはずれで、一軒の家をキジムナーが燃やしていました。シーサーたちとともに、それをやめさせた信長公一行。しかしキジムナーのほうにも、家を焼いたほどの怒りを持つ理由があったのでした。

六十二話

『これ、ちんすこうっていうんだヨ! キジムナー、食べル?』

うわああん、と大泣きしていたキジムナーは、そうしてゴブ太郎に差し出されたお菓子のちんすこうを素直に受け取った。

『こんなおいらに、ありがとう』

礼を言ったあとで、ひっく、ひっく、と嗚咽おえつを漏らしている。

「さて、キジムナーよ。ひとの家を焼くほどのわけを、わしらも聞こうぞ」

儂とて、かつて寺をも焼いた身ゆえな、と信長が親身になって苦笑いを見せる。

『ほんとに、おいらの話を聞いてくれるんだね。……この村ができたところは、みんなおいらたちキジムナーが住んでいたんだ。大きな木がたくさん育った、立派な森だったんだよ。なのに、最近ひとが増えたからって、どんどんと家を増やすために、ひとが森を燃やしていった。ひとの家は増えたけど、大きな木に住むおいらたちキジムナーは住んでいた森がなくなっちまった! それで、どうにも腹が立ったんだ」

「なるほどのう。相手の無体な仕打ちに腹が立ったというわけじゃな。儂も、名だたる寺を焼いたことのある地獄行きも当然の身ぞ。腹が立った相手を火にかける気持ちはよう分かる。しかしの、キジムナーよ。相手を地獄に落とした者は、いずれ自らも地獄に落ちるのじゃ。儂は、寺を焼いたのち、火を放たれることとなったゆえに、そのことがよう分かっておる。同じことをしてやる、というままではらちがあかなくなってしまうわい」

『だけど、住みかの大きな木がないおいらは、どこへ行けばいい!? 豊かな森は、もう無いんだ』と、キジムナーは小さな肩を落としてうつむいた。

「弥助よ、精霊とやらにはおぬし、詳しかろう。なにか妙案はないか?」

信長が弥助に問う。

「そうだな、キジムナー、どこかに精霊の仲間はいないか?」

弥助はキジムナーに優しく聞いた。

『沖縄の、島の奥にはまだおいらたちもちょっとは残っているけど……どうせまた、ひとが増えれば森を焼いて家を建てるんだろう? おいらは、もうこんなところにはいたくないや』

「せやなあ、舜天はんに頼まれた手前、キジムナーのあんさんをこのままにしておくのもあかんねんな」と助左衛門。

「じゃあ、キジムナーくん。海の向こうに行こうか?」と、ジョアンがアイディアを思いついた。

『海の向こう? ニライカナイでも行くのかい』とキジムナー。

「ニライカナイ(天国)へはちょっと無理かもしれないけれど、船に乗ってここじゃないところで住みかを探すのはどうかなあ」

「ふむ。蘭丸よ、儂らの船にこのキジムナーを乗せて行く、というのじゃな」

「はい、上様」と、ジョアンは微笑みを見せる。

『海の向こうかあ。ここにいて、森が消えていくのを見ているよりはずっといいなあ。分かった、おいら行くよ!』

キジムナーは決心した様子で答えた。

『ずいぶん前に、北の地から遊びに来たコロポックルって言うお化けの仲間が、そういえばいたよ』

「ふむ、コロポックルとな」

『うん、ずいぶん北にも大きな大きな島があって、そこに暮らしているって言ってた。自然がたくさんあるところだって』

『公、それは北の蝦夷えぞの地のことですね。ここ琉球と同じく、世界の秘宝があるかもしれない地図の場所のひとつです』と、天使ナナシが告げる。

「なんと、それでは、キジムナーの仲間、コロポックルがいるところは、目的地のひとつというわけじゃな。あい分かった。キジムナーよ、その北の蝦夷の地まで、儂らとともにしばし海の旅をしようぞ」

『うん! コロポックルのところへ、おいら行くよ』

キジムナーは怒りをすっかり解き、話はまとまったのだった。

(続く)

次回予告

キジムナーを船に乗せることで話をまとめた信長公一行。キジムナーのしたことに怒るひとびとの説得を試みます。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりにわゆうこさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?