見出し画像

人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 七十話「ふたたび沖縄にて」

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

六十九話のあらすじ

石垣島の英雄アカハチ公と、双頭の龍神さまの見送りを受け、信長公一行は那覇へと戻ってきたのでした。

七十話

石垣島の鍾乳洞しょうにゅうどうで、虹の竜を呼び出すための世界の12の秘宝の手がかり、一枚の地図を見つけた信長一行は、那覇の港へと戻ってきた。

『おー、みんな、けーたんなー』

舜天が人懐っこい微笑みで出迎える。

『みんなお帰りなさい、だそうですよ』と天使ナナシが訳した。

「ただいま那覇に戻りましてござる、舜天殿。首尾よく、秘宝の手がかりとなる一枚の地図が手に入りましたわい」

信長は意気高く事の次第を報告した。

『たいみそーちー。わんよー、どうしてもみんなに見せたいものがあるさー。特に、うちなー沖縄のガジュマルの精霊、キジムナーには、遠くへ行く前に絶対に見せておきたいさー』と舜天。

『見せたいもの? なんだろうネ、キジムナー』

ゴブ太郎が呼ぶと、船の影に隠れていたキジムナーはおそる恐るといった様子で皆のところへやって来た。

『おいらに、どうしても見せたいもの?』

不思議そうに舜天の顔を見る。

『こっちさー』

舜天が先頭に立って信長たちを連れて行った場所は、あの沖縄の子どもたちが小さなガジュマルの苗を植えていた荒れ地だった。

しかし以前と違って、子どもたちだけでなく大人たちも荒れ地に草や木の苗を植えている。そのなかには、あのキジムナーの火で家を失った村人もいた。

「これは……舜天殿?」
『大人も子どもも、沖縄のうちなーんちゅみんなで森を育て始めたさー。大人がやった森の伐採の責任を、子どもたちだけに負わせないさー』

信長の問いを受け、舜天は快活に答えた。

『わあ! それなラ、早く沖縄に帰れるネ、キジムナー』
『……う、うん』

ゴブ太郎にそう言われて、キジムナーは少しだけ表情を明るくした。

「あっ、キジムナー!」と、家を失った村人がガジュマルの精霊の姿を見つけてけてきた。ビクリとキジムナーは小さな肩をすくめ、ちぢこまる。

「キジムナー、このあいだはさんざん言いすぎたさー、わっさいびーたん」と村人が謝る。

「あんさん、先日とえらい変わりようでんがな」と助左衛門がすかさずツッコミを入れた。

「何もかも焼けてしまったけど、わんには家族も沖縄のひとびとも残っていたさー。みんなに助けてもらってまた暮らし始めることができたさー。でもキジムナーは、何もかも、森の仲間をわんが焼いたと思ったら、腹も立たなくなるさー。びにこれから森を作るという子どもたちと、わんもずっと森を育てる。それがうちなーのぬちどぅ宝と気づいたさー」

『おいらの森を、戻してくれるの……?』

「近いうちに、必ず。うちなーんちゅの約束さー」

荒れ地が草木の苗でいっぱいになっているのを見て、キジムナーはほんのすこしだけ、笑った。

『分かった! 沖縄はすぐに草木が大きくなるところだもの。きっとおいらも、そう遠くないうちに帰れるね!』

「必ず帰ってくるさー、キジムナー。それまで、キジムナーの旅が良いものになるよう、頼むさー」

村人は信長たちにそう願った。

「分かりもうした、それまでの良き滞在先を、わしらが探しましょうぞ」

信長はその願いをしっかりと受けとめた。

「良かったね、キジムナーくん!」
「せやせや! 帰れるところに帰れる、そら一番ありがたいことやおまへんか? なんや、俺もはよ平戸へ行きとうなってしもたわ」
「そうだ、助左にはいいひとが待ってるからな!」
「や、弥助の兄貴、そらきっぱりはっきり言い過ぎやで、こないなところで」

ジョアン、助左衛門、弥助の三人も嬉しそうなキジムナーを見て話が盛り上がる。

「よし、それではキジムナーよ。沖縄をあとにしようぞ」
『うん!』

そうしてキジムナーを加えた信長一行は、西洋キャラック帆船「濃姫号」に乗り込み、那覇の港をふたたび出港したのだった。

(続く)

次回予告

沖縄をあとにした信長公一行は、平戸へ……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりハル、16才のnoteさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?