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「地域×XR」はなぜ注目される?新潟市が取り組んだ”市民が自ら都市をアップデートする”産業づくりとは


NIIGATA XR プロジェクトについて

皆さんは「NIIGATA XR プロジェクト」をご存知でしょうか。
新潟市が主体となって取り組んでいる、「XR」を活用してリアルとバーチャルを融合することで新しい体験価値と経済活動の場を提供するプロジェクトです。

日本経済新聞や地元テレビ局でも紹介されるなど、メディアからの注目も集めています。

今、なぜこの取り組みが注目されるのかー。
これについて、先月東京ビッグサイトで行われた「地方創生EXPO」において、このプロジェクトを推進したキーマンたちが「XRで新たな産業を共創する地域活性化DX」をテーマに対談形式のセミナーを行いました。
本日はその内容についてご紹介します!

地方創生EXPOの様子

こんな方向け:
・デジタル産業を取り入れたいけど何から手を出せばいいのか分からない自治体ご担当者様
・地方創生プロジェクトを実施したいけど単発のイベント実施で終わってしまう事業者様

登壇者紹介:
■新潟市経済部成長産業・イノベーション推進課:増田様、吉澤様
NIIGATA XRプロジェクトを起案し、地元企業・クリエイター・住民を巻き込みながらプロジェクトの土台作りを行い、主導する。

■株式会社ナカノアイシステム:伊倉様
精度の高い測量技術を活かし、新潟市の3D都市モデルの制作を行う。制作した3D都市モデルを使用して、インフラ管理を行う2D・3D GIS「GeDA」をサービス提供している。

■株式会社Psychic VR La STYLYプロデューサー:浅見
NIIGATA XRプロジェクトにおいてXR分野全体のプロデュースおよびフラッグシップコンテンツのディレクション、クリエイター育成を行う。

都市や空間が”表現の媒体”になる

STYLYプロデューサー 浅見

浅見:先日Apple Vision Proの発表もあり、「グラスをつけたまま生活をする」というライフスタイルが、いよいよSFの世界の話ではなく現実味を増してきたのではないかと感じています。

デバイスの進化とともに、屋外にも利用シーンが進出していき、今度は都市空間で新しい表現が生まれるようになって、そこで新しい産業が生まれたり、あらゆる事業者や自治体がそのことについて考え始めたりするフェーズなのではないでしょうか。

浅見:私たちPsychic VR Labが提供するSTYLYは、誰でも簡単に都市空間と連動したXRコンテンツを制作・配信できるプラットフォームです。
Webブラウザで簡単に3Dモデルを配置し、スマートフォンを始めとして、ヘッドマウントディスプレイ、ARグラスなど、あらゆるデバイスで実際の街中で体験することができます。

STYLYの都市XRテンプレート

浅見:この技術自体も少し前では夢の話のようでしたが、今は誰でも簡単にできるようになりました。
「誰でもできる」ということは、次の新しい産業が出てくるのが目に見えているということでもあります。

例えば観光領域の場合、これまでだと旅行前・旅行中・旅行後にそれぞれ情報接点がありました。
旅行前なら「いつどこにいくのか」という計画段階があって、事前にチラシやWeb広告で情報収集をしたり、旅行中は旅行先現地の看板を見たりWebサイトを見たりして「実際にこういう場所があるよね」という会話をして、旅行から帰ってくるとSNSでつぶやいたりお土産を誰かに渡しながら現地でのできごとを話すこともあるかと思います。

浅見:今後は、こういった一連の流れの中に、ARやVRといった技術も足されていくようになります。

そうすると旅行中に「美術館はこちらです」のような矢印がARで出てくるとかそういったことも当然出てくるでしょうし、旅行後にARで思い出をシェアしたり、またこの段階で旅行先の魅力を知らしめたい人に情報を提示するという手段も増えてくるんですよね。

これまでの知見や技術とARがかけ合わさることで「新しい観光」に

浅見:そうなると、新しいエンターテインメント、新しい広告、新しい観光など、「新しい◯◯」という新規事業が生まれるようになって、それを下支えする必要な能力や職業、会社や業界が生まれていくようになります。

浅見:新潟市での取り組みは、こういった事業支援の対象になってくるのではないかとも思っています。この観点を元に、ここからは対談形式で新潟市さんやナカノアイシステムさんのお話をお伺いさせていただきます。


NIIGATA XRプロジェクトのきっかけ

浅見:そもそもなぜ新潟市がXRに興味を持ったのかについて、まずは教えていただけますでしょうか。

新潟市 増田様

増田:はい。まず当初の新潟市の状況として、県外転出数の多さが課題になっていたという背景があります。
もしかしたら全国の地方都市でも同じことが言えるのかもしれませんが、2016年以降、新潟市の県外転出数はどんどん増加傾向にあったんですよね。

2016(平成28)年以降、社会減の傾向にあり、人口減少が加速

増田:年齢層については20歳から24歳が特に多く、さらに性別ごとの職種を見てみると、女性は医療福祉系、男性はIT/情報通信系の職種の方が一番多く転出していました。つまり、いい人材を首都圏にどんどん送り込んでいるという状態だったんです。

新潟市としてはなんとかしてこの状況を打開しないといけない、というのがこのプロジェクトの一番最初のきっかけです。

大学などを卒業して就職する年齢層(20〜24歳)の転出超過が最も多い

増田:打開する手段をどうするかについて考えた際、新潟市に関連するデジタル産業を使って新潟市を活性化したいと思い、その時話題に上がっていたXR産業に参入することにしました。

■NIIGATA XR プロジェクトの目的
今後成長が期待されるVR(仮想現実)、AR(拡張現実)などのバーチャル表現技術であるXRを活用した新たなビジネスを創出することで、関連するデジタル産業をはじめとした地域産業の活性化を図ることを目的とする。

浅見:ありがとうございます。
私も新潟市の皆様と初めてお会いしたとき、今のようなお話をとても熱量を持ってお話されていたことが非常に印象的でした。

学校が多いエリアということで、学生が卒業後も、本人の意思で新潟市に留まるにはどうしたらいいのか、という観点でもディスカッションさせていただきましたよね。半分冗談ですが、「新潟市が今後取り組む新規事業はXRか宇宙産業しかない」って仰っていました(笑) そのくらい、新潟市職員の皆様が覚悟と熱量を持ってくださってスタートしたプロジェクトでしたね。
プロジェクトの内容についてもぜひ改めて教えていただけますでしょうか。

増田:今回のプロジェクトは大きく分けると3つのフェーズがありました。
まずはXRを展開する上でベースとなる3D都市モデルの整備、次にその3D都市モデルを使ったユースケース開発です。さらに新潟市として補助金制度を整え、新潟市の企業がXRコンテンツを実装した際の経費を補助するという仕組みを整えました。

増田:ひとつ目の3D都市モデルの整備についてはナカノアイシステムさん、2つ目のユースケースの開発についてはSTYLYさんにご協力いただいた感じですね。


ナカノアイシステム:都市の3Dモデル制作

浅見:都市の3Dモデルについて、ナカノアイシステムの皆さんが新潟市と具体的にどのような取り組みをされたのか、ぜひ教えていただけますでしょうか。

ナカノアイシステム 伊倉様

伊倉:私たちは、新潟市の3D都市モデルを作らせていただきました。 弊社は、「陸・海・空フルラインナップ」のレーザ計測機を保有しております。今回は、このようなレーザ計測機を使用し、3Dモデルを作成しました。

伊倉:こちらは今回のレーザ計測、3D都市モデル作成のアウトプットです。

伊倉:これは新潟市の中心部にあり、新潟市役所も入っている「古町ルフル」という建物です。 街や建物の3Dモデルを作り、そしてオープンデータにすることで、地域のプロモーションに活用していただいたり、専門学校の皆様にゲームを作って楽しんでいただいたりと、自由な発想で使ってもらえるデータとして作らせていただいていたんですよね。

また、3D都市モデルの難易度にはLOD1〜4というレベルがあるのですが、今回は上から2番目に難しい 「LOD3」に挑戦させていただきました。今後、街の建物だけではなく広場や公園などの3D都市モデルも作ることで、ARやVRのバーチャルイベントで利用していただきたいと考えています。

出典:国土交通省「TOPIC 1|3D都市モデルでできること[2/2]|3D都市モデルの特徴と活用法 | How To Use | PLATEAU [プラトー] (mlit.go.jp)

伊倉:将来的には、スマートフォンひとつで平面位置情報に加え、高さ情報も取得できるようになり、人が 「どこにいる」だけではなく「何階にいるのか」という情報も収集できるようになると思います。そのデータを人流データと呼びますが、3D都市モデルと組み合わせることにより、イベントの仕掛けなどが可能となってきます。

浅見:確かに。人流データと組み合わせて活用すると、さらに都市3Dモデルの活用の場が広がりますね。


STYLY:都市3Dデータを活用したユースケース開発

浅見:ユースケース開発について最初にお伝えしておきたいのは、ナカノアイシステムさんが作成した都市の3DモデルをSTYLYに乗せて、新潟市民の方々に自由に活用いただけるようにしたという点が非常に大きいポイントだということです。
その上で今回作成したユースケースコンテンツについていくつかご紹介します。

まずは「フルマチXR水族館」です。
XR水族館については、先ほど伊倉さんからも紹介のあった「古町ルフル」と言う建物を水槽に見立てて、STYLYのアプリケーションで専用QRを読み込むと、水族館が出現するコンテンツです。
これは小さいお子様も楽しんでいただけて、老若男女いろんな方にご体験いただくことができましたね。

XR水族館

浅見:続いて「天空ゲームセンター」です。毎年新潟市ではお祭があってそこで花火が実施されるんですけど、大体来場される方は夕方日が暮れる前に場所取りを行うんですよね。
花火が始まるまでにちょっと時間があるので、その時間に夜空でもぐら叩きや射的などのゲームを楽しんでもらう、というコンテンツを用意しました。

天空ARゲームセンター

浅見:あとはご当地Vtuberの越後屋ときなのXRライブも開催しました。これはナカノアイシステムさんが作成した都市の3Dデータの活用をした動画なのですが、これをみると手前のビルの後ろに足があって、しっかりオクルージョン*が効いているのがお分かりいただけるかと思います。
*オクルージョン:3D表現において手前にある物体が後ろにある物体を隠す技術のこと

ご当地VTuber越後屋ときなXRライブ

浅見:今後都市空間がライブ会場になってエンターテインメント産業が発展したり、このビルに広告を配置したりすることでビジネスが生まれたりするようになると思います。
こういったコンテンツを通して、まずは市民の皆様に気軽にXRに触れていただくということを意識しました。


浅見:新しい産業を作っていくという観点では、クリエイター育成にも注力しました。

今回「にいがたXRスクール」を開校して生徒を募りましたが、そこで普通にXRについてを一方的に教えるのではなく、受講生に対してのお題を地元の企業様から募ったんですよね。地域課題を設定してそれに対してスクール生がアンサーする形で、実際に制作をしてもらったりもしました。
有名商業施設や新聞社など、本当にいろんな企業様が熱意高く協力してくださったことが印象的でした。

新潟市:XR事業実装補助金

浅見:こういったユースケースを作っていく中で、補助金制度を整え、新潟市の企業がXRコンテンツを実装した際の経費を補助するという仕組みを整えてくださったのが新潟市さんでした。

増田:はい。実施にこの補助金制度を整えたことで、地元のテレビ局が「NFTアートフェス」を開催してくれたり、IT企業が「にいがた2kmバーチャルウォーク」という新潟市回遊型のイベントを開催してくれたり、結果的にいい取り組みがたくさん出てきたなと思います。

地元企業が中心になって推進したXRプロジェクト

増田:補助金を使った上で、XRを実装してサービス提供するということが形になった、という点が非常に喜ばしいですよね。

浅見:NIIGATA XRプロジェクトについては、新潟市さんが起案して、そのデータをナカノアイシステムさんが作って、STYLYが仕組みを作りましたが、それだけではなく、その仕組みの上でさらに新潟市現地の企業様やクリエイターの方々、学生たちがコンテンツを実装してくださいました。

改めて本当に盛りだくさんだったなと思いますよね(笑)本当によく半年間くらいでここまでやれたな、と今振り返っても思います。

吉澤:「こんなのもできます」「あんなのもできます」「やっていいですか」みたいな話を浅見さんにして、気づいたらこんなに(笑)

浅見:とにかく、ここにいる新潟市職員の皆様もそうでしたし、地元の企業のご担当者様もアツかったですね。本当に「新潟市を盛り上げたい」という思いを持って取り組んでくださったことが本当に大きいなと思います。


今後「地域×XR」に期待すること

浅見:地域産業のベースとなる取り組みをしていく中で、改めて今後期待することやチャレンジしてみたいことなどがあればぜひ教えていただけますでしょうか。

吉澤:そうですね。そもそもなぜ私たちがプラットフォームにSTYLYを選んだのかという話にも繋がるんですけど、当初から、新潟でデジタル産業をするにしても、「この土地に根ざしたもの」というか、新潟という土地に理由がある産業をやりたいと思っていたんですよね。

だからこそ現実の都市空間で体験できるARが技術的には相性が一番いいと感じていましたし、都市データを組み込んだ上でコンテンツ提供ができるSTYLYが良いと思い、選ばせていただきました。そしてやっぱり、ナカノアイシステムさんが作ってくださった都市の3Dモデルが、その精度の高さを含めて非常に魅力的でした。

去年このプロジェクトを通して、ようやく産業のベースとなる部分ができるようになった状態だと思っています。

経済や新たな産業、ビジネスを産むことも、都市の3DモデルとARを組み合わせるという、自分達でもなかなか難しいことをやっているなと思っていますが、今後さらに新しいビジネスが出てくることを期待しています。
そのためにも、今後もっとユースケースとしていろんなXRコンテンツを出していきたいですね。

ちなみにご当地Vtuber「越後屋ときな」のコンテンツですが、「あれで本当に人が来るのか?」などとよく言われることがあるんですけど、実際にはあのコンテンツで人を呼ぶのが目的ではなく、あのビルに広告や動画など、仕掛けを作ってそれらを売買できるようにする、という産業作りそのものが目的だったりもするんですよね。産業を作るという行為の手段として、XRコンテンツがある、という位置付けという感じです。

あとはまだ決まりがない「XR」というものをどれだけ市民の皆さんに理解してもらって使ってもらうかという観点もあって、その辺りのルール整備や土台づくりをやっていきたいと思っています。

浅見:本当にその通りで、まだルール整備については全国的に法整備がされていない状態なんですよね。その中で実は新潟市さんはいち早く、XRに関してのルールづくりなどもしていて、そういった観点でも、新潟市さんはだいぶ先進事例を作られているのだと思います。

浅見:ナカノアイシステム伊倉さんは振り返ってみていかがでしょうか。

伊倉:このプロジェクトについて振り返ると、都市の3Dモデル制作の中でLOD1〜4の中でも2番目に難しい「LOD3」を作ろうと新潟市さんがおっしゃってくださったのがとにかく素晴らしい試みだと思いました。

そしてそれをオープンデータにすることによって、ゲームやプロモーションなどの新しいコンテンツを生むことができ、そこからまた産業が生まれていくというのを肌で感じましたね。本当に新潟市さんのチャレンジが素晴らしかったと思います。

浅見:本当そうですね。
ちなみに、もし今後「うちの自治体でも都市の3Dモデルを整備したい」「ARコンテンツを都市に配置してみたい」といったご担当者様がいた場合、3Dモデルを活用したり作ったりする際のアドバイスなどがあればぜひ教えていただけますでしょうか。

伊倉:そうですね、まずは3D都市モデルがいろんな分野で使われていく中で、その「精度」が非常に重要 になってきます。
そもそも「3D都市モデルって何に使えるの?」と事例を求められている自治体の方がたくさんいる かと思いますが、私が考えているのは、都市計画、防災、観光、人流管理、インフラ管理、自動運転、この6分野かな、というように感じています。 
「精度」という点に関していえば、例えば自動運転の分野において使用するとなると、3D都市モデルが「5m」ずれると事故に繋がってしまいますよね。ですから、まずは精度の高い3D都市モデルを作ると いう点が最重要かなと思います。 
あとは目的に合わせてLOD1〜LOD4を組み合わせて、「電柱はLOD3で作るけど、道路はLOD2で 作る」といったように、精度やその難易度を意識しながら、どこにフォーカスして作るのかを考えると良いかなと思います。

浅見:ありがとうございます。
おそらく今後、3Dモデルを整備する企業様はものすごい勢いで増加していくのではないかなと思います。ぜひ他の自治体ご担当者様、事業者様も参考にしていただければと思います。

最後に、今後新潟市として取り組んでいきたいことについて、2023年度プロジェクトリーダーの増田さんにお伺いしたいと思います。ぜひ教えてください。

増田:実は私自身、これまでXR領域には携わっておらず、今この会場(地方創生EXPO)の出展ブースをみて、改めて「XRって今本当に活用されているんだな」と感じていたりします。おそらく新潟市に住むほとんどの方がまだ私と同じような感覚だと思うんですよね。

そんな中で、改めてナカノアイシステムさんの精度の高い都市の3Dモデルだったり、STYLYさんの技術を通じて、市民の方に対しても「こういった取り組みがあるんだよ」ということを知っていただきたいなと思います。そして知っていただいた上で、「市民からこういうニーズがあるのだから、自分の会社も参入してみようかな」と地元の企業様がどんどん参加してくれたり、「この分野で稼げるんだな」とビジネスとしての可能性を見出していただいて、一緒に盛り上げられるようになるととても嬉しいですね。

浅見:そうですね。市民の方も地元の企業様も積極的に参加できる仕組みを展開していきたいですね。
ぜひ今後ともよろしくお願いします。
改めて今日は新潟市増田様、吉澤様、ナカノアイシステム伊倉様、ありがとうございました!



いかがでしょうか。
ご興味のある自治体ご担当者様、取材ご希望のメディアご担当者様はお気軽にお問合せくださいませ。

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