見出し画像

あなたの身体に軸を通す「丹田」の意識とは?

武道の世界では、昔から「丹田(たんでん)」という言葉が使われています。丹田の場所は、へそ5センチ下くらいの位置、身体の少し奥にあると言われています。

丹田を意識することで、体内の気を錬成すると昔から考えられてきました。最近はスポーツやヨガ、瞑想などでも丹田を意識した呼吸法などが紹介されているので、聞いたことがある人は多いと思います。

しかし、「丹田」という臓器や骨、筋肉が実際に存在しているわけではありません。いくら丹田があると言ったところで、それを目の前に出して見せることはできません。

丹田を使いこなすというのは、まるで雲をつかむようなものです。そんなわかりづらいものを意識するための方法をこれから説明していきます!

まずは重心を意識する

人間の身体には重心があります。身体全体で見た場合、重心は骨盤上部にある仙骨という骨のやや前方にあります。その部位は、丹田とほぼ重なる位置です。つまり、「丹田を意識すること」は、「身体の重心を意識すること」に非常に似ているんです。

次に、より丹田を意識しやすくするため、「丹田で立つ感覚」を覚えましょう。丹田で立つ感覚というのは、ドローンが浮いているような「浮遊感」に近いです。身体は足で支えられているのではなく、丹田によって浮いているのをイメージしてください。足は丹田にぶら下がっている感覚です。

少し難しいでしょうか? 足で支えているのではなく、丹田を意識して身体のバランスを取れると、非常に安定して立つことができます。

しっかり立てているか確認するには、重ねた座布団の上に立ってみたり、バランスボードなどを使ったりしてみてもいいでしょう。

ところで、私が運営しているスタイル新伊丹治療院には、なぎなたの師範と弟子の方が施術に来られます。

生徒さんは、「丹田がどこにあるのか十分わかります。ですが、試合でいざ勝とうとすると肩に力が入り、意識できなくなってしまいます」と言います。

一方師範は、しっかり丹田が自分の身体と精神の軸あるいは核として通っている印象を受けます。長年の鍛錬の賜物だと思います。

鍛錬を積んだ武道家が丹田を上手に意識できるのは、「和装」も関係していると考えています。道着は浴衣などと同じようにへその少し下で帯を締めますよね。普段から肚(はら)を意識しているからこそ、丹田を意識できるのではないでしょうか。

スポーツにおける丹田

次は丹田を意識しながら移動してみましょう。

上から見た時、丹田の軌跡がまっすぐになるように歩く。
階段の上り下りでも、丹田の軌跡がまっすぐになるように歩く。
これが基本です。

常に進行方向に向かって丹田が直線で移動するようにできれば、身体の動きは安定します。例えば、マラソンランナーの走り方を思い出してみてください。腰の位置を高く保ち、上下のブレを極力少なくして前へと進んでいます。

日本を代表する最強ランナー大迫傑選手は、これでもかという腰高のフォームをマラソン終盤まで維持します。身長は私と同じ170cmですが、腰高で胸を張った(横隔膜が広がった)フォームはそれ以上に大きく見えます。
大迫選手は高校時代にはクロスカントリー(土の道)を走ったと言います。丹田の軌跡がまっすぐ走れています。それもあって、アフリカ系のランナーのような腰高フォームがこの時に身についたのかもしれません。
最近では、箱根駅伝で有名な青山学院大学にも、グラウンドにクロスカントリーコースがあります。

スポーツで走る時にも、丹田を最短距離で移動させる意識を持つのが大事です。重心がブレないように意識しつつ、左右の足へと交互に体重を移すように移動して、足はそれについていくようなイメージです。地面を足で蹴る感覚やブレーキをかける感覚を持たず、丹田が移動することを意識しましょう。

「丹田を意識する」というのは、相手の動きを読む時にも使えます。目の前の人の動きについていこうとする時に、相手のどこを見ますか? 大抵の人は動きのあるところに目がいってしまいます。例えばバスケだったら手を見てしまうし、サッカーだったら足を見てしまうでしょう。
相手の手足などの末端ではなく、丹田を見るのです。どんなに手足がいろいろな方向に動いていようが、人間の身体は丹田が動いた方向にしか動きません。

サッカー日本代表で活躍した遠藤保仁という選手がいます(41歳の今も現役!)。彼は「コロコロPK」という技で観客を沸かせていました。非常にゆっくりしたボールを蹴ってゴールを奪います。傍から見ていると、「なんでキーパーはあんなに遅い球を取れないのか」とさえ思います。
その秘密は「相手の動きを良く見ること」にあるそうです。遠藤選手はPKの際、非常にゆっくり助走し、ゴールキーパーの重心が動くまで蹴りません。そして、重心が動いた瞬間に逆の方向へ蹴るそうです。相手の丹田を意識して動きを読む一つのお手本と言えるでしょう。

丹田と脱力

丹田を意識することと切っても切れないのが「脱力」すること。これが簡単そうで、なかなか難しいんです。

私が施術する時も、左腕に力が入っている人に「左腕の力を抜いて」と言ったところで、簡単にはそうなりません。力を入れている自覚があっても抜くのが難しいのに、自覚がなければなおさら難しいです。

身体のある部分を意識するということは、わずかといえども筋肉を緊張させています。だから、力を抜こうと努力すればするほど意識が強くなり、逆に緊張してしまいます。この傾向は高齢化するほど顕著になる印象です。なので、若いうちから「脱力する」意識を身に着けておいた方がいいと思います。

身体を上手に使うためには、特定の部位を意識して、力を入れたり動かしたりできる必要があります。ですから、丹田を使いこなすためには、丹田だけを意識的に緊張・脱力できるようにしないといけません。

まず取り組むべき一つの方法は、「腹圧を作ること」です。

腹式呼吸でお腹を膨らましたりへこましたりして、腹部の可動域を広げていきます。そのほかにも、「腹圧呼吸」というやり方もあります。腹式呼吸と比べてあまり馴染みのない言葉かもしれませんね。

やり方は、息を吸うときも吐くときもお腹を凹ませずにお腹周りを硬くしてパンパンに膨らませたまま息を吐ききっていくのです。
例えば、甲子園で飛ばすジェット風船を膨らますときは 腹圧もずいぶん使用していると思います。風船を膨らませるイメージを持つのもいいかもしれません。
<参考:『スタンフォード式 疲れない体』スタンフォード大学スポーツ医局アスレチックトレーナー 山田 知生著>

そしてお腹周りの筋肉を使うことも重要です。これは一般的な腹筋運動も効果的です。横隔膜、腹横筋、骨盤底筋などを使って、お腹の中に腹圧をかけたり緊張させたりします。電車で立っている時やオフィスで座っている時に、腹筋を意識する時間を少し作るだけでも良いでしょう。

最初のうちは、力を入れるとお尻や腰、背中や肩、脚などにも力が入ってしまうと思います。しかし、何度も繰り返してピンポイントで緊張できるようになると、へその下あたりに力を圧縮した固まりのような感覚が生まれてきます。それこそが、丹田に力を入れる感覚で、身体の表面ではなく内部に感じる力です。

そのうち慣れてくると、丹田に力を入れると腹筋や腰、お尻の筋肉は逆にフワッと緩む感覚が出てくるでしょう。このぐらいの感覚が出てくると、丹田に力を入れた時、緊張というよりはむしろリラックスするようになります。

丹田が強い人ほど、身体の力はよく抜けています。
丹田を意識することは、脱力のトレーニングとも言えるのです。

まとめ

私たちの身体に存在しているのに、意識するのが難しい「丹田」。これを意識し、使いこなせるようになれば身体に軸が通り、人生にも軸が通ったような感覚になります。

施術させていただいている武道家の皆さんは、しっかり丹田が自分の軸となり、武道はもちろん、生活の面でも素晴らしい人生を送っているように見えます。

日々の生活を通じ、ぜひあなたの身体の「丹田」を意識してみてください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?