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中国で高齢者がスマホを使いこなせるのは「身内のおせっかい」があるからじゃないかという仮説

野本響子さんが、日本の高齢者のIT利用率の低さについて書いていました。

野本さんの住むマレーシアでは、スマホがなければ生活に不自由する場面が多く、そのため高齢者でもスマホを使いこなしている人が多いそうです。

中国の都市部でも同様、というかもっとスマホ依存が強い社会かもしれません。いまや街中の料金の支払いはほとんどスマホでキャッシュレス。病院の予約からデリバリーの注文、あらゆることはスマホから行います。

いまは特に、コロナ対策として至るところで提示を求められる「健康コード」(スマホから電話番号と身分証番号を登録することで使える、移動履歴やPCR検査の陰性証明、ワクチンの接種履歴が可能なQRコード)の必要性から、街に出ている人は高齢者も含めみんなスマホを持って、使いこなしています。

もう2年ほど日本に帰れていないので今の日本の光景がわからないのですが、たしかに日本の高齢者のIT利用率は低そうに思います。そもそも他の国ほどスマホ含むIT機器を使う必要性に迫られないことや、必要と感じていても操作を覚えたりするのが面倒で利用率が上がっていないそうです。

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僕が野本さんの記事で気になったのは、日本の高齢者のIT利用率が上がらないのは「単身世帯が多くて教える人がいないから」ではないかと仮説を立てて調べたものの、実際には日本の単身世帯率は諸外国に比べてそれほど高くなかったという部分です。

つまり日本では、「教える人がいるにもかかわらず、高齢者にIT機器の使い方を教えていない」という状況が生まれている可能性があります。

ところで、実は中国でも高齢者が自分からすすんでスマホをはじめとしたIT機器を使いたがらないという傾向は同じです。歳をとると新しいものへの心理的抵抗が強くなり、また主観では別に困ってもいないので、高齢者が「スマホとか別にいらんわ」となるのはおそらく世界共通でしょう。

ただ中国では、家族や親戚が高齢者にIT機器を買い与えたり、使い方を教えるルートが存在しています。中国の家庭でも結婚すればほとんどの家庭は家を出て暮らすようになるので、高齢者との同居率はそれほど高くありませんが、家族の繋がり自体はかなり強く連絡をしょっちゅう取り合い、密に交流を行います。そのやり取りの中で子供がスマホなどIT機器の使い方を教えているようです。

実は僕の嫁の家族もそうでした。3年ほど前だったでしょうか、スマホを持つことを渋る義両親2人に、嫁含む兄弟たちは半ば無理やりスマホを買い与えて持たせるようにしました。いわく、WeChat(微信。基本はLINEのようなメッセージアプリだが、それ以外にも様々な機能がついていて半ばインフラ化している)で連絡が取れないと面倒だから、ということでした。

僕は「本人が求めてないんだから、ほっときゃいいのに」と思っていましたが、嫁は「絶対に必要だし、無理にでもやらせないと」などといっていました。結果、義両親は今ではすっかりスマホを使いこなすようになり、家族用のグループチャットに毎日のように孫の動画を送っています。親戚の誕生日にはキャッシュレスで紅包を送るようにもなりました。たいしたもんです。

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このあたり、日本とちょっと違うなーと思うのは、自分の親といえどもここまで無理やり(半ば強制的に)スマホを使わせるというのはちょっとイメージしにくいな、ということです。

たとえ血の繋がった家族でも(あるいは家族だからこそ)あまり内面にまでは踏み込まず、「おせっかい」があまり良しとされない日本では、本人が「いらない」といえばそれで話は終わり、という感覚なのかもしれません。僕自身、親や家族に何か勧めたいものがあっても、本人が興味を示さなければその意思を曲げさせてまで強硬にやらせたりはしないと思います。

「教える人がいるにもかかわらず、高齢者にIT機器の使い方を教えていない」という状況には、こういったことも関係があるのではないでしょうか。

その点、中国の人は身内に対して、良くも悪くもどこまでも「おせっかい」です。僕の嫁も、たとえ本人がいらないと言っていても「とにかくこれは必要だから持っとけ」と強硬に持たせようとするやりとりを、割と疲れ果てるまでやっていました。結果として義両親はスマホを使いこなせるようになったのですから正解だったと言えますが、僕なら多分ここまでできなかっただろうなあ、と思います。

家族に対する干渉をどこまで良しとするか、みたいな意識が高齢者のスマホ利用にも影響を与えているのかな、と少し思いました。

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ちなみにスマホ利用が華やかなりし中国、先日はインターネットの利用者が10億人を突破したというニュースがありました。

10億人と聞くと大変な数字に思いますが、中国の人口は14億人。インターネットを利用していない人がまだ4億人もいるということになります。都市部にいるとちょっとイメージしにくいですが、まだ隅々にまでIT利用が行き渡っていると言うわけではないようです。

またスマホに対応できない高齢者も、減ってきているとはいえまだまだたくさんいます。子供がいる人ばかりとは限らないし、いても連絡が途絶えているような人(「空巣老人」と呼ばれる)もどんどん増えています。そのような人々が急速に発展するスマホ社会から取り残されていることは、中国の社会が抱える課題となっています。

この記事によると、インターネットを利用していない、できない老人の数はおよそ1億4000万人。実に日本の人口以上の高齢者が「インターネット難民」「スマホ難民」と化しているのです。

中国は基本的にお年寄りを大事にする社会なので、このあたりにも今後何か対策が打たれていくことになるかと思います。引き続き見ていきたいです。

それではまた。

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