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シェア自転車の初乗り料金から考える、中国でのビジネス成功法則

ある朝、ジョギングで少し家から遠くまで行きすぎてしまった時のことです。

クタクタで帰り道を歩くのが億劫になった僕は、シェア自転車に乗って家を目指すことにしました。

中国のシェア自転車は指定されたステーションなどではなく、道端にそのまま置いてあります。本体に貼ってあるQRコードをスマホアプリでスキャンすればロックが解除され、サービスエリア範囲内ならどこにでも乗り捨てられるというものです。数年前に現れ、爆発的に普及しました。

かつて僕は通勤にこのシェア自転車を使っていましたが、最近は在宅で仕事をしていることもあり、すっかりご無沙汰でした。久しぶりだなあと思いながら道脇にシェア自転車を見つけ、スキャンしてみると、そこには初乗り料金が「1.5元」だという表示が出てきました。最初の30分の料金が1.5元で、その後は30分ごとに1.5元ずつ課金されていくシステムです。

1.5元。いまのレートだと、約30円です。調べると東京都内で使えるシェア自転車が30分で165円からのようですから、日本に比べるとずいぶん安いように思います。

でも、このシェア自転車の初乗り料金って、僕が通勤に毎日使っていた頃の料金は「30分で0.5元」とかでした。ものすごい昔の話ということでもなく、せいぜい3年前くらいでしょうか。つまり、この3年の間で、初乗り料金がなんと3倍にもなったということになります。

しかし、ここで「中国の物価上昇も大変なことになっているなあ」と考えてしまうのも早計です。物価の影響もあるでしょうが、そもそもシェア自転車に関しては、サービス黎明期の値段があまりにも安すぎた、と見るべきでしょう。

そんなことを考えていたら、中国であるサービスが始まり、それが広く成功していくまでの法則のようなものに思いが巡ってきました。前置きが長くなりましたが、今日はそれについて書いてみたいと思います。

安値でとにかくドーンと広めよう

中国において成功を得ようと思ったら、まず自分のやっていることが広く人々の目に留まり、知られることが必要になります。

あらゆるものの参入障壁が低く、あるモノ・サービスがひとたび流行すれば、ピンからキリまで類似のものがすぐに溢れかえってしまう中国では、「多くの人に利用されている」とか「みんなが支持している」という要素が他の国以上に重要になってきます。その点で競合より「量」で抜きん出るために、まずはサービスの届く範囲をドーンと一気に広げる戦略をみんなが取ろうとします。

で、その「ドーン」と勢いをつけるためにみんな何をやるのかというと、強烈な安値・割引によるゴリゴリのパワー販促活動です。まずはサービスを知ってもらい、利用してもらうために、ほとんどタダ同然でサービスを提供するのです。

僕がシェア自転車を使っていた時期は、ちょうどその「ドーン」の時期だったのでしょう。当時はほとんどタダで乗っているという感覚……というと少し言い過ぎにしろ、そこにお金を使っている意識はほとんどありませんでした。こういった利用者が増えるおかげで、サービスが知られるようになります。

もちろん、このようなやり方には大きなリスクがあります。当然ながら利益はほとんど出ないし、場合によっては赤字の垂れ流しです。経営的に耐えきれず、撤退していく事業者も相当数にのぼります。

たとえばシェア自転車の普及黎明期には、「ofo」という会社が初期にこのような方法で無理やりサービスを広げ、一時期は「mobike」という競合に並んで2大巨頭のように扱われていました。しかし、その後すぐにサービスを維持できなくなり、あっという間に衰退。

破産が伝えられる頃になると、メンテのできていないofoの自転車が街じゅうに転がるようになり、やがてすぐにその姿も見られなくなりました。また、当時はサービス利用時にユーザーが支払ったデポジット(100元くらいだったかな)が返済不可能になるなどして、大騒ぎになったことをよく覚えています。

こういった、文字通りの「自転車」操業……というより、後輪が燃えたまま走り続け、風圧で火が消えるのを期待して必死でペダルを漕ぎ続けるような、自転車操業以上の危険な時期をなんとか乗り越えることができれば、サービスが質・量ともにユーザーに広く定着するようになります。

中国ではそうしたある種の賭けに勝って初めて、ようやく値段を適正価格に引き上げ、利益を出せるようになります。僕がつい最近気づいたシェア自転車の値上がりは、そうした適正化の結果なのでしょう。

逆にいうと、ここに辿り着けるまでにならなかったサービスたちは、ofoのように燃え尽きるしかありません。一つのサービスの流行と成功の裏には、そうした夢破れた者たちの屍が累々と横たわっている……というのは、中国ではよくみられる風景です。

他にもいるぞ、チキンレースな夢追い人たち

このような例は、他にもたくさんあります。

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