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中国において「遠慮」が持つ意味

義実家からは帰ってきたんですが、義実家での出来事でまだ書き残したことがあるので本日はそれについて。

ほぼレスリングな紅包の受け渡し

春節、つまり中国のお正月にも、日本でいうお年玉のような、紅包hóngbāoと言われるお祝いのお金を渡す習慣があります。

紅包は新年以外にも渡すことがあるものですが、もっとも盛んにやり取りされるのはやはりこの新年期間でしょうか。僕も親戚に渡したり、渡されたりしました(ちなみにこの紅包の金額についても言いたいことがあるのですが、それはまた別の機会に)。

今回話題にしたいのは、この紅包の「渡し方」「受け取り方」です。

このテーマでは過去にもマガジンを書いたことがあって、紅包の受け渡しの際は受け取る側がいったん断るようなそぶりを見せてから、それを渡す側が「遠慮しないでいいから」と無理やり渡そうとする、という小芝居を挟むのが通例になっています。若い人はあまりやりませんが、年配者はこの小芝居をこぞってやります。

ただ、今回義実家でそのやりとり、特に中国語で阿姨a yiと呼ばれるようなおばちゃんどうしによるものを改めて見てみると、「そこまでするか?」というような激しいやり取りをしてるんです。

実際に見たものの中には、ほとんどレスリングのようなものもありました。

まず、渡すほうのおばちゃんAがニコニコと紅包を差し出すと、受け取る側のおばちゃんBは首を横に振って拒否します。おばちゃんAが負けじとおばちゃんBの手をとって無理やりにでも紅包を持たせようとすると、おばちゃんBはかなりの強さでその手を払いのけ、パリィのように受け流します。

そのあとはお互いの組み合い(ロックアップ)による応酬が続きます。しばらく膠着状態が続いた後、一瞬の隙をついておばちゃんAがおばちゃんBの背後に周り、後ろから羽交い締めにして動きを封じます。まるでフォールに持ち込もうとしているようです。

おばちゃんBは身を屈めて抵抗しようとしますが、最後にはおばちゃんAがポケットに無理やりに紅包をねじ込み、ようやくおばちゃんBが「観念」するという形で終息しました。

本人たちはニッコニコでやっているので楽しい雰囲気ではあるのですが、その「押しつけあい」はある意味で暴力的ですらありました。動画を撮っていなかったのが悔やまれます。このようなやりとりを、滞在中に何度か見ました。

嫁に聞いても、やはり年配者の間ではこうしたやりとりは珍しくないそうです。
なぜそうするかの理由を聞くと、断りもせずに受け取ると冷たい印象を与えるし、「遠慮しているのを無理にでも渡してくれるほどの好人物なのだ」という面子mian ziを相手にも与えることになるからだと思う、と言っていました。

なるほどねえ、と思いながら、僕は中国において「遠慮」というものが持つ意味について、これまでの経験がひとつにつながるような感覚を覚えました。

「遠慮」=「相手が求めていること」

というのも、中国において「遠慮」は、むしろ「自分はそれを求めている」というメッセージとして受け取られてしまうのではないか、ということです。

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