中国人のルールへの向き合い方と、グレーゾーンな「自由」の形

多くの人は、「中国には自由がない」という見方をしていると思います。

もちろんそういった側面はありますが、中国におけるルールへの向き合い方と、そこから生まれる「自由」には、西欧的な自由とは違う何かがあるのではないか、そんな風に思います。今日はそんなお話です。

「黒と白」ではなく「黒とグレー」

中国における法律と、その中における個々の主体の行動原理は、他の先進国とは大きく違う前提によって決まっています。中川コージさんの「巨大中国を動かす紅い方程式」に、そのことを非常にわかりやすく表した概念図があるので、以下に引用させていただきます。

(図表引用元:「巨大中国を動かす紅い方程式 モンスター化する9000万人党組織の世界戦略」Kindle版、第四章第三節「強権アナーキー混合経済」より

先進民主主義諸国では法律によって白と黒が明確に分かれており、人々はその線引きの中(白いゾーン)で暮らしているのに対して、中国においては政府の意向によってクロとされた部分以外はグレーゾーンです。グレーゾーンにおける振る舞いは、体制を脅かすものでなければ時には法律違反であろうとも黙認される余地があります。

つまり、グレーゾーンにおける立ち回り方によっては、ある意味では法律の縛りすらない「自由」な行動が可能な場合がある、とも言えるのです。

あるルールへの対抗を考える時、日本を含む西欧的先進国では「いかにルール違反しないか」もしくは「いかにルールの裏を衝くか」などが考慮されるのに対して、中国では「どのぐらいまでの規模なら睨まれずにルール違反ができるか」ということが念頭に置かれる、とでもいうのでしょうか。

このことは、改革開放以降の中国における民間企業の成長パターンを見ればわかりやすくなります。中国においてイノベーティブな企業や産業は、最初期においては法律スレスレ(時にはアウト)の方法を用いた「野蛮な成長」を、政府によって黙認されます。それによって、社会主義国家では難しいとされるイノベーションが起こる余地が生まれます。

事実、アリババやテンセントなどのテック企業をはじめとした現代中国の有名企業は、黙認という「自由」の中で次々とイノベーションを起こし、急速な発展を遂げてきました。

まあそのような「野蛮な成長」は、十分に企業が成長し必要以上の大きな力を持ったと判断された場合には、政府による「法律に基づいた」強烈な締め付けが入り「不自由」の中に組み込まれてしまう、という道をたどりることになるのですが(中川コージさんはこれを「紅い鉄槌」と表現しています)。

さておき、中国の企業はみなグレーゾーンの中を「自由」に泳ぎ回りながら、党による規制というブラックゾーンの「不自由」に踏み込まないよう、その中で利益を最大化するように慎重に立ち回り、時に鉄槌を下されたりしているのです。

このような枠組みを独裁であるとか発展途上国的であるとか、それこそ国際社会の「ルール違反」だと批判することは簡単ですが、現に中国はこのやり方で急激な発展を成し遂げてきました。そこに感じる好悪はともかく、中国のやり方はそういうものだと理解する必要はあるでしょう。

個人も割と同じムーブな気がする

このような「自由」に関する仕草は、そこに暮らす中国の個々人を見ていても感じることです。

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