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虎の威を借りても通じない中国人

「中国人は空気を読まない」「相手が誰でも、恐れずに発言し自分の意見を言う」という、日本人から見た中国人のステレオタイプがあります。

たしかにそういう部分はありますが、個人的な印象ではこれは単なる一側面でしかありません。むしろ中国人は時に日本人以上に権威主義的で、空気を読んで発言を控える場面もよくあります。

権威主義的かつ空気を読まない、とはどういうことか。それを僕なりに言葉にすると「空気を読むか読まないか、その『人』自体との力関係にフォーカスを当てて決めている」ということです。

もし相手のことを「この人は実力がある、面子が大きい」と認めたならば、相手に対して突っかかったり意見を対立させるようなことはなく、黙ってその人の言うことを聞き、むしろその人からの庇護を求めるようになります。

逆に相手が上司であろうと社長であろうと、実力がない、面子がない、より大きなものを包摂できる人間ではないといったん判断してしまえば、空気を読まずに対立して突っかかり、その立場まで奪いにかかることもあります。

この時に重要なのが、この判断は肩書きやバックについているものではなく、その『人』自体との力関係に基づいて行われるということです。

たとえば、社長からあなたに仕事の指令(無茶振り)が来て、それを中国人の部下にやってもらわなければならないケースを考えます。この時部下に「社長が言ってることだから」ということだけで仕事をさせようとすると、たいていうまく行きません。むしろ無茶振りに対する文句をあなたに言うようなり、手を動かしてくれることはないでしょう。

これは中国人の部下が、バックにいる社長の権威ではなく、目の前にいる『人』との関係性を見ているからです。社長の指示なんだから、結局は同じじゃないの? と思いそうになりますが、彼らに言わせると違います。「社長の指示を実行するかどうか」は、「社長の指示」という枠の中で私とあなたのどちらが強いか、というパワーゲームに置き換えられます。

むしろ「社長が言ってることだから」ばかり言っていては、「こいつは社長の言葉を借りなければ何も言えないんだ」と判断され、ますます態度が硬化し、反発を招くようになるでしょう。中国人は「虎の威を借る狐」を敏感に見抜きます。

そして事態が膠着し、社長が乗り出して直々に指示を出すと、すんなり聞き入れてテキパキと仕事を始めたりするのです。その時あなたは「結果が同じなのに、なんでさっさとやってくれなかったの?」と憤るのですが、中国人からすれば結果は同じではないのです。その指示から社長から出たものか、あなたから出たものかは、彼らにとって大きな意味を持ちます。

こういった傾向は、個人の意思よりも全体最適を優先する傾向が強い日本人から見れば違和感が強いものです。しかし、この姿勢には見習うべき点も大いにあると思っています。肩書きや権威だけでなくその人自体を見つめ、「上の指示だから」と思考停止するのではなく、それが自分にとって具体的にどう影響を及ぼすかにすついて自分の頭で真剣に考えているとも言えるからです。

虎の威のもとに、スムーズに物事を進める日本人。虎の威に屈さず、単体として時には軋轢を生みながらも生き抜く中国人。どちらがいいとは言えません。ただ、こういった違いが存在することを認識するのが大切です。

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