海外出張者の「地元の人が行くような店に連れてってよ」問題
新型コロナウイルスが猛威を奮って以来、国をまたいだ往来は難しくなり、人の行き来はすっかり途絶えました。世界的なワクチンの普及に伴って最近は少しずつ往来が戻ってきているものの、以前のような活発な人の行き来はまだまだ先の話(そもそも、前と同じような状態になることがあるのか?)のように思えます。
そのことは多くの困難や悲しみを産んでいることは明らかで、実際に苦しい思いをしている人も読んでくださっているかもしれない中で軽々には言えないのですが、海外在住者としてはそのような世界になったことで、少し気が楽になったこともあります。
それは、「出張者のアテンド」というクソ仕事がなくなったことです(ああ、言っちゃった)。
敬意なんぞいらんから寝かせてくれ
海外で会社勤め、ひいては日系企業勤めをしていると、自社の偉いさんであったり、客先のこれまた偉いさんとかが出張で来ることがあります。
明確な役割やタスクをこなすために来るのであればいいのですが、「視察」や「表敬訪問」などというクソの役にも立たない名目で来られる場合もあります。そんな時は「敬意なんかいらんから、仕事を増やさんでくれ」とブツクサ文句を思いながら、その出張者が来た時の諸々の手配などをしなければならないことになります。
(いま思い出したから書くけど、ひどい時だと別の取引先に用事があって、夜まで時間があるし場所が近いから、みたいな理由で来られたこともあったな。アホか。こちとらお前の世話してるほどヒマやないっちゅうねん、タダ飯食いに来ただけちゃうんか、さっさとホテルに帰ってNHKでも見ながら寝とけやボk)
すいません、呪詛が漏れました。まあ、ふだん海外旅行に行く習慣のある人でもなければ電車に乗ったり、タクシーを捕まえたり、ホテルを取ったりというのはハードルが高いでしょうし、それくらいはこちらでお世話させていただきますよーという気持ちはあります。効率よくスムーズな旅程を組み立てることも楽しかったりしますし。
ガチのところに連れて行けるわけないじゃん
ただ、どうしても困ってしまうのが食事の手配です。出張者にとっては海外の食事はふだん食べているものとは大きくかけ離れたものになります。下手なところに連れて行くと食べられるものが何一つない、なんてことにもなりかねません。そのため食事に関しては事前にメニューを確認しておいたり、100%安全で実績のある店をいくつか確保しておき、それらをローテーションして連れて行くなどの工夫が必要になります。
ただ、何度も出張に来ている人だったり、たまにいる旅慣れした風を装いたいイキったオジサン(書かなくていい悪口)などからたまに「高級なところじゃなくていいから、地元の人が行くようなお店に連れて行ってよ」などというリクエストが飛んでくることがあります。
これ、言っている側は「気を遣わなくていいですよ」という意味で言ってくれているのかもしれないですし、「せっかくだから色んなものを食べたい」という冒険心の表れでもありますから、なるべくリクエストに答えてあげたいとは思うのですが……正直、アテンドする側からするとこんなに難しい注文ってありません。
たぶんこれを言っている人の脳内では、日本の基準による「無愛想な頑固親父とニコニコしたおばあさんの切り盛りする、高級ではないが雰囲気のある小料理屋」みたいなものがイメージされているのだと思うんですが、そんな都合のいいお店はそうそうありません。「そんなものはない」のです。
この基準を僕が住む中国に当てはめると沙県小吃(中国全土に広がっている軽食チェーン)とかになるのですが、出張者を沙県小吃に連れて行く勇気はありません。おそらくしかめっ面をされるでしょう。ちなみに沙県小吃はこんな店です。
中国アジアITライターの山谷剛史さんの言を借りれば、「店も店員も客も堕落した空間」「やる気ない夫婦が消化試合のような素振りでひとり飯を炒めるのが沙県小吃」です。出張の思い出にこれを持ち帰ってもらうというわけにもいきません。
じゃあ、もっとローカルっぽいソウルフルを感じさせる屋台なんかはどうでしょう。……ダメに決まっています。そもそも衛生管理が怪しいようなところばっかりですし、連れて行ったところの食事が原因で体調でも崩されたら大変なことになります。
もう一つの選択肢としては、ショッピングモールに入っているチェーン店なんかが考えられるかもしれません。こちらで中流以上の人くらいの人が週末に行くのはモールの上層階にあるようなお店です。個性はないですが大資本のところばかりなのでかなり安全ですし、味も美味しいところが多いです。まさに「地元の人が食べている」ものです。
ただ、「地元の人が行くようなお店に連れて行ってよ」という人の脳内にあるイメージって、そういうことじゃないんですよね……たぶん「チェーン店かよ」みたいに、つまんながられて終わりでしょう。となればこれも選択肢としては使えない。
かくして「地元の人が〜」というリクエストに関しては、結局それなりに信頼のおける店に連れて行って「これが地元感です」という空気で押し切るか、そうでなければ少しランクを落とした微妙な店に連れて行って、後から別の担当者経由で「食べるものがなかった」「美味しくなかった」なんていう感想を聞かされることになる、といった顛末になってしまうのです。
ああ、なんと不毛な「地元の人が〜」リクエストよ。
エビチリが食いたいなら日本の王将に行ったほうがいい
あと、僕の住む中国特有の問題として、中国慣れしていない人の脳内イメージにあるエビチリやら春巻きやら炒飯やらの「中華料理」って、あくまで日本人に向けたものであって、中国にあるリアル中華料理とは違うという問題もあります。「地元の人が〜」という人の脳内にあるのもそういったものの延長線というか、ふだん食べているかっこつきの「中華料理」の本場モノというようなイメージだと思うのですが、やはりそれも「そんなものはない」のです。
まあ、在住者でない限りそんなことは知りようがないのでしょうがないんですが……それでもそれらの料理が食べたい、と言われるとかなり困ってしまいます。そういった料理もあるにはありますが、メジャーではないため絶対数は少なく、美味しいものといえばさらに店が限られます。そのへんのものを食べたかったら、日本の王将とかバーミヤンに行った方がよっぽどいいものが食べられるでしょう。
それでも無理してそれっぽいものを食べに連れて行ったら、「思ってたのと違った」なんて後から言われてウウウオアアーー!!!(AA略)となるのが常です。
もう疲れたんで、食べたいものがある時は出張先の人に頼るんじゃなくて、TripAdvisorでも見ながらご自身で探してください。そうすればこっちも自由な時間が増えてウィンウィンです。ていうか、メシ食いにだけ来るんだったら来なくていいです。さようなら。また来年。
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などというやりとりも、全く往来が途絶えてしまってからは懐かしく思うこともあります。またあんな日々が戻って来ることはあるのかな。いや、またやりたいかと言われれば御免こうむるんだけど。
ともあれ、出張者アテンドと食事のわずらわしさの問題を言語化できて僕はとてもスッキリしたので個人的に大満足です。ちょっと恨み節が多くなりましたが、ご愛嬌ということでご容赦ください。
それではまた。
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