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「インダストリー型」日本人と「トレード型」中国人のすれ違い

以前のnoteで、働き方や価値創造に対する考え方の違いとしての「インダストリー型」日本人と「トレード型」中国人という分類を、田中信彦さんの「スッキリ中国論」の論を借りて紹介しました。

この「インダストリー型」と「トレード型」の発想の違いによって起きたすれ違いのエピソードを思い出したので、今日はそれを紹介したいと思います。

「インダストリー型」「トレード型」とは

まずはじめに「インダストリー型」「トレード型」について簡単に説明しておきます。

「インダストリー型」とは、利益を得るための発想として、従来になかったものを生み出す「創出」や、日々の改善による価値の「増大」に重きを置く価値観のことです。簡単にいうと、製造業的な価値創出の方法です。

対して「トレード型」とは、安いところから高いところにモノやサービスを動かすこと、つまり価値の「移動」によって収益を得ることに重きを置いています。こちらは貿易会社っぽい考え方とでも言いましょうか。

もちろん個人差はあれど、傾向としておおむね前者は日本人に親和性が高く、後者は中国人に親和性の高いものとして以下の話をお読みいただければ、理解がしやすくなると思います。

ある漫画の翻訳を続けてきた日本人の話

中国の漫画を日本語に翻訳する仕事をしている日本人の友人から聞いた話です。

その友人は、ある連載漫画の翻訳を請け負っていました。その漫画はWebに連載されるもので、1年以上継続している、そこそこの人気漫画でした。日本語版にも一定の読者がいるということです。

開始から長期間が経過し、登場人物が増えたりストーリーが複雑化したことで、翻訳にかかる時間がどんどん増えてしまっていたことがその友人の悩みでした。しかし報酬は文字あたりの単価で計算されているため、かかる時間が増えても貰える報酬額は変わりません。

その他に請けている仕事も忙しくなり、いよいよ労力と報酬が見合わなくなってきたので、その友人は仕事を回してくれたエージェント(中国人)に、「先方に翻訳単価のアップをお願いできないか」とお願いしました。

すると、その中国人エージェントの答えはこんなものでした。

わかりました。じゃ、この仕事は別の人に回して、〇〇さんには単価の高い別の漫画の仕事をやってもらいますね。もしくは別の中国人に翻訳させるので、〇〇さんはチェックだけしてもらえればいいです。もちろんその場合、労力が少ない分同じ単価は出せないですけど。

答えを「断られるか、受け入れてもらえるか」の2択で想定していたその友人は、エージェントの提案に動揺しました。彼は別にその漫画翻訳の仕事をやめたいわけではなかったのです。他の漫画をやるにしてもまた慣れるのに時間がかかるし、なによりそれなりに続けてきたことによる、その漫画への思い入れのようなものもあります。

また、中国人の知り合いに翻訳させるというのも、受け入れられるアイデアではありませんでした。漫画の翻訳には口語や通俗的な表現なども絡むため、よほど熟達した人でもなければ非ネイティブがやるのは厳しい作業です。チェックといっても、ほとんど自分で翻訳するのと変わらない手間がかかるでしょう。

そのような反論を試みたものの、中国人のエージェントには何が不満なのかできないといった様子で、「〇〇さんも別の単価の高い仕事がもらえるんだから、別にいいでしょう? 翻訳したものの評価は先方からしたら似たようなものなんだから、気にすることじゃないですよ。チェックだって別に完璧にしなくていいんです」などと言われてしまいました。

最終的に話が平行線になってしまったので、その友人は交渉を諦め、結局は前と同じ単価でその漫画の翻訳を続けているそうです。

違いは「積み上げてきたもの」への評価

この話を聞いた時に、僕はすぐに上記の「インダストリー型」と「トレード型」の話を思いました。

日本人である友人は、翻訳に時間がかかるようになったことへの帳尻合わせと同時に、「これまで積み上げてきた自分の貢献や技術」への対価を見直してほしい、という発想から単価アップを申し出たのでした。

さらに、自分にしかできない翻訳があるよ、他の人にやらせたら成果物のクオリティが下がるよ、ということが交渉材料になると思っていたのです。これらは、改善による価値の増大や技術的蓄積に重きを置く「インダストリー型」に近い発想と言えます。

対して中国人であるエージェントは、そのような積み上げたものへの評価はあまり考慮せず、ただ単に「単価が不満なら、別の単価が高い仕事をやってもらえばいい。今のところと交渉したって、高い報酬が出るわけではないし」という発想で、上のような提案をしたのだと思われます。

また、成果物の出来それ自体にもあまりこだわりがなく、単に人の配置を交換すれば解決するだろう、という考えもあったかもしれません。ここからは、日々の改善などへの執着が薄く、むしろ「いまそこにあるものを、どれだけ高く売れるか」を重視する「トレード型」の発想が見えてきます。

このすれ違いは、いわば中国人のエージェントが「トレード型」の発想を日本人にも適用しようとしたことによって起きたものと言えるかもしれません。

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この「インダストリー型」と「トレード型」の発想の違いはもちろん、どちらが優れているという性質の話ではありません。それぞれに利点と欠点があり、背景や状況によってどちらの戦略が正しいのか、適切なのかは変わってきます。

個人的には、お互いがお互いの発想を学んで取り入れるようにできれば、より良い仕事ができるようになるのではないのかな、と思っています。

あなたの発想はどちらに近かったでしょうか。ぜひコメントなどお願いいたします。

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