全存在界の法則
諸々の法則
物体の世界,生物の世界,人間の世界,霊的世界,この世には様々な世界があります。これら全存在界に共通する法則があります。それは,「引きつける力」と「引き離す力」が働いている,ということです。あたかも,買い(ロング)と売り(ショート)によって適正価格が定まる為替相場のように,存在世界は相反する二つの力によって支えられているのです。
物質界
物質界は,「引力」と「斥力」によって成立しています。ニュートンが解き明かしたように,惑星の軌道は万有引力と遠心力によって定まり,静止する物体は重力と垂直抗力によって状態を維持しています。
生物界
生物界は,「生の本能」と「死の本能」によって成り立っています。フロイトが解き明かしたエロスとタナトゥスです。生の本能による生殖活動を通して,生物は次々と繁殖します。と同時に,死の本能による破壊活動を通して,役割を終えた生命は死に至ります。
人間界
人間の性格は,「内向性」と「外向性」の塩梅によって形成されます。内向寄りの人間は,心の経験を重視します。一方で,外向寄りの人間は,交友関係を重視します。心的態度が内に向くのか,外に向くのか。内的刺激を求めるのか,外的刺激を求めるのか。ユングが明らかにしたように,この地球上には,内向型と外向型の二大人種が存在しているのです。内向と外向の違いに比べれば,人種・文化・宗教・性別・趣味の違いなど僅差に過ぎません。
精神界
霊的世界は,「愛」と「正義」の均衡により秩序を保っています。愛は人と人を結びつけ,正義は人と人を区別します。愛は罪を赦し,正義は罪を罰します。愛は善を喜び,正義は悪を憎みます。愛なき正義は暴力であり,正義なき愛は腐敗です。この世には様々な宗教が存在しますが,愛と正義の割合により,その性格が決定されます。著しく愛(仏の慈悲)に流れた仏教は堕落し易く,著しく正義(唯一絶対のアラー)に流れたイスラム教は暴走し易い。この相矛盾する二つの力により,各宗教の妙味が生まれるのです。
神
全存在界は,「引きつける力」と「引き離す力」によって成立しています。つまり,全存在界は二元論の渦中にいるのです。しかし,相反する二つの力が統合し,一つになる世界,というか超越的存在があります。それが神です。愛と正義という矛盾した概念は,ただ神によって統合されるのです。神は,愛によって人を赦したい。しかし,正義によって罪を罰せねばならぬ。そこで,ご自身が罪を引き受けることによって,神の正義を貫くと同時に,人を赦す道を創ったのであります。十字架の死,創造主が被造物のために死ぬこと。西田幾多郎が述べたように,神とは絶対矛盾的自己同一なのです。
究極の原理
宇宙の原理とは何でしょうか?それは,相反する二つの力が統合された場所,相反する二つの力が生まれた場所です。十字架上における神の子の死。つまり,「贖い」こそ,大は宇宙から小は量子に通底する原理なのです。すなわち,イエスの釘打たれし手の平に,全存在界の秘密が隠されているのです。
ロシアの預言者ベルジャーエフが主張したように,全世界は二元論で構成されています。全存在世界は,永久に対立・闘争しながら,ダイナミックに動いているのです。しかし,全知全能の神に接する時,人間は一元論を知ることになります。黙示録のヨハネが示唆した終末。それは,時間の終わりであり,過去・現在・未来が一つに集約する「永遠の今」の啓示です。簡潔に申し上げれば,人間が神の聖召に与る実存的飛躍です。
以下は、参考書籍です。
①心の神秘について
②宗教の原理と統合について
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