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聖書の捏造


捏造された聖書


 教会は,聖書を後世に伝えました。そういう意味において,教会の功績は絶大です。一方で,教会は聖書を改変しました。そういう意味において,教会の罪は小さくありません。では,どのようにして教会は聖書を改竄したのでしょうか?今回は,ヘブライ書13-25を用いて,聖書を捏造した心理的背景を探りたいと思います。

パピルス46番


 ヘブライ書最古の資料は,パピルス46番,俗に言う「チェスター・ビーティ・ビブリカル・パピルス」です。紀元200年の巻き物です。最古の資料にはこう書かれています。

Η χαρις μετα παντων
(恵みがすべての人と共にあれ)

シナイ写本


 次に古い資料は,紀元4世紀のシナイ写本です。ここで写字生(聖書を書き写した人々)は,ある一字を加えました。

Η χαρις μετα παντων υμων
(恵みがあなた方すべてと共にあれ)

つまり,神の恵みをキリスト教徒のみに限定したのです。

ベザ写本


 次に古い資料は,紀元5世紀のベザ写本です。ここで写字生は,ある語を書き換えると同時に,もう一語付け加えました。

Η χαρις μετα παντων των αγιων αμην
(恵みがすべての聖徒たちと共にあれ,アーメン)

つまり,自分たちを選ばれた人間として高めると同時に,祈りの慣用語を挿入して典礼化したのです。

小文字写本


 最後に,中世以降に流通した小文字写本です。教会の写字生は,「聖書の写本に誤謬はない」という先入観から,シナイ写本とベザ写本の融合を謀りました。すなわち,折衷案を創作したのです。

Η χαρις μετα παντων υμων αμην
(恵みがあなた方すべてと共にあれ,アーメン)

捏造の傾向性


 この一連の改変により,後世キリスト教会の傾向性が把握できます。第一に,彼らは神の恵みを自分たちに限定しました。いわゆる選民思想の始まりです。第二に,彼らは教会の儀式や教義を正当化しました。つまり,教会的権力の拡大です。
 聖書は素晴らしい書です。故に,聖書を伝えた教会の功績は甚大です。しかし,聖書を改変した罪は責められねばなりません。イエスの福音は,すべての人を救う神の恵みでした。しかし,教会の思惑は,自分たちだけが救われることでした。神の救済は,人間に信仰のみを要求しました。しかし,腐ったキリスト教会は,信仰に儀式を追加し,神の救済を既得権益化しました。キリストの敵は,ユダヤ教でもイスラム教でもありません。キリストの敵はキリスト教です。
 
「余輩は人に宗教を変えよと言わず,宗教を棄てよと勧む,儀式と規則と信仰箇条とをもって普通道徳に代えんとする,かの憎むべき宗教という制度を棄てよと勧む,仏教を去って基督教に入るは一の悪事を去って他の悪事に入るに過ぎず・・・誠にイエスの貴きは彼が宗教を建てしが故にあらず,宗教を壊ちしが故なり,故によくイエスの心を知る者はよくすべての宗教に反対す,人はまずすべての宗教(基督教をも含む)を棄つるにあらざればイエスの善き弟子たる能わざるなり」(1909年11月10日/内村鑑三)
 

 以下は参考書籍です。



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