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すでにあるリソースを引き出す3つのアプローチ/偏愛マップ、アプリシエイティブ・インクワイアリー、ギフト・サークル

こんにちは、勉強家の兼松佳宏です。

前回ご紹介した、すでに持っているリソースを引き出すワーク「リソースフルすごろく」では、「偏愛○クイズ」「お祝い二択クイズ」「ニーズのシェア」という3つの柱でスゴロクの中身をつくり、みんなと遊ぶというものなのですが、今回はその背景にある考え方をシェアしたいと思います。


何を見出す?=「偏愛○クイズ」**

偏愛○クイズは、大好きなこと、自分にとって大切なこと、思い入れがあることなどをクイズにしたものです。すでに解像度が高い偏愛をプロジェクトに取り入れることで、ワクワク感だけでなく発想の幅も広がります。

とはいえ、「僕はジョルジュ・ペレックが大好きなんだよね」と言っても、多くの人にとっては「誰?」となるように、偏っているからこそ、他者との共有は難しかったりもします。

そこで、クイズの出番です。

僕の家にはテレビはないのですが、温泉のサウナなどでバラエティ番組のクイズを見かけると、もともと興味がなかったはずなのに正解が知りたくなって、CM明けまで我慢して待ってしまうこともよくあります。それくらいクイズという形式には、知的好奇心をくすぐる強い力があるのでしょう。

それをいかして、クイズにすることでお互いの偏愛に興味を持ちやすくなり、共有しやすくなるのではないか、と思ったのです。とはいえ3択クイズとかになるとクイズづくりのハードルが上がってしまうので、○☓クイズくらいにしました。

前の記事でもご紹介しましたが、切り口は①歴史クイズ、②特性クイズ、③冥利クイズの3つです。

例えば、連珠(五目並べ)の①歴史を調べてみると、意外にも発祥は江戸時代の京都で、「1700年代中頃の二条家で行われていた「五石」(いつついし)と称されたゲームが民間に伝わったもの」なのだそう。とすれば、二条家にゆかりのある京都御所の北側(いまの同志社大学があるあたり)を連珠の聖地として盛り上げることができるかもしれません。

次に、他の囲碁や将棋とは違う連珠(五目並べ)ならではの②特性は、何より競技以外のルールはシンプルなので、子どもからシニアまで世代を超えて遊べることでしょう。ちなみに、子どもと一緒に遊ぶときには、にゃんこならべがオススメです◎)

また、早ければ1分くらいで勝負が決してしまうくらいスピーディであることのもポイントです。僕は五目クエストというアプリにはまって二段くらいまではいきましたが、電車やバスを待つちょっとした隙間でも遊ぶことができます。また、方眼紙さえあればいつでもどこでもできるのも、いいですね。このあたりの特性をいかして、待合室で五目並べとかもいいかも?

最後に、連珠(五目並べ)の③冥利は、個人差はありますが、布石を置きながらゲームを組み立てていくので、物事の段取りがうまくなることもあるかもしれません。とすると、段取り上手になるための五目並べとかもありかな?

こうしてクイズをつくるために歴史、特性、冥利といった要素を整理していくことで、ただ純粋に偏愛の対象だったものに秘められた意外な価値が引き出されていきます。そして、実際にクイズを出題することで、それまで興味がなかった人たちに、その奥深い世界の入口に立ってもらうことができるのです。


何を祝う?=「お祝い二択クイズ」**

お祝い二択クイズは、最近の①「うまくいった!」、②「がんばった!」、③「大変だった!」というエピソードについてのクイズです。こちらはペアの人とエピソードを交換しあい、二択クイズをつくります。

お祝いと聞いて「たいそうな...」と思った方もいるかもしれませんが、私たちは毎日お祝いされるにふさわしい経験を積み重ねているはずです。このワークを通じて、参加者にとって気づきや学びの多かったエピソードを引き出し、コミュニティ全体の可能性を耕していきます。


①「うまくいった!」は、成功体験の祝福です。多くの人は「自慢に聞こえてしまうのではないか」と気を使って、自分の胸の中に留めてしまっているかもしれません。

しかし、そうした組織に潜むポジティブな側面にフォーカスする組織変革アプローチ・AI(アプリシエイティブ・インクワイアリー)が注目を集めているように、組織やコミュニティにおいては何より祝福されるべきものなのです。ちなみに仕事や勉強をすることへの意義や重要性、意味を見出した瞬間や、自分自身の中の可能性や才能に焦点を当てたインタビューは、ハイ・ポイント・インタビューと呼ばれています。


続いて、②「がんばった!」は、学びの祝福です。"Manegement 3.0"で知られるJurgen Appelo氏は、著書『Managing for Happiness: Games, Tools, and Practices to Motivate Any Team』の中で「成功や失敗ではなく、学びを祝福しよう」と呼びかけています。うまくいかなかったことも含めて、そこから何を学んだのか、を共有することで、コミュニティ全体の学びも深まるのです。


最後に、③「大変だった!」は、苦労や挫折、失敗の祝福です。ヒントとなったのが社会実験家・陸奥賢さんが考案した「当事者研究スゴロク」です。

【当事者研究スゴロクの効果・ねらい】

①過去にあった人生スゴロクの大部分が「上昇していく生き方」を目指すが、当事者研究スゴロクは「下降していく生き方」こそが人生の醍醐味であると捉え、衝撃的な失敗、苦労、挫折の持ち主を「人生の偉大なる先達」「下降人生の達人」として褒め称える。

②失敗・挫折・苦労エピソードを話すが、その「稀少レベル」「衝撃レベル」をみんなで評価することで、自分の失敗、挫折、苦労を「大変だと思ってたけど3コマぐらいなんだ…(自分の失敗や苦労や挫折なんてまだまだである)」とか「6コマレベルですごいといわれた!(失敗のエピソードだが、人生の達人と褒められた。嬉しい)」といったように相対化できる。

当事者研究スゴロクについて

実際に京都精華大学の授業でも体験させていただいたのですが、「大変だった」の相対化はかなりの癒やしになります。「うまくいった!」「がんばった!」などは、どちらかというとキラキラした話ですが、失敗談の共有もとまた違った質感でコミュニティのつながりを深めてくれるのです。


何を叶える?=「ニーズ一覧表」**

ニーズ一覧表は、いま困っていること、助けてほしいことを書き出したものです。偏愛○☓クイズで盛り上がって心を開き、お祝い二択クイズで深くお互いことを知るとすれば、ニーズ一覧表でいよいよ関係が紡がれていきます。

ここでヒントとしたのが、2012年にAlpha Lo氏が提唱し、世界的に広がっているです。

仕組みはシンプルで、最初にひとり5つずつニーズ(必要としていること)を伝え、力になれそうな人が手をあげます。次にひとり5つずつオファー(できること)を伝え、力を貸してほしい人が手をあげるというもの。誰でも場を開くことができるのですが、ギフト・サークルを通じて小さな願いごとを叶え合うことで、コミュニティのなかに本当のつながりが生まれます。

日本では「でしリスト」とも呼ばれています。


ギフト・サークルのポイントは、誰かのニーズが誰かの秘められた価値に光を当てるということです。「あなたができることは何ですか?」と問われても、なかなか思いつかないという方も多いのではないでしょうか。逆に、「こういうことができる人はいませんか?」と願われることで、「あ、それならちょっと得意かも」という気づくことができます。

先程「うまくいった!」という成功体験も気を使って共有しにくい、と書きましたが、「困っているんだよね...」という相談も、なかなか共有する機会は少ないのかもしれません。しかし、困りごとこそすでにあるリソースを引き出し、活用するきっかけとなります。そして、自分にできることで人の役に立ったという小さな成功体験が、コミュニティの可能性をさらに広げてくれるのです。


ということで、ここでリソースフルすごろくのネタ元を共有してきました。コミュニティのつながりをもっと深めたい、という方は、(偏愛○☓クイズやニーズ一覧表など、ひとつのモジュールでもいいと思いますので、)ぜひリソースフルすごろく、ご検討ください◎


PS

余談ですが、「何を見出す?」「何を叶える?」「何を祝う?」という一連の問いは、実は空海の教えの十六大菩薩からヒントを得たものです。下の図でいうと黄色の部分。

beの肩書きは青の「何を引き寄せる?」→「何を深める?」→「何を讃える?」、MOYAMOYA研究は赤の「何を断ち切る?」→「何を目指す?」→「何を語る?」という流れ。こうしてみても、1500年以上も前に、ソーシャルデザインのためのさまざまなヒントが用意されていると思うと、感動してしまいます...(はやく本を仕上げなければ...!)


はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎