見出し画像

忘れられないご依頼ー写真の原点に触れる仕事

私はPhotographerとして仕事をしていますが、撮影の仕事だけでなく、モノクロ写真のプリントの依頼をいただくことがあります。と言っても頻度としては数年に1回程度なので常設の暗室を作るほどでもなく、自宅の一室を仮設の暗室として作業することになります。
そんなプリントのご依頼の中でも忘れられない仕事が「写真乾板」からのプリントです。

画像1

「写真乾板」とは、透明のガラス板に感光剤(硝酸銀などの光で感光する乳剤)を塗って乾かしたものです。写真用のフィルムが生まれるさらに前の時代に使われたもので、まさに写真の原点と言っていいものだと思います。

こちらのご依頼をいただいた方は、ご自宅を建て替える際に蔵の中からネガフィルムと一緒に出てきたものだと仰っていました。私自身、乾板を扱うのはおろか、実物を見るのも初めてであり、万が一のことがあっては…と依頼を受けるべきかどうか悩みましたが、おそらくここに写っているのはご依頼を頂いた方の祖先にあたる方であり、きちんとしたプリントで一度お顔を見てみたいというたってのご依頼だったので引き受けました。

幸い、乾板そのものの保管状況は悪くなく、一部は乳剤が剥離していたり、僅かにカビが出ている部分はありましたが、カビも乳剤面ではなくベース面だったため丁寧に洗浄することでほぼカビは除去できました。
大キャビネ版の乾板2枚と大手札版の乾板3枚に写っていたのは数人の軍人さんの集合写真や軍人さんを囲む家族写真でした。
日本でガラス乾板が使われたのが1920年代頃までだと聞いているので、だとすれば大正時代か昭和初期の時代の方でしょうか?おそらく地方の写真館で撮られたと思われる写真は光の使い方やポージングなど、実に丁寧に撮影されたものでした。
実際にプリントしたものはこちらでお見せできないのが残念ですが、ご依頼を頂いた方にも大変喜んでいただくことができましたし、私自身も本当に貴重な体験ができたことで、忘れられない仕事となりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?