おばあちゃんの黒豆

年末。
皆、感染症には怯えながら、おそるおそる日常に戻るきっかけを探していたのかもしれない。  
近所の商店街は数年振りの賑わいを見せていた。

普段買い物をしている近所のスーパーで必要なもの一色そろうはずなのだが、盆正月にはとりあえずちょっと先の商店街で買い物をしたくなる。
金時人参、かつお菜に手づくりこんにゃく、トビウオの干物(あご)。
福岡 博多のお正月に必要な食材がこの時期だけ店頭にならぶ。マスク越しながら魚や青物やの呼び声も威勢がいい。

商店街の雰囲気に年末を感じながら、ひとしきり買い物をしてふと乾物屋の店先に黒豆を見つけた。黒く乾燥した丸い豆が、無造作に積まれている。
乾燥して少しシワの入った黒豆の山。
まったくそんな気はなかったのだが、思わず口に出ていた。「これ、300gください」

毎年、お正月には実家に帰る。
実家は実家でおせちを作ってくれるのだが、集まる兄弟家族も、それぞれ腕によりをかけたおごちそうを持ち寄るのだ。

私も、毎年豚の角煮だの、ゴボウの肉巻きだの 、こどもの喜びそうなものを持参することにしていた。
雑煮、栗きんとん、伊達巻き、おなます、そして黒豆などの正統派のおせち料理は、なんとなく母の仕事で、
周りの賑わいとなるものを準備して、さまになるお正月の食卓ができあがるというのが、最近の常だった。

でもなんだか今年は、私の手で、このシワシワでカサカサの黒豆を、つやつやでふっくらした黒豆にしてやりたくなったのだ。

思い立ったが吉日。
私は、追加でお砂糖も買い込み、晦日に備えた。

レシピ■けいこばぁばの黒豆。
黒豆 300g
砂糖 300g
タンサン 適量
釘 13本

釘?………くぎ?
レシピで釘ってなんだ。
モチのことをカチンって言ったり、
トビウオのことをアゴって言ったりそういうことか?と思ったけれど、どうやら本当に『釘』鍋にいれるらしい。
でも、そんなものうちにはないので早速母に電話で聞いてみると、「釘なんか入れたことない。そんなもの入れなくてもちゃーんと黒くなるから、まあ、一度やってごろうじろ」とのこと。

やっぱりな。
まあよい。釘なしでやってみる。

1、
年末30日。まず、黒豆をよく洗い、水気を切る。この時、浮いてきたり、皮に傷のあるものなどは取り除いておく。

2,
300gの黒豆に対して2ℓの熱湯、食用重曹小さじ半分、塩小さじ1、砂糖300gを加えて一晩おく。

3,
31日。丸一日そのまま置いてから、ひたすら煮る。強火で煮ると、重曹のせいかどんどん灰汁がわんさか出てくるので、びっくり水を加えながらひたすら灰汁を取る。

4,
灰汁が落ち着いてきたらふたを切り、弱火にして煮詰める。
豆が柔らかくなったらふたをきっちりして、鍋が真空状態になるよう煮冷ます。

5,
元旦。
少し鍋を温めつつ蓋を開けるとシワのよった豆が見えるかもしれない。それでもそっと底の方から混ぜ、煮汁に含ませるとふっくらつやつやに豆が復活するので心配しないで。


初めて作ってみた黒豆。
ふっくらおいしいつやつやの黒豆ができた。
今年は2種類の黒豆。母の黒豆に並んで私の黒豆も誇らしくお重の中に並ぶ。「そうやね。少しずつ、こうやって、いかなね」にっこり呟いた母に、なんだかさみしいような恋しいような気がして、「いやぁ、まだまだ、お母さんの黒豆には及ばんね」と言っておいた。


今年も福福しくまめまめしい、いい年になりますように。

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