見出し画像

給与明細は謎だらけ (光文社新書) 三木義一

この本は、主にサラリーマンの給与明細に関係する税とその控除に関連する基礎的な内容や、その制度にまつわるここ数十年の間に起きた様々ないざこざなどを、皮肉たっぷりに取り上げる一冊です。

会社の財務三表や、株取引に関する書籍は数あれど、手元の財布に影響する、税やその控除について詳しく説明してくれる本は意外と読んだことなかったので手に取りました。

ぜひこのnoteの最初の章「一年間、いくらあったら最低限の生活ができる?」について、数字を思い浮かべてから読み進めてください。

一年間、いくらあったら最低限の生活ができる?

一番おもしろかったのは、P129 第3章 控除の謎

元気に働くためには、何よりもまず最低限の生活費は必要だ。憲法は最低限の生活をすべての国民に保証しているので、生活に困窮している人にはそれに相当する学の生活保護を支給しなければならない。
この最低生活費とは一体いくらなのだろう? 生活保護法により支給される生活扶助だと、地域差はあるが、単身者でも年間90万円程度(住宅扶助などは別)の金額となる。
所得税で最低生活費を配慮するための所得控除が基礎控除という制度であるが、所得税ではわずかに38万円しか保証していない。38万円で人間としての健康で文化的な生活が確保できるのだろうか。
この基礎控除は昭和40年代頃までは生活扶助額より高かったが、生活扶助が毎年引き上げられていったのに対して、基礎控除額は数年に一度しか見直しが行われなかった。そのために、ついに1977年(昭和52年)から生活扶助と逆転しはじめ、今日では生活扶助基準額の50~60%にすぎなくなっている。

やばくないですか? この数字。

「1年間にいくらあれば生活できる?」と訊かれて、この金額に近く答える人はどのくらいいるのでしょうか。

テレビ番組で、1ヶ月1万円生活なんてものもありますが、それに近いものがあります。倍算すると「1ヶ月 3万1600円生活」ですね。キッツ......

2020年には、48万円に引き上げようとなっているようです。それでも、年間48万円...... 「1ヶ月 4万円生活」...... 苦しいものだ。

アメリカだと、47万円。イギリス180万円。ドイツ111万円。フランス124万円。くらいだそうです。レートやら何やらで変わるにせよ、欧州とは結構な開きがありますね。


歴史的には、こんな数字を推移してきているみたいです。

・昭和25年:2.5万円 ・昭和26年:3.8万円 ・昭和27年:5万円
・昭和28年:6万円 ・昭和29年:6.8万円 ・昭和30年:7.5万円
・昭和31年:8万円 ・昭和32年:8.8万円 ・昭和33年~36年:9万円
・昭和37年:9.8万円 ・昭和38年10.8万円 ・昭和39年:11.8万円
・昭和40年:12.8万円 ・昭和41年:13.8万円 ・昭和42年:14.8万円
・昭和43年:15.8万円 ・昭和44年:16.8万円 ・昭和45年:17.8万円
・昭和46年:19.5万円 ・昭和47年:20万円 ・昭和48年:20.8万円
・昭和49年:23.3万円 ・昭和50年:25.6万円 ・昭和51年:26万円
・昭和52年:28.2万円 ・昭和53~58年:29万円 ・昭和59年~63年:33万円
・平成元年~6年:35万円 ・平成7年~現在:38万円

引用元は以下(国税庁のサイトとかから見つけられなかった......)


「最初から少ないじゃないか」と思うかもしれませんが、それは明らかな物価の違いの影響があったようで、たとえば以下リンクに解説されている通り、

1965年の基礎控除は127,500円。当時基礎控除額の算定に当たっては、大蔵省メニューという成人男子が健康な身体を維持できる為の献立を基に一年間の食費を算定し、次にエンゲル係数で除して最低生活費を求めていた。このメニューによる20~27歳の年間食費60,096円、年間生活費185,025円。政府は一日2,500カロリー摂取できるようにその献立を国立栄養研究所に依頼した。

こんな風に、食べるに困らないような数字を算出していたようです。

さらに続きます。

もし65年当時の基礎控除額が適正であったとすると現在の適正基礎控除額は53万円である。尚当時の標準世帯の生計費は年975,326円で、大蔵省メニューでは人間よりチンパンジーの方がましだという批判があったことを付記する。

酷い話だ。

そして、もう一つ言えるのが、「人はパンのみにて生きるにあらず」ならぬ「出費は食だけで済むにあらず」。どうしたって、家賃もかかれば水道光熱費だってかかってきます。

それらいろいろを鑑みると、税金について無知のままでいると、結構なところで損失を生むことに成るなと思うわけです。

もちろん、税金の制度そのものを直接に変える権限は持ち合わせていないのですから、最終的には投票をちゃんと考えてやる。ということに繫がるというのも一歩でしょうし、知らなかった控除や制度を新たに使うようにして、考えながら税金を払うというこのも一歩だと思います。

今回、この本を読んでよかったのは「ルールには理由がある」という、当たり前のことへの気付きです。

今回引用した、「基礎控除」は "38万円" という、正直中途半端としか言えないような数字がなぜ導き出されているのか。なんのために控除されているのか。ということを知るきっかけになりました。

同様に「配偶者控除」や「医療費控除」などなど、他にもさまざまな控除がありますし、もちろん税金だって「所得税」以外にもいろいろあります。

それらルールのどれもが、何がしかの理由を以て課税(あるいは控除)されており、金額も正当な理由があって導き出された金額です。

そして気をつけなければならないのは、ある理由を以て、ある金額の税(もしくは控除)が設定されているとしても、時間が経てば事情が変わり、ルールが設定された当初はよかったものでも、しばらくすると実態にそぐわないものが出てくるのだということです。

今回の「基礎控除」は、そう捉えて然るべき税の一つであると言えるものなのでしょうし、実際2020年に控除額は引き上げられる予定です。

物体と違って、ルールは老朽しても目に見えず、時間が経てば、そのルールを支えていた理屈を覚えている人たちも、歳をとってしまう。そして、理屈をまともに知らないまま、ただ設定されていたルールに即して税金を払っているじぶんらが出来上がるわけです。

やっぱり、払っているお金として捉えるのであるならば、ルールぐらいは知っておいた方が面白いと思うのです。

終わりに

「本を読んだり、新しいこと知るのは興味あるけど、そんな時間無い!」という方、ぜひこの #週一文庫 のマガジンをフォローしてください! 代わりに毎週じぶんが何かしら本を読んで2,000文字程度で紹介します!


ビジネススキルのような、明日すぐに使えるものでは無いけれど、雑学として知っておくと日常がちょっと面白くなる。そんな書籍を紹介し続けていきたいと思っています。


今週の一冊はコチラ▼


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?