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HIGH-MACS Tactics デザイナーズノート

 なぜ今さら四半世紀も前の、それも知る人ぞ知るマイナーなTVゲームをボードウォーゲーム化しようと思ったかと言えば、まず当時の荒いポリゴンゲームが目にキツくなったというのがきっかけとしてありました。加えて以前からガングリフォン世界のウォーシミュレーションを遊んでみたかったということと、実際20代の頃に作ろうと挑んで挫折した経験等、秘めていたものもあったと思います。
 デザインの方針についてですが、前提として僕が遊びたいものを作るというのがあるので、完全な初心者向けゲームは作りたくありませんでした。また逆にプレイアビリティを下げてまで細かくミリタリー要素を詰め込むようなゲームも苦手なので、やはりデフォルメとオミットは重要になります。つまり完全な初心者向けではないけれど、この手のものをかじった人ならすんなり入れるシンプルなゲーム――というデザイン方針が決まります。
 さて、いざデザインをする段になって悩んだのは、元が単騎で戦うTVゲームの二次創作である以上、1ユニット1機というスケールは守りたい――しかし射程の長くなった現代戦でそれをやろうとするとマップ範囲が広大になり、ボードゲームとして成立させるのが難しいという問題がまずありました。
 悩んだ末、このゲームで想定したスケールは1ヘクス200メートル程となっています。これは1ユニット1個小隊規模の戦術級ゲームによくあるスケールで、それと比べるとこのゲームのスタック制限はあまりに少なすぎます。しかしこれは僕自身、うずたかくスタックが積み上がったゲームをプレイしたくないという、その一点によりリアリティは無視することにしました。
 もっともこういったやり方には限度があります。完全なリアリティ無視では、ガングリフォンで培った精神は失われてしまうし、そのくせチート級のHIGH-MACS性能は考慮せねばならず、嘘でも何となくリアルっぽく感じられる戦場をいかに作り上げるかが次の課題になりました。
 このゲームはシミュレーションとして見た場合、決してリアル路線ではありません。現代戦にあるべき色々なものがオミットされています。しかし一応はウォーシミュレーションなので、HIGH-MACSの耐久力を異常に上げるTVゲーム的なデザインはできません。であるならば、脆いけれど敵弾が当たらないというバランスにできないかを考えました。
 これに関しては原作設定と、TVゲームでも可能なあるテクニックにヒントがありました。つまり誘導ミサイルに対してベラボーに強くし(原作設定)、仮に敵弾が命中コースに入っても、ブーストが残っているうちはそれを引き替えに避けられるようにしたのです。(TVゲームの方は強制着陸を応用したテクニックなので少し違いますが)
 そして実体弾には強くないものの、対空機銃には耐えられるため、ミサイル至上主義的なガングリフォン世界においてHIGH-MACSは非常に厄介な存在――というバランスが成り立つわけです。
 このゲーム性を維持するため、ガングリフォンの世界設定は2015年ですが、誘導性能はガングリフォンというゲームが作られた時代並(またはそれ以下)となっており、ガングリフォン2から変更された撃ちっ放しの誘導ミサイルの存在は敢えて無視しています。
 そういった歴史改変の点から、昨今の世界をざわつかせているドローンはもちろん、ジャベリンも当然ありません(ジャベリンの部隊配備はガングリフォン発売年と同じ)。これらはHIGH-MACSの存在そのものを否定しかねないからです。
 加えて実体弾の命中精度も現実ほど進化しておらず、戦車自体の取り回しも悪くデザインされています。下手にリアルにするとロボットそのものが『いらない子』になってしまうというジレンマです。
 話題ついでに触れますと、戦争におけるドローンの影響が強くなる昨今、費用対効果の面から誘導ミサイルでは迎撃が割に合わず、一時的な戦術の間隙が生まれているように思います。その意味で言えばガングリフォン世界におけるHIGH-MACSの存在は、対処の難しさという点で少し似ています。
 もちろんガングリフォンとその後の現実世界との類似点は、今に始まったことではないのですが・・・
 既に過去の未来となってしまったガングリフォンのウォーゲーム化は、言わばレトロフューチャーを題材にしたとも言えます。それは実際より劣っているものもあれば、進みすぎている場合もあります。しかしそんな中にあっても類似点が多く存在することは、ガングリフォンの世界設定がいかに先見性があったかという証明にもなっていると思うのです。これは世界設定を担当された岡田厚利氏の時代を読む目あってのことでしょう。
 これほどのゲームが「知る人ぞ知る」で終わってしまうことはやはり寂しく、もしこのHIGH-MACS Tacticsが微力ながらも啓蒙の一助になるのなら、僕としては本望であります。
 とはいえあくまで「僕が遊びたいもの」という子供じみた部分に変わりはないので、多くは望まず、続編に向けても個人が楽しむ程度の範囲でゆっくり進めていこうと思っています。
 そして最後に一つ、この『HIGH-MACS Tactics』はガングリフォン1作目の世界観を中心に、シナリオとしては2作目までを考慮に入れて制作されています。それ以降のシリーズは全く参考にすることなく作られていることをお断りしておきます。

克太弾

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