『マイトロッコタウン』制作ノート デザイン編
こんにちは。
Studio GGのShun(@nannann2002)です。
今回はゲームマーケット2023春で発売した『マイトロッコタウン』の制作ノートを公開したいと思います。
『マイトロッコタウン』の概要については以下からご覧ください。
簡単な紹介動画もありますので、こちらを見ると簡単にゲームの雰囲気が分かると思います。
ゲームの着想
『マイトロッコタウン』を作るための初期衝動は
「ネットワークビルディング(およびピックアップ&デリバリー)のゲームを作りたい」
というものでした。
「ネットワークビルディング+ピックアップ&デリバリー」の有名なゲームには「蒸気の時代」や「Steam」などといったものがあります。
これらのゲームに輸送する資源のリソースマネジメント要素を融合できたら面白いのではないか、というのが最初の着想です。
しかし、このアイデアはなかなかうまくいきませんでした。
箱庭ゲームへの路線変更
そのため、このアイデアはたまに思い出すように試作しては没、というのを(かれこれ5年くらい)繰り返していました。この段階では、ゲームは共有マップを想定していました。
しかし、何度目かのテストプレイで、AYAが「箱庭でいいんじゃない?」といったこときっかけに、ゲームは大きく前進します。
「箱庭+リソースマネジメント+ネットワークビルド」から連想されたのが、デジタルゲームにおける「工場建設ゲーム」です。
デジタルゲームでは1人用の工場建設ゲームは人気ジャンルの1つであり、「Factorio」などの有名ゲームが存在します。
これらのアイデアを参考にすることで、「ネットワークビルディング+リソースマネジメント」のゲームを作ることができるのではないかと考え、調査を行いました。
これらの工場建設ゲームの面白さのポイントを抜き出すことで、箱庭工場ゲームとしての『マイトロッコタウン』の原案が考案されました。
面白さのポイントの抽出
さて、「Factorio」などのデジタル工場建設ゲームを調べた結果、以下のようなポイントをコアの面白さとして抽出しました。
箱庭をつくる「創造的」な楽しさ
輸送経路を接続を考える「パズル的」面白さ
出来上がった工場が動くさまを眺める「自動化」の楽しさ
スループットを管理する「マネジメント」の面白さ
これらの面白さを実現するためにゲームに必要な制約について以下のように考えました。
箱庭をつくる「創造的」な楽しさ
1人用ゲームで工場を作っていくゲームは「箱庭的」とも呼ぶ「創造性」に起因する楽しさがゲームの中心になっています。
この楽しさを実現するためには、「タイル」を用いて、自由に組み合わせることで、「創造性」の高いゲームにしてあげるのが良いと判断し、手元にタイル配置箱庭ゲームにすることにしました。
生産や加工を行う「建物タイル」間で資源を「輸送」する箱庭ゲームという方針が決まりました。
輸送経路の接続を考える「パズル的」面白さ
デジタル工場建設ゲームを調べる上で、面白さの核とも思えたのが「どのように輸送経路を繋ぐかを計画すること」です。
線路の接続関係を意識しながら計画的に線路を組み立てていく「パズル性」こそがこれらのゲームにおける特徴的な部分と感じました。
そのため、『マイトロッコタウン』では、「線路タイル」という輸送の経路のためだけのタイルを用意し、これを自由に組み合わせることで自分の工場の輸送路をパズル的に構築することができるようにしました。
つまり、「建物」と「線路」のタイルを組み合わせて工場を作るゲームにすることになりました。
「キーフラワー」を始めとして、専用の線路タイルを含まない(建物タイルに付属している)ボードゲームはいくつかあったので、それとの差別化にもなっています。
なお、空間把握負荷の低減のため、タイルは四角タイルにすることにしました。
出来上がった工場が動くさまを眺める「自動化」の楽しさ
また、デジタル工場建設ゲームでもう一つの重要な要素に「自動化」の楽しさがあります。
自分が作った工場が自動的に動いて何かを生産していく様は達成感を感じることができます。
ボードゲームではデジタルゲームと違ってコマを自動的に動かしたりすることは難しいのですが、体感としてこれを実現するために輸送を「フリーアクション(コストのかからない行動)」にすることにしました。
また、輸送の段階ではほぼ思考が必要ないようにしておくことで、あたかも「自動で」動いているかのように感じることができると考えました。
スループットを管理する「マネジメント」の楽しさ
「自動化」を楽しさだけでなく、面白さに繋げているポイントがこの「スループット管理」だと考えました。
「スループット」とは、「単位時間あたりに生産・加工出来る資源の量」のことで、ここにアンバランスが生じるとそれが「ボトルネック」となり、ラインが滞ってしまいます。
そうならないように、生産される資源と加工出来る資源の量をコントロールするのが「スループット管理」です。
この面白さを実現するために、各タイルには置ける資源の上限を表す「資源マス」を設け、「生産済みの資源を退けなければ次が生産出来ない」「一度に加工出来る量に上限がある」という状態を作りました。
これにより、『マイトロッコタウン』は「スループット管理」の面白さをボードゲームで実現出来たと思います。
ボードゲームとしてのコアシステムの作成
上記のようにデジタル工場建設ゲームの面白さを実現するルールは出来ましたが、これをマルチプレイヤー向けのボードゲームにするにはいろいろ必要なルールが足りません。
そのため、ボードゲームとして箱庭工場ゲームを実現するために、以下のようにいくつかのことを決めました。
オープンドラフト亜種のタイル獲得ルール
初期タイル「森」「山」の導入
「生産」「建設」「輸送」「加工」の4フェイズ構成のラウンド
「建設」のない最終ラウンドの導入
以下で順に解説します。
オープンドラフト亜種のタイル獲得ルール
タイル配置で箱庭工場するというのは決まりましたが、どのようにタイルを獲得するのか、のルールを決定する必要があります。
特に、ボードゲーム化するにおいて、タイル獲得における取り合いのインタラクションは重要です。
『マイトロッコタウン』のタイルの獲得には「ワーカープレイスメント」をベースにした特殊な「オープンドラフト(場に並べられたタイルを順に取る)」のルールを導入することにしました。
「基本建物」と呼ばれるタイル群は、各ラウンドで1枚しか獲得することができず、次のラウンド開始時に補充されます。
これはワーカープレイスメントのインタラクションと全く同じで、「ワーカーが置いてあるマスが選択できなくなる」という部分を「このラウンド分のタイルが売り切れていると選択できなくなる」というUIで表現しなおしたものになります。
「タイルを獲得する」という要素のみで構成することから、「線路」は「いつでも取得可能」、「特殊タイル」は「オールユニーク(全て違う効果)」という形にすることで、タイル毎の特色の違いを決定しました。
こうすることで、先に「建物」を建てるのか、それとも「線路」を引くのかというジレンマが生まれ、ボードゲーム的な面白さにつながると考えました。
初期タイル「森」「山」の導入
タイルを獲得するには、獲得方法だけでなく、獲得する為の「コスト」を考える必要があります。
もちろん、「手番」のみをコストに獲得してもよいのですが、このゲームはリソースマネジメントゲームということで、「資源」が存在しますので、これをコストに使わない手はありません。
そうすると、資源を獲得するアクションを別途用意するか、初期に資源(もしくは資源収入)を与えてあげる必要があります。
アクションの種類を増やすのは無闇にルールを複雑にすることに繋がるため、資源を生産する建物であるところの「森」と「山」を初期タイルとして、最初にプレイヤーに配ることにしました。
また、手元の建築用資源(木および石)が「ワーカー」の、「ラウンド毎のアクション数を表す」という部分を担うことで『マイトロッコタウン』のシステムが構成されています。
「生産」「建設」「輸送」「加工」の4フェイズ構成のラウンド
さて、これまでの想定でゲームに必要な最低限のアクションは「タイルの獲得」「建物効果の解決」「資源の輸送」の3つです。
このうち、「建物効果」を「生産効果」と「加工効果」に分けることで、「生産」「建設」「輸送」「加工」の4つのフェイズで構成されるラウンド制のゲームとすることにしました。
こうすることで、タイルの獲得前に資源を獲得する効果を実行され、タイルの獲得後に資源を消費する効果を実行されるようになり、ゲームの進行上都合が良いと考えました。
「森」や「山」といった建設用の資源を産む建物の余りを「加工」で使えるのもゲーム的に面白そうだと感じました。
実際、「建設」に使うのか、「加工」に使うのか考えさせる独特のジレンマを産んでいます。
また、上記の「自動化」の楽しさを実現するために「輸送」に関しては、フェイズ中で無制限に移動が可能なルールとしました。
「建設」のない最終ラウンドの導入
最終的なルールは違いますが、最初期の『マイトロッコタウン』では、「建設」のない最終ラウンドが導入されていました。
これは、最後に全く思考を含まないラウンドを導入することで、作った工場の自動化具合を眺めて達成感を感じるためにだけに導入したものです。
自動化システムを作るうえで、その「自動化具合を眺める」という行動は非常に重要なプロセスだと考えたためです。(いわゆる「結果確認」のプロセスです。)
なお、この「自動化具合を眺める」要素は『最終ラウンドには「輸送」と「加工」を好きなだけ繰り返すことができる』というルールに形を変え、最終版の『マイトロッコタウン』にも生きています。
プロトタイプ版の完成
このようにして『マイトロッコタウン』の初期バージョンが完成しました。
実際にAYAと一緒にプレイしてみると、まだ問題は多いものの非常にきらめきを感じたため、これはいけるだろうとすぐにディベロップに移行することが決まりました。
(ディベロップ編へ続く)
『マイトロッコタウン』は最近Amazonでの再販が始まっておりますので、興味を持っていただけましたら、手に取っていただけたら幸いです。