Nレスな日々。

大事なものは失ってから気づくというけれど、
「失われきらない」というのも歯痒くて嫌だな、という話。

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Macの [Nキー] の調子が悪い。

と、このようにMacから書き込めていることからわかる通り、まるきり反応しないというわけではない。
具体的には、だいたい三回に一回程度の確率で "n" が入力されない。

原因はわかっている。
僕の使っているMacbookAirには「バタフライキーボード」という機構が搭載されていて、詳しい説明こそ割愛するが、これはMac本体をほんのすこしだけ薄くすることに一役買っている。

コンドームじゃあるまいし、べつに何でもかんでも薄けりゃいいってもんじゃない。なによりこのバタフライキーというのは小さなゴミやホコリが溜まりやすい構造をしていて、ちょっと使用するとすぐに入力異常をきたす筋金入りの欠陥品だ。事実、僕はもう二度ほどAppleショップの無料修理に駆け込んでいる。
というのもこのバタフライキー、あんまりにもすぐぶっ壊れるもんだから、
例の国で集団訴訟を起こされたことがある。
紆余曲折あって、Appleのほうも「チッ……サーセンした」ということになり、バタフライキーの修理は基本的に無料で行ってくれるようになった。
「タダで直しますからね、ガタガタ言わないでくださいね」とでも言わんばかりの対応である。
いやそうじゃなくて、こんなすぐぶっ壊れるようなものを販売しないでいただきたいのよ。
本体の厚みが増して、普通サイズのMacになったっていいからさ、普通に使えるものを売っていただきたいの。わからない?

ねえ、あたしそんなに難しいこと言ってるかしら?

「ほんの数ミリ」を追求したバタフライキーボードが、結果的に大問題を呼び起こし、Macに長年親しんだユーザー、Apple本社、そして多分バタフライキーボード考案者も、みんな不幸になった。

はたしてバタフライエフェクトとは、今日もどこかで蔓延っているのだった。


閑話休題、今日はNキーの話だ。


これがとにかく厄介で、日常において日本語で文章を打つ際、
 [Xキー] とか [Lキー]などのと滅多なことでは使用しないキーたちとくらべると、この [N] というキーのなんと重要なことか。

「筆が乗る」と言っていいのか、それとも「指が走る」とでも言うのか、
とにかく頭の中で文章ができていて、タイピングする指にも感情のリズムが乗っているとき、僕はふと【書いてるゾーン】に入ることがある。
というより、この「書いてるゾーン」に入りたいがために文章を書いていると言ってほとんどよい。

しかしこの反抗的な [Nキー] のせいで、その神秘的な時間はいともたやすく霧散してしまう。

たとえば、「なんなんだこのナンは」と言うような文を書くとしよう。
するとこれは結構な確率で「なん穴だこのナンは」や「なな七だこの難は」といった、
少しだけ正気の手綱が緩んでしまいそうな文章が生み出されることになり、そこにタイプミスなんかが加わってしまった日には

「なんなんだコナンは」などと記される。

思わず「新一ですけど」と返答したくなってしまい、僕のゾーンはあっさりと霧散してくのだ。

実に不毛である。

が、実はこれはまだマシな事例であることをお知らせしたい。
「なんなんだこのナンは」というような文を記入するときは、前もって
「Nがいっぱい来るぞ」と覚悟できるからで、結果的に多少のアレさには目を瞑ることができる。みなかったことにすることができる。
問題はむしろ、全くのノーガード時に訪れるのだ。

というわけで、これから一つ実験を行う。
僕は今から強制的に【書いてるゾーン】に入る。
その最中、Nキーの反抗的な態度には一切屈することなくタイプし続けよう。
反抗期を迎えてグレ始めた子供に対する最も有効的な手段は親もグレることだと聞いたことがある。それをやってみようじゃないか。
どのような文章が出来上がるか、是非みなさんの曇りなき眼で判断してほしい。

それでは、どうぞ。

と言うわけで今日も僕は二駅歩いた。
その最中、これまで通ったことのない商店街を歩いた。
とても可愛あしい商店街だったので、僕はなんだか嬉しくなって、お酒を飲みながら歩くことにした。
ふと一見おこびにが目に入る。ナチュラルローそだ。
自動ドアをくぐると、店内の暖かい空気が僕を包んだ。
同時に、くら、とめまいのような感覚にとあわえる。ずっと暗い道を歩いてきたからだろう、磨き抜かれた床に煌々と反射するLEDが、少し目に痛かった。
てんあいを進み、奥にあるドリンクコーナーからハイボールを手に取ると、僕はエジに並んだ。
「このままでよおしいですか?」店員さんの声だ。
「おえがいします」
僕はお金を支払い、また冷たい夜の街へと繰り出す。
見知らぬ街、通ったことのない道。凍える空と、笑顔の自分。
その全部を飲み込んでやろうと、飲み慣れたハイボーうを片手に、
僕は足を踏み出すのだった。


結論


[Rキー]もグレてた。




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