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#7 音楽を生業とする〜音楽事業所得の税金〜

久しぶりに面白い経済の本に出会いました。

筆者はプリンストン大学の経済学者で、労働省や財務省でチーフ・エコノミストを務め、オバマ大統領の下で経済諮問委員会の委員長も務めています。
アラン・クルーガーが亡くなったのは2019年の春。Rockonomics が出たのはその少し前、58歳だったそうです。この本はクルーガーの遺作ということになります。

Rockonomics。「経済はロックに学べ」という邦題がついてますが、それはちょっと無理矢理あおりすぎじゃない?と思いつつ(笑)、ついついAmazonでポチッとしてしまいました。これが凄く面白かったー。経済学をちょこっとかじっただけの私は現実をちっとも説明できない経済学を、単なる勉強しなければならない一般教養程度にしか思っていませんでしたが、最近、ミュージシャンのお金の流れについて話すことが多くなってきた私には、とっても示唆に富んでいて、なにしろ一気に読み進みました。教科書のような体系立った本ではなく、アメリカの有名ミュージシャンの名前もいっぱいでてきますので、楽しく読むことができます。

第1章 イントロ ── なぜ音楽から経済の仕組みがわかるのか
第2章 マネーを追え ── 経済学者から見た音楽ビジネスの本質
第3章 ロックを支える人的資本 ── ギグ経済の先駆者たち
第4章 スーパースターの経済学 ── 市場の勝者はこうして生まれる
第5章 ヒットは「運」から生まれる ── 累積的優位とリスク管理
第6章 ライヴは続くよ ── 体験経済と価格のメカニズム
第7章 音楽マネーを巻き上げろ ── バンドマンの契約理論
第8章 ストリーミングが世界を覆す ── サブスクリプション経済革命
第9章 ぼやけた境目 ── 知的財産をめぐる守護者と破壊者
第10章 音楽は国境を越える ── 中国で進む音楽革命
第11章 アウトロ ── 世界一お得な買い物
付論 ポールスター・ボックスオフィス・データベースの評価

●音楽を生業とするということ
さて、本題。前回は副業ミュージシャンについてということで、本業を持ちながらミュージシャンを続けていくかどうかとお悩みの方の相談に答える形でお話ししました。今回は音楽を生業とする方、あるいは生業としていこうとしている方へ向けて、お話しできればと思います。

先述のRockonomicsでは、音楽を生業にする理由をこのように書いています。
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人が音楽を生業にしようと心に決めるのはどうしてだろう?音楽業界のスターや新人をインタビューし、ミュージシャン本人が語った話をいくつか読んで、音楽の道を進む一番の——そして最高の——理由は、音楽を愛する深くて変わらぬ心、神秘的と言っていい魅力を創り出す音楽愛があるからであって、名声だの大金だのを夢見るからじゃない、はっきりそうわかった。ナイル・ロジャースは伝説の歌い手にしてギタリストであり、レコード・プロデューサー、作詞家、作曲家、アレンジャーでもある。彼がなんで音楽をやろうと思ったのか、簡単で、でもよく人も言う説明を語っている。「聴いてもらいたいからだよ」。(アラン・B・クルーガー. ROCKONOMICS 経済はロックに学べ! (Japanese Edition) (pp.93-94). Kindle 版.)
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生業とする以上、そのお金の流れを把握し、見える化することは必須です。
少なくとも、税務署からは税務申告を求められることになります。納税のための「見える化」は、自分だけが見えるというだけでなく、帳簿をつけたり、領収書を保存したりといった、「検証可能な見える化」が必要になります。

●音楽事業所得の税金
前回は副業としての音楽活動に関わる税金についてお話しさせていただきました。税務的には「雑所得」に関わる税務ということが言えます。今回は本業としての音楽活動に関わる税金についてお話ししようと思います。税務的には「事業所得」に関わる税務ということになります。どこまでが「雑所得」で、どこからが「事業所得」かというのはなかなか難しい判断が必要だということは前回お話ししました。少なくとも音楽を生業とする以上、その方は税務上「個人事業主」ということになります。
「個人事業主」とは、法人を設立せずに個人で事業を営んでいる人を指します。税務署に「開業届」を提出して事業開始の申請をすれば、個人事業主として独立したとみなされます。似た言葉で「フリーランス」がありますが、開業届を提出せずに個人として独立して仕事を請け負う働き方の人をフリーランスと呼びます。税務上では個人事業主と同じくくりです。
ただ、「開業届」を出せば必ずその所得が事業所得となるというわけではないことは、前回お話ししましたね。今回の税務通達の改正により、少なくとも帳簿をつけていれば、「事業所得」と認められるようになりそうです。もちろんルールに従った帳簿が必要ですし、それを検証できるように領収書等を保存しておく必要があります。パンクロッカーが領収書をもらっている絵はあんまり見たくないような気もしますが笑。どうせ「ルールに従った帳簿」をつけるなら、今はクラウドで簡単に帳簿を作り、決算書も作れてしまうので、色々なメリットがある「青色申告」してしまうことをお勧めします。「開業届」とともに「青色申告届出書」も税務署に提出しましょう。

●個人事業か、会社作るか?
個人事業主のままでも、青色申告をしている以上、税務的なメリットは十分に取れていると思います。それでも段々と事業が大きくなり、そろそろ会社組織にしようか(法人成り)という場面がきます。法人成りのメリットデメリットはどうなんでしょうか?
一般的には、個人事業の利益が800万円を超えたあたりで法人化するのが税務的にはよいといわれています。法人となれば、なかなか個人で申告するのは難しくなりますので、税理士を雇ったりすることとなり、コストもかかりますね。もちろん税理士を雇ったり、スタッフを雇ったりすることは、個人事業主でもできますので、デメリットと言えるかどうかはわかりませんね。
法人成りをすることで、借入や資本など、資金調達がしやすくなることもあります。法人化することで、「何をやりたいのか」をきちんと理解して進むことが大切です。

●バンドの経営
バンド活動の苦労をよく耳にしますが、聞けば聞くほど、会社経営における組織運営の苦労と同じように思います。バンドという組織のマネジメントは会社組織のマネジメントと同じです。誰かがリーダーシップをとり、バンドの方向性をまとめたり、対外的にギャラの交渉をしたり、その配分をメンバー間で行ったり。時には契約やら、請求やら、経理やらという事務も必要になるかもしれません。こうしたマネジメントを委託したりするケースもあるのでしょう。こうしたことを考えると、バンドメンバーで会社を作るというのもアリかもしれませんね。
一人株主で会社を作ったとしても、実質的には個人事業主と変わりはありません。一方で、経理やら、給与計算やら、いわゆるバックオフィス業務が負担になることが多いです。バンドメンバーでこうしたバック業務を共有することできれば、メリットは大きいかもしれません。

●音楽活動の収支
音楽を生業とする以上、その業界についての分析が必要ですよね。先述の本はアメリカの音楽業界の現状について、経済的な側面から分析をし、音楽業界の理解を深めるために必要なさまざまな示唆を与えてくれます。こうした業界を分析した上で、自らの音楽活動の収支についても把握し、自らの活動の参考にしていくことが、ミュージシャンが「お金を整える」ということなのかもしれません。
税金のための収支の見える化は、単に「音楽活動の収支」といった漠然とした収支で十分ですが、ライブによる収支、物販による収支、レコーディングによる収支など、収支の仕組みの違う活動についてさらに細かく見える化することができると、ミュージシャンが「お金を整える」ための方向性が見えてくるように思います。


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