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花物語 巻ノ一・ウメ

冬から早春を彩る花木の代表格

かつて「花」といえばウメのことだった

万葉集の時代、サクラよりウメが好まれた。単に「花」といえばウメのことだった。新古今和歌集の時代、サクラに逆転された。という話は、花好きお約束の薀蓄(うんちく)。なお万葉集に詠まれた数の1番目はハギで、ウメは2番である。

現代において「花」といえば確かにサクラのことだ。イメージとしての「花」は圧倒的にサクラである。しかしながらウメも、現物の花としての人気は負けず劣らず高い。

栽培し身近に楽しむのなら、サクラよりも断然、ウメだ。盆栽花木では代表格だし、優れた庭木にもなる。サクラのお花見は、ほんの一時である。それと比べてウメは鑑賞期間が長い。お正月明けから3ヶ月ほど咲き続けている。各地にある梅名所、ずっと「梅祭り」状態となる。

お花見のサクラは圧倒的にソメイヨシノだ。天候にもよるが開花宣言から約1週間で満開になる。次の1週間で見事に散ってしまう。良くも悪くも、その潔さ。今日、花の代表に上り詰めた所以であろう。南北に長い日本列島。例外はあるものの、ほぼ2週間の開花期間。短期決戦の桜前線として駆け上がっていく。

代表的な梅の品種は「白加賀」である。次いで「南高」だ。いずれも一重の大輪で早く咲く。大きな実が獲れる。実梅であり、花梅として兼用されている。ソメイヨシノは実がならない。観賞用のサクラには実がなるものもある。しかしサクランボは獲れない。サクランボの木はセイヨウミザクラ。観賞用のサクラとは別枠である。

梅の名所には、実梅の産地として「白加賀」や「南高」の純林もある。ただしソメイヨシノのように、圧倒的に全国を制覇しているということではない。多くの梅名所では、早咲きから遅咲きまで、多数の品種が植えられている。ウメの観賞期間が長いのは、寒い時期から咲くということに加え、豊富な品種があること。それがサクラと比べて、広く普及しているからなのだ。

白加賀の梅林

切らぬは馬鹿?

もう1つ、花好きに知られる定番の薀蓄がある。「サクラ切る馬鹿、ウメ切らぬ馬鹿」。サクラは剪定に弱いため枝を切ると枯れてしまう。一方でウメは剪定が欠かせない。昔からそう言われている。検証してみよう。

ウメは剪定しないと枝が伸び放題となる。放任では樹形が乱れ、花の咲き方も先端ばかりでバランスが悪い。その年に伸びた枝に翌年の蕾がつく性質のためだ。毎年適切な剪定を行えば整った樹形を維持できる。幹のところまで切り込むような強選定を行っても、よく芽が吹く。剪定する時期も落葉期だけでなく、生育中に伸びた枝先を切り落としても、剪定が原因で枯れることは少ない。

ソメイヨシノなど多くのサクラは特に剪定などしなくても美しく咲く。大きな木にはなるけれど、自然に樹形は整う。環境さえよければどの枝にも満遍なく花をつける。では、よく言われるように剪定すると枯れるのか。そうでもない。細い枝を切る弱剪定なら、ほぼ大丈夫だ。強剪定は適期に作業し癒合剤を塗るなど、適切に行えば可能である。

ということで、ウメ切らぬ馬鹿は正しい。サクラ切る馬鹿は少々言い過ぎかもしれない。

家にある盆栽の冬至梅は私の年齢と同じくらいか、それ以上の樹齢がありそうな古木だ。冬至梅というけれど実際には冬至すなわち年内に咲くことは稀だ。年明け、お正月にもほぼ間に合わない。早くて1月半ばである。ただし咲く準備はできているので、12月半ばに家に取り込めば即成で開花させられる。冬至からお正月にかけて花を観賞することは可能であると思われる。

年間の管理はさほど難しくない。大切なのは開花後の剪定。新芽から葉が展開する前に行う。不要な枝を除く。残す枝は原則2〜3芽を残して切り戻す。同時期に植え替えができる。若木では毎年、古木なら2〜3年に1回でよい。用土は赤玉土だけで、不思議なほど育つ。

4月から、7月までと、9月に月1回、置き肥をする。あとは夏の剪定。7月、新梢が伸びたら、ちょうどよい長さに切る。その後に出てくる新芽は、都度、切り落とす。夏の間に、新梢に花芽ができる。落葉してからの剪定は、花芽を見て、邪魔な枝を落とすだけ。冬を越せば、開花を迎える。

ウメは丈夫な花木である。放置しておいても咲くし、庭木ならめったに枯れない。

盆栽の冬至梅

イチオシの梅郷、再生へ

私が開花時期に訪ねたことがある梅林を。大倉山公園。府中郷土の森。曽我梅林。吉野梅郷。意外と少ない・・・。神代植物公園、大船フラワーセンターは印象が残っている。梅林ではないが鎌倉のお寺には梅の見どころがいくつかある。

私の一番のお気に入りは、吉野梅郷だった。だった。だった・・・。ウメは丈夫な花木であると書いた。近年、その常識を覆すような強敵が蔓延している。「ウメ輪紋ウイルス」である。

2014年、吉野梅郷のなかで一番の見どころだった青梅市梅の公園のウメをすべて、伐採。理由は「ウメ輪紋ウイルス」による深刻な病気が発生したこと。当時、大きく報道され、失われた梅名所を嘆く声が多く聞こえた。私もショックを受けた。復活は絶望的とも言われた。

地元の尽力により、「ウメ輪紋ウイルス」の再発防止策を講じる。2016年に農水省の許可が下り、再植栽を開始。2017年には「青梅吉野梅郷梅まつり」を再開。当初は幼木で見栄えがしなかったが、以来数年を経て、2020年までには梅の公園に約1200本が植栽された。コロナ禍が一段落した2023年、「青梅吉野梅郷梅まつり」が以前より小規模ながら開催された。

奇跡の復活ともいえる吉野梅郷、近いうちにぜひ訪ねたい。

私の家から近く、子供の頃から馴染み深い梅名所は、大倉山梅林だ。なんと1931年の開園と歴史は古い。古すぎて、「ウメ輪紋ウイルス」ではないが一時期、樹が弱ってかなり荒れていた。最近、管理に力を入れているらしく、ウメは持ち直し、四季折々の草花も美しい。量は多くないものの、梅園で収穫された実で作った大倉山梅酒「梅の薫」が販売されている。

大倉山梅林

豊富な品種

現存するウメの品種は、「3系統9性」に分類されている。

筆頭はヤバい系。間違えた。野梅系。やばいけい。中国から来た野生の梅に近いそうだ。その中に4つの分類がある。

ヤバイ性。間違えた。野梅性、やばいしょうと読む。これが一番、野生に近い。楚々としていながらも、観賞価値は高い。小輪で香りの強い品種が多い。「冬至」はここに含まれる。

もう間違えない。次は難波性、なにわしょう。紅筆性、べにふでしょう。この2つは、品種が少なく、あまり見かけないかも。観賞用の梅園だと植えられている。

青軸性、あおじくしょう。若い枝やガクが緑色なのが特徴。蕾も薄い緑。開くと白花。「緑萼(りょくがく)」はこの特徴からすぐ判別できる品種。

2つ目の系統は緋梅系、ひばいけい。野梅系から変化したとされる。緋梅系の中に3つの性。紅梅性、こうばいしょう。緋梅性、ひばいしょう。唐梅性、とうばいしょう。いずれも紅色の品種がほとんど。太い枝を切ると断面が赤みを帯び、若い枝は日焼けすると紅色になる。3分類の区別までは少し難しいかも。

3つ目の系統は豊後系、ぶんごけい。ウメとアンズは近い植物で、交雑する。豊後系はアンズとの交雑種とされている。豊後系の中に2つの性。より、アンズの性質にちかい、豊後性、ぶんごしょう。葉が小さめでウメに寄っているのは杏性、あんずしょう。いずれも遅咲きの品種が多い。豊後梅と別枠で呼ばれることも。

さて、ここまでは、花梅の分類ということになっている。その前に、ウメは花梅と実梅に大別されるとある。ところが、実梅の下の分類が見当たらない。一括りに実梅?花梅とは別物? そこでよく調べたら、実梅も品種ごとに、「3系統9性」のどこかにあてはめられていた。「白加賀」「南高」など多くは野梅系野梅性に属する。

実梅は白の一重が多く、桃色もある。観賞価値が劣るものはない。ウメのなかで受粉結実し、かつ、加工した実の品質が飲食用に優れていることが実梅の条件なのだろう。そうでないものが花梅とされている。

家には庭木の花梅もある。2本のシンボルツリーとして、改築する前からの生き残りである。1本は早咲きの紅梅。おそらく「寒紅梅」と思われる。もう1本は白の枝垂れ梅で大きな実がなるから、実梅品種かも。ここ数年、品種名を特定しようとしているのだが、花が咲くといつも 忘れる。

緑萼(りょくがく)

梅仕事のブームは儚く去った

一時期、庭の梅を収穫し、梅酒や梅干し作りを試みた。かなりハマっていた。

梅干しは、いかにして減塩できるかチャレンジした。5%は無謀な挑戦だった。カビの発生を避けられず失敗。10%は成功したが、しょっぱい。また、果肉が、売っている南高梅のようには、なっていない。高くても売っているちゃんとした梅干しは美味しい。

梅干しは買うべし、という教訓を得た。

梅酒は梅干しや他の加工方法よりずっと簡単だ。実がなるウメの木がある家なら、必ず作っているだろう。基本は焼酎と氷砂糖があればよい。焼酎の代わりにブランデーを使うと美味、と聞いて、両方作ってみた。

難しいことはなく、色、味、風味とも問題なくできた。ブランデーを使ったほうが、より風味よく飲みやすい。問題は、減らずに毎年、増えていくことだった。梅酒、減らないのだ。日常的に晩酌はビールと、日本酒またはワインなので、さらにアルコール度数が高い梅酒が加わる余地は少ない。水割りやサワーにするのも面倒で習慣化しなかった。

更に、よせばいいのに、他の果実酒にも手を出した。カリン、アロエ、ショウガ、シソと、身体に良さげなものを作った。確かに、身体に良さそうだが、どれも味は、美味しくない。梅酒と比べて飲みにくい。1日に飲む量が少なく、減らない。ということで梅酒、果実酒ブームは早く去った。

更に更に、甘味系も一通り試してみた。梅ジャム、甘露煮、シロップやジュースなど。手間はかかるけれど、まずまずの味にできた。彩もよい。ちょっとした高級和菓子、梅産地のお土産並みである。なのに、残念ながら、家族がそういった甘味をあまり好まず、喜んでくれない。とても手間暇がかかるのに報われない。梅甘味ブームはすぐに去った。

梅酒、梅シロップなど

植物名一覧

(主役)

  • バラ科 スモモ属

    • ウメ Prunus mume(プルヌス ムメ)

(好敵手)

  • バラ科 サクラ属

    • ソメイヨシノ (サクラ) Cerasus x yedoensis(ケラスス イエドエンシス)

(仲間)

バラ科 スモモ属

  • アンズ Prunus armeniaca(プルヌス アルメニアカ)

参考Webサイト

(全般、栽培)

(梅名所)

(あっ。これ、アカンやつや。)

(甦れ!吉野梅郷)

(実梅系)

参考文献

(全般、栽培)

(分類、品種)

(庭木の上手な剪定)

最終更新日 2024年2月4日

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