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はな・物語

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いや実際、すべての花に物語があるのである。私が大嫌いな言葉は「名もなき花」。ほとんどすべての花には名前がある。名前があるということは、人と関わりがあったということだ。一方で雑草と…
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花物語 巻ノ八・キク

伝統の至芸と仏花の定番挫折の想い出と再チャレンジ 中学生の時、技術家庭の教科書に、大菊の3本仕立てが解説されていた。授業を楽しみにしていたら、挿し芽の季節を過ぎてもその気配は皆無だった。菊栽培について、ほとんど触れないまま、その学年は終わった。先生の専門外だったらしい。 ならば自分でと、翌年の春に大菊のポット苗を購入した。黄色の厚物だった。教科書では足りぬと、菊づくり入門みたいな本も購入し、熟読した。意気揚々と栽培を開始したものの、経過はほとんど覚えていない。 秋になり

花物語 巻ノ七・ジャカランダ

憧れの紫雲木は徐々に身近な花に 三大花木随一の知名度世界三大花木をご存知だろうか。鳳凰木(ホウオウボク)、火炎木(カエンボク)、そして紫雲木(シウンボク)。ものものしくいかめしく、あまり馴染みのない名ばかりである。いずれも巨木高木となる熱帯花木であるため、日本では植物園の大温室などで栽培されるのみだった。その中でただ1つ。ものものしい和名よりも、学名で知られた花がある。 紫雲木こと、ジャカランダだ。 ジャカランダ属は主に熱帯アメリカに約50種類が分布している。日本で知名

はな・物語 巻ノ六・アサガオ

伝統の朝顔と緑のカーテン誰もが育てた草花、No.1 独特の形状をした種子。カットされたスイカやミカンの房を思い浮かべる。黒または焦げ茶色の硬い種子。アサガオの種子をそれと判別できる人は少なくないはずだ。小学校の栽培教材として低学年のうちに種まきから育てる。日本人の多くが世代を越えて経験している。初めて栽培した植物がアサガオである確率は高い。私もその1人だ。 独特の種子から独特の双葉が展開する。双葉とは形も質感も異なる本葉が一枚ずつ現れる。ほどなく蔓が伸びる。ドンドン蔓が伸

はな・物語 巻ノ五・ヒマワリ

太陽の花の意外な素顔イメージを塗り替えよう ヒマワリは黄色い花だと思っているだろう。甘い。橙色? それはまだ、黄色の延長上。白に近いクリーム色、緑色がかったクリーム色もある。橙色を通り越して、赤もある。赤いヒマワリは鮮やかな深紅ではない。茶がかった赤だ。さらに彩度が落ちて茶色、こげ茶色もある。黒に近い品種もある。黒に近い焦げ茶色のヒマワリが、焼け付くような炎天下に咲いている姿はある意味シュールである。 ヒマワリは外側に黄色い花弁が一列並び、花芯は丸くて黒い、子供が描く太陽

はな・物語 巻ノ四・パンジー、ビオラ

壮大な歴史を紐解けばあらゆる色とさまざまな形 赤、白、黄。青、桃、紫、橙。黒、緑。これらの中間色と複色の花。虹の7色をはるかに上回り、ほぼ全ての色があると言っても過言ではない。 その大きさにしても、野生種に近い径2~3cmあるいはそれ以下のもの(これらはビオラとよばれる)から、最大は直径12cmまで。形もまた、円に近く限りなく平面的な大輪の整形花もあれば、花弁の縁が波打つもの、細長い小輪、花弁が尖ったものなど、果ては完全な八重までと、多種多様、多彩なバラエティを見せてくれ

はな・物語 巻ノ三・フクジュソウ

立春に咲く黄金色の花園お正月の花にして春の妖精 お正月に飾る花、植物として思い浮かぶのは、松・竹・梅、南天、千両。いずれも縁起物。洋花ならシンビジウム。草花なら菊とハボタン。といったところか。あとひとつ、縁起物でかつ草花として、福寿草、フクジュソウがある。輝くばかりの黄金色はいかにもおめでたい。別名、元日草。 同時期に咲く山野草にセツブンソウと雪割草(オオミスミソウなど)がある。元日草、雪割草、節分草、と並べると、華やかな新春・花の三姉妹となる。開花時期は条件によるが、概

はな・物語 巻ノ二・ハボタン

飾るキャベツの千変万化ハボタンはキャベツから生まれ、寄せ植えの花材となる キャベツという野菜がある。言うまでもなく、野菜の代表格だ。植物の種として捉えると、キャベツは実に興味深い。カリフラワー、ブロッコリー、メキャベツ、ケール、コールラビ。すべて、キャベツと分類学上、種を同一とする、変種または品種だ。そして、なぜか主に日本で、観賞用に改良されたキャベツこそ、ハボタンなのである。 年の瀬の声が聞こえる11月から、お正月をまたいで2月頃まで、園芸売り場にはポット苗や鉢植えのハ

はな・物語 巻ノ一・ウメ

冬から早春を彩る花木の代表格かつて「花」といえばウメのことだった 万葉集の時代、サクラよりウメが好まれた。単に「花」といえばウメのことだった。新古今和歌集の時代、サクラに逆転された。という話は、花好きお約束の薀蓄(うんちく)。なお万葉集に詠まれた数の1番目はハギで、ウメは2番である。 現代において「花」といえば確かにサクラのことだ。イメージとしての「花」は圧倒的にサクラである。しかしながらウメも、現物の花としての人気は負けず劣らず高い。 栽培し身近に楽しむのなら、サクラ