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一番うまいもの

年をかさねるにつれて、何を食べてもうまいと感じるようになってきた。以前はうまいと思えなかったものまで、うまいと感じる。なんというか、食に対する寛容さが、自分の中で生まれてきたような気がする。

ただ、一番の大好物はなにか?と聞かれたら即答できない。一番好きな食べ物。なんだろう。何か特定の、コレというものが思いつかない。そう言ったものが無くても問題ないが、あったらあったで楽しいとも思える。

数年前テレビを観ていると、タレントの香取慎吾さんがインタビューを受けていた。インタビュアーが香取さんに、一番好きな食べ物は何かとたずねた。すると香取さんは「お米が一番好きです」と答えた。

インタビュアーは意外そうにして、なぜなのかと訊ねた。すると香取さんはなぜ自分がお米を一番好きな食べ物としているのかを話し始めた。

昔テレビのロケで、米農家をしているキャイ~ンのウドさんのご実家を訪ねたことがあって。そのときに食べたお米が本当に本当に美味しかったのだと。あまりにも美味しくて、何杯もおかわりし。そしてそれ以来、食事する時はお米を一粒も残さなくなったと。そのように香取さんは話していた。

人が何かをすごく好きになり、また心の一番に置くのには、相応の理由がある。当たり前だけど、なぜか忘れがちになってしまう。

となると、なぜその人が"その食べ物"を好きなのか、訊いてみたくなる。新型感染症の影響が和らいで。気軽に外食できるようになったら、フラッと居酒屋に入って。隣で呑んでるオジサンに、なぜそれが好きなのか訊いてみようか。いや、やっぱやめとこうかな。


10年前に他界した親父は、やたら巻き寿司が好きだった。節分の頃になると母が大量に巻き寿司をこしらえる。それを親父がやたら食う。なぜそんなに巻き寿司が好きなのか、当時の俺は巻き寿司が大してうまいと感じなかったので、なおさら理解できなかった。普段はどちらかというと食の細い方である親父が、巻き寿司に関しては大食らいになる。

なぜあんなに巻き寿司が好きだったのか。生きているうちに訊いておけばよかったなと後悔している。

恐らく、なんらかの思い入れがあったのだろうな。味だけでなく、心に残る何かが。

うまいと感じる食べ物は、そこに深く関わった人がいる。心に強く残っている何かがあるからより、うまいと感じるのだろう。

そういえば思い出した。俺が小さいころ。母が入院している時期。祖父母の家に預けられていたときのこと。祖母ちゃんなりに、精一杯子ども向けの料理を作ろうとしてくれたのだろう。なぜかネギのたっぷり入ったハンバーグが出てきたことがあった。コショウが効きすぎて、少し辛かった。でも、うまかった。

もう、食べられないあの味。あれは確かに、いちばんうまいものだった。

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