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「あん」をよんで感じた対極

対極にあるものがやけに目についたり、不必要に意識してしまったりする。自分が今何かをしていて、それと正反対のことをしている人がいると気になってしまう。人間であれば誰でもそんなことがあると思う。

ときに人は対極にあるものを攻撃の対象としてしまうことがある。しかし対極を攻撃するのではなく、そこから何か学び取れれば、人生はより良い方向へと向かえるのではないだろうか。

2016年3月から1か月半ほど沖縄の宜野湾に滞在していた。そのころ、糖質制限もしていた。自分の身体を使った人体実験として。

当時は小さい療術院をやっていた。うちの院に来てくれるお客さんの中に、この人は食事の方法を変えた方が良いのではないか、と思えるような人が多くいた。それで、世の中に様々な食事療法があるなかで、どれがどのように効果があるのか、人に勧める前に自分の身体でやってみようと思ったのがきっかけだった。

まずはじめに1日1食というのをやってみた。食べるものは特に規制はせず、ただ1日1食にするというもの。1年ほどやってみた感じとしては、身体の内側がスッキリした感じがした。ただ、周囲の意見を聞くと、以前よりも老けたように見えると言われた。

次に始めたのが糖質制限だった。可能な限り炭水化物、糖質を絶つ。というもので、代わりにタンパク質を多く摂る食事法。と、いっても結構ライトな感じでやっていたので、ごくたまに甘いモノなど食べてはいた。

しかし体調はあまり良くはなかった。もともとあったアトピーが悪化し、常に痛みと痒みを感じていた。

そんな時期に「あん」という作品を読んで色々と考えさせられた。読んだ当時、糖質制限をしていたから、なおさら甘いお菓子がメインテーマとなっているこの作品が心に残っている。

物語の中で、甘いあんこを食べたひとたちの幸せそうな心が描かれていた。つらいときに、甘いモノを食べて心が救われたひとの心が描かれていた。

人は、自分が今いるところの反対にあるモノに過剰に反応するのかもしれない。例えば当時の俺のように、糖質を絶っている時期にお菓子を題材にした作品に反応したり、強く心に残ったりする。

これは食べ物だけでなく、様々なものに当てはまるのではないか。

今おかれている立場、状況からみて正反対のもの。それらはくっきりと意識しやすい。例えば暗闇の中では光を見つけやすかったり、病気のときほど健康のありがたさに気づけたり。

当時、糖質を絶っている状況だったからこそ、甘いモノの存在感が自分の中で際立ったのだと思う。

この物語を読んだあとに観た映画版の「あん」もまた良かった。樹木希林さんと、そのお孫さんの伽羅さん。そして永瀬正敏さんのお芝居が素晴らしかった。特に伽羅さん。彼女のお芝居がとても自然体で。だからこそ、その自然な演技が心に残っている。

結局1年半ほど糖質制限を続けたが、アトピーは悪化し続けたので食事療法は断念した。自分には向いていなかったのかもしれない。

いま自分が在る場所。いま自分が在る状況。そこから見る対極に位置する何か、もしくは誰か。それらを見たとき人は大概反感を持つ。例えばダイエット中に、隣で甘いモノやお肉をたらふく食べている人を見たら、恨めしく思ってしまうだろう。それは当然だ。

しかしそんな気持ちになってしまうのは、自分が正反対の位置にいるからなのだ。そしてそんな場所に自分を追いやったのは自分自身なのだと、いつも顧みるべきなのかもしれない。



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