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宅録音声クオリティ向上術 ~ナレーター/声優の方へ~

きっかけは、YouTubeで流れるCMの音でした。

録音が酷すぎる! 音が酷すぎる! なんで?! どうして!?

仕事で音声の録音をしている私は、衝撃と戸惑いの連続でした。リビングで録っているような反響過剰の録音、そもそもマイクに声がちゃんと乗っていない録音、マイクに近すぎる録音等々、聞くに堪えない音のCMが目立ちます。

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演者の皆さんにとっては、「そもそもナレーションや台詞が下手」という表現そのものが気になった方も少なくないと思います。

先日、Twitterのフォロワーさんから宅録音声を送ってもらい、私が無料でコメントするという企画(※1)をTwitterで行いました。音声を聞いてみると、宅録erの皆さんが困っていること、躓きがちなこと、工夫次第で音質を変えられそうな余地、……いろんな特徴が見えてきました。本記事は、その宅録音声にみられた傾向と主な対策、「私ならこうする」という具体的なノウハウについてまとめました。私が具体的にどうしているのか知りたい方は、そちらも読んでみてください。(※1 2021年2月~3月に掛けて実施)

真っ先に宅録音声の傾向について知りたい方は、目次で「私について」と「なぜ宅録音声を送ってもらう企画を立ち上げたのか」を読み飛ばして下さい。



私(筆者)について

私は、フリーの音響エンジニアとして2006年に業界に入ってから、芸人さんや声優さん、アニメ/マンガ業界の方々と一緒に様々なお仕事に関わってきました。主な仕事は、WEBラジオの録音や公開録音のPA、音声系CDのミックス、ボイスサンプルの録音などです。最近では、生放送のネットテレビで報道番組の音声スタッフを担当しています。

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オーディオライターとしても2015年から活動しており、スピーカーやアンプ、PCオーディオからネットワークオーディオまで、ハードのレビューを始め、ハイレゾ音源やアーティストインタビューなどもこなします。微に入り細に入り音を聞き分けて、それを文字や喋りで相手に伝える専門職です。

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音に関する書き仕事や、エンジニア業を中心に15年程度のキャリアを持つ人間と思ってもらえたら幸いです。2017年に自宅に防音スタジオを作り、2畳ほどの収録ブースで音声録音を出来るようにしました。出来たばかりのStudio 0.xのホームページ、まだ微妙に工事中のところもありますが、ご興味有りましたらこちらを。ライター業も含めたポートフォリオはこちら。ライター仕事全履歴はこちらをご覧下さい。

なぜ宅録音声を送ってもらう企画を立ち上げたのか

冒頭の話に戻りますが、YouTubeのアレなCMを何度も見ている内に、この音が標準だと思ってしまった若い人が、その感覚のまま声優やナレーターを目指そうとするのではないか。宅録もこのくらいの音ならプロとして通用する!と勘違いしてしまうことを想像したら怖くなってしまいました。実際、YouTubeで山のように低品質録音のCMが流れているのですから、それでもお仕事になっているということなのでしょう。依頼する側も、予算面などで録音品質までこだわっていられないのかもしれません。

そんな風に危機感を覚え始めた矢先に、ちょうどclubhouseが流行っていました。私は運良く、知合いのアナウンサーの方から招待してもらい、そこで宅録ナレーターさんや、スタジオで活躍されているエンジニアさんと知り合うことが出来ました。お話しを聞くと、自分の宅録の品質に不安や悩みを抱えている方も少なくないようです。私は、スタジオに勤務してバリバリ活動してるプロのエンジニアではありませんが、宅録なら幅広い経験があります。何か力になれないか。自分の経験を世に発信することで、宅録音声コンテンツの品質を高めることにわずかでも繋がるのではないかと思いました。

とはいえ、究極的には「何がいけないのかを判断出来る耳や感性」が鍛えられていないと理屈だけ説明しても根本的な解決にはなりません。私でも出来そうなことをあれこれ考えていました。そんな時、clubhouseでエンジニアの方に「何か一つでも宅録音声を送ってもらって、それにコメントするくらいなら手軽にできるのでは」というアイデアをいただきました。コロナ渦でなかなか面と向かって会えない中、手軽に出来る企画かも!と前のめりに考え始めました。お金をもらわず無料でやることにして、整音前と整音後素材を一点のみ両方送ってもらってそれにコメントするだけ。環境や機材名については基本的に聞かない。……というルールを設けました。clubhouseで知り合ったナレーターさんが広めていただいたおかげで、16人のナレーターさんと1人の声優さんにボイスを送ってもらうことが出来ました。(性別は女性のみでした。特にこちらで限定はしていません)

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結果は、とても興味深いものになりました。宅録で音声を納品している方が何に迷い、どこに躓いているのか。音声だけで見えてくる課題が多々ありました。また、コメントを踏まえて演者さんとやり取りをすると、さらにアドバイスできることもありました。

本記事は、その「宅録音声聞いてコメントする企画」で得られた傾向を網羅することで、宅録で音声を納品しているナレーターさんや声優さんにとって何かの参考になればと執筆しました。網羅的に全部記事に盛り込んだので、文字量がすごいことになっております。今後、こんなに長い記事は控えようと思います。さすがに読みにくいですからね(苦笑)

音声録音の教科書ではなく、あくまで私の個人的所感をまとめた感想集と思ってもらえたら気軽に読めるかと思います。

宅録音源カルテ ~前書き~

17人の方から送られてきた音声素材。いろんな課題が見えてきました。音声を聞いただけなので、私の憶測が含まれていることも前置きしますが、実情を聞いてみるとドンピシャというケースもありました。下記に具体的な事例を紹介していきます。

ただ、これから書く内容が必ずしも正しいとか、全てに当てはまる鉄則とは限らないという点をご留意下さい。こういう傾向なんだな、こんなポイントもあるんだな、くらいに捉えてくれたら幸いです。

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私は、20代のほとんど(約8年強)を声優になりたい一心でがむしゃらに走ってきました。ひょんなことから、趣味で始めた音響が仕事になり、声優は一度も仕事にならないまま諦めました。自分で録音し自分で演じる、演じることと録ることの切り替えを一つの現場(同人)で行うこともありました。録る側と録られる側、両方の気持ちを体験している人間として、演者の皆さんに寄り添えたらと思っています。それでは、「宅録音源カルテ」お読み下さい!

宅録音源カルテ ~フォーマット編~

提出された音源は、非圧縮フォーマットのWAV形式でいただきました。しかし、詳細な仕様までは指定しませんでした。手間になると思ったからです。とにかく応募のハードルを下げました。そうしたら、こんな音源も送られてきました。

・44.1kHz/16bit
・44.1kHz/24bit
・48kHz/16bit

これらのフォーマットで提出する(録音する)のは、クライアントから要望されない限り、控えた方が無難です。DAWでセッションやプロジェクト、ソングを作る際にフォーマットを選びますが、そこでは48kHz/32bit浮動小数点数を選ぶとよいでしょう。24bitでも構いませんが、プラグインを掛け録りする可能性も考えて、32bit浮動小数点数がベターかなと個人的には思います。書き出し時は、相手から32bit浮動小数点数を求められない限り、48kHz/24bitでよいでしょう。宅録やられている方は、何かしらの録音ソフトを使っていると思いますが、DAW(デジタルオーディオワークステーション)か音声編集ソフトを使っていると思います。本記事では、DAWをベースに解説しています。Adobe AuditionやWavePadを使っている方も、基本は同じなのでそこまで畑違いの話にはならないかと。

ところで、48kHzより上の96kHzで録る必要はないのでしょうか? ここについては、有料パート(以下、「後半パート」と呼称)で私なりの考えを述べました。元声優志望の視点も踏まえて私見を書いています。(写真は本文とは関係ありません)

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1本のマイクで録った音声ファイルは、基本モノラルで提出しましょう。ステレオで提出された方もいらっしゃいました。書き出し時に、ステレオを選ぶこともできますが、一般リスナーに聞かせる完成形でなければ、モノラルファイルで書き出すのが無難です。先方のエンジニアにとって、ナレーションや台詞がステレオファイルになっていると、編集するときモノラルに分割したり一手間です。(バイノーラル録音やポータブルレコーダーで環境音を録ったとかはステレオでOK)

宅録音源カルテ ~ルームアコースティック編~

ルームアコースティックとは、部屋の音響特性だと思って下さい。吸音の程度や反響の具合と言えば分かり易いでしょうか。どれだけ声が空間に響いているか。また、定在波の状況も含みます。フラッターエコーなどの不要な響きは無い方がいいですよね。(写真は本文とは関係ありません)

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提出いただいた方で、吸音状態や定在波に問題を抱えている方は、多くはないけども、珍しくはないという印象です。まず、吸音はしっかりやりましょう。一般家庭では、家具や物が一杯ありますので、それ自体が吸音していますが、いざ録音となると不十分なケースが多いです。和室は洋室に比べて吸音しますが、それでも音声録音するには完璧ではありません。De-reverbであとで除去すればいいやと、思う方もいるかもですが、録音の段階でできる限りのことをしておくのは基本中の基本です。プラグインは万能ではありませんし、声の鮮度や純度が犠牲になります。吸音のノウハウはネットにたくさんあるので、そちらを見て欲しいですが、私が使っているアイテムなどは後半パートでご紹介しました。お勧めの素材も紹介しています。吸音材は音に悪影響を与える素材もありますが、それを緩和・改善する素材についても取り上げました。

次に定在波について。定在波はどこにでもありますし、ゼロには出来ません。定在波とおさらばしたければ、野っ原に行くしかありません。問題なのは、定在波の偏りがあることです。定在波が特定の帯域に偏ると、不快な響き、不自然な響きにつながります。不快な響きが起きるかどうかは、部屋の寸法比が大きく関わっています。一つの部屋における、間口・奥行き・天井高。(URL先、Q2参照)この3つの比率によって録音に向いている部屋か向いていない部屋かは変わります。クラシックコンサートのホールがあんなに響いているのにまったく不快に聞こえないのは、定在波が特定の帯域に偏りを起こさないよう設計されていることも要因の1つです。オーディオに詳しい人に言わせると、部屋の角に何かパネルを貼り付けたり、不思議なオブジェを置いて音を拡散させるみたいな対処法が出てきますが、あれは部屋の寸法比が悪いと焼け石に水です。具体的には、正方形(部屋の間口と奥行きが等しい)の部屋は避けた方がいいです。定在波の偏りが起きやすくなっています。試しに拍手をしてみましょう。「びぃぃぃん!」みたいな変な反響が聞こえる場合は、録音に向きません。なお、組み立て式の防音ブースなどで正方形になってしまっているケースもありますが、内部で十分に吸音しているならば、問題にならないこともあります。

また、声の音波(空気の振動)によって、収録ブースの壁材が共振してしまうケースもゼロではありません。ドラムやピアノじゃないんだからそんなバカな?と思われるかもしれませんが、声量によってはマイクに部屋の共振による歪み音が入ってしまうこともあります。特に気を付けて欲しいのが、紙や樹脂などの柔らかい素材を使った簡易防音室を使っている方。それらは往々にしてブースの容積が狭いことも多く、吸音も不十分な場合、壁材の共振とも相まって、不快な響きを録り音に残してしまうことになります。外の音が入らなければいい、自分の音を隣戸に漏らしたくない、といった目的意識だけで防音ブースを選ぶのは、別の問題点もあることを理解いただければと思います。

宅録音源カルテ ~環境ノイズ編~

道路からの環境音や、話し声、隣戸の音、その他の生活音が入っていた人は1人も居ませんでした。これは皆さん、とても努力をされているのが伝わりました。録音の段階で気を遣っている、つまり基本的なことが守られている訳ですね。ただ、PCのマシンノイズ(排熱ファンの音など)は入ってしまっている人が何名かいらっしゃいました。別途、ノイズ除去プラグインで処理すればいいのですが、やり過ぎは声の鮮度が下がるので、根本的な対策を推奨したいです。PCをマイクから離す、そのために外付けディスプレイを設けるなど。こちらについては、ちょっと踏み込んだ対策法を後半パートでご紹介しました。(写真は本文とは関係ありません)

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環境ノイズについては、やはり遮音も頑張りましょう。外からの音、別の部屋からの雑音など、録音環境にできるだけ入れないようにします。基本は、録音空間の密閉です。少しでも隙間があると音は入ってきます。一般家庭の室内は、換気のためにわずかな隙間が扉の下などにあります。可能な限り対策しましょう。でも、酸欠には注意してくださいね。密閉空間で長時間収録を続けると、頭がボーっとしてきます。

宅録音源カルテ ~機材編~

みんな大好き機材ですね。特にオーディオインターフェースとマイクは、よく話題になります。皆さん、宅録に十分なクオリティの機材を使われているケースがほとんどでした。一部には、USBマイクの方もいらっしゃいました。USBマイクは、オーディオインターフェースを買う必要がなくて、場所も取らないから便利ですよね。でも、お仕事で音声を録っていくのにはお勧めしにくいところです。安価なものは音が細く地に足が付いてない浮ついた声になりがちです。物によっては機材由来の避けられないノイズが発生したり、マイクだけオーディオインターフェースだけという個別のグレードアップが出来ないなど、あとあと不便な点があります。(写真は本文とは関係ありません)

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マイクは、音に個性や癖の少ないナチュラルなサウンドの製品を選ぶのがよいでしょう。値段は、できれば3万円以上を推奨します。一昔前なら、4万円以上と回答していましたが、今は機材の値段が下がっていますのでこの位でも必要十分なマイクは買えるでしょう。吸音対策や環境ノイズ対策が物理的に不可能であれば、コンデンサーにこだわらず、ダイナミックも選択肢の一つです。ダイナミックマイクなら、反響やノイズを拾いにくくなります。

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そうそう、モニターするための機材は、どの程度こだわっていますか? オーディオインターフェースやマイクはよく話題に上がるのに、モニタースピーカーやモニターヘッドフォンがあまり話題に上がっていません。自分の録った音声をジャッジして、修正して、その結果を聞いて判断するための機材です。適当に家にあるイヤフォンやヘッドフォンを使っている人、見直しが必要かもしれません。具体的な機材名や選ぶポイントは、後半パートでも少し触れていますが、機材については、独立した記事を別途書こうと思っています。

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宅録音源カルテ ~マイキング編~

こちらは、実際の現場を見てるわけではないので、送られてきた音声を聴いて想像でコメントしています。ただ、エンジニアというのは、聞いただけでだいだいの状況は分かるものです。傾向として、マイクが近すぎる方が多かったです。全ての方において、全ての台本において、この距離が正しいという絶対値はありません。A4ノートを横にして長辺の距離くらい離れるという説もありますが、その人の声や読む素材によって最適な距離は変わるでしょう。なお、隣戸や家族に配慮して十分な声量を出せないからマイクに近づくというのはNGです。近接効果で無駄な低域が入りますし、不必要に太い声になってしまいます。(写真は本文とは関係ありません)

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基本は、声が重く太くならないように調整します。自分の声の最適解を知っていれば、マイク距離と録り音のバランスは取れると思います。声の最適解とは、自分の声が一番理想的な状態で録れている音だと思って下さい。自分の声……声優やナレーターを目指されているなら、大なり小なり自分の声に自信がありますよね? テクニックの優劣ではありません。声そのものの魅力です。その声が一番魅力的に伝わるためには、高域はどのくらい透明感があった方がいいですか?特定の帯域にピークはあったほうがいいですか? 中域は、ナチュラルバランス?それとも豊かに録れていた方がいい? 低域は、バッサリカットがいいですか?それとも自分の声のキモだからある程度残したい? 

……というように例を挙げてみましたが、録音されたときの自分の声の理想系を意識していることはとても重要だと思います。読む台本(素材)によっても、声をどんな音で伝えたいかは変わってくるでしょうし、自己分析の一環として考えてみて下さい。最適な声に近づけるには、マイク選びから、マイキング、整音まで実現するための方法は多岐に渡ります。それを研究していくのも面白いと思います。(写真は本文とは関係ありません)

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マイク距離は、離れすぎると低音が極端になくなって声の芯が細くスカスカな音になるので注意しましょう。最近のマイクは感度もいいので、オフマイクにさえ気を付ければ案外音を拾います。サイドアドレスのマイクなら、ダイヤフラムがマイクのどこに配置されているのかは把握しておきましょう。基本的にはダイヤフラムの正面から声を入れるようにしますが、口元から少し上になるくらいなら問題ないです。ただし、一部のダイナミックマイクに見られる、超単一指向性のマイクは注意しましょう。正面から外れると急に音が細くなります。その他、マイクの使いこなし面、少しだけ後半パートで触れています。

宅録音源カルテ ~録音レベル編~

録音レベル。これは皆さん悩みどころだったようです。完全に音割れしている人はほぼゼロでしたが、小さ過ぎる方が複数名いらっしゃいました。

現代の機材はノイズフロアが低いので、メーター見て天井ギリギリまでレベルを稼いでS/Nを上げる必要性は薄れていると思います。特にオーディオインターフェースとマイクという、シンプルな構成では余計です。天井(0dBFS=これを越えるとクリップや歪みの原因になる)までの余白は、テンションが高ぶったりした場合に備えて余裕を持たせておきましょう。これが正解という絶対値は無いと思いますが、ナレーションなら最大声量時にサンプルピークメーターが-6dBFS~-8dBFS辺りに達するくらいまでインターフェースのゲインを上げるのがいいでしょう。これはDAWのサンプルピークメーターのことです。RMSやVUメーターではありません。オーディオインターフェースのピークランプが点灯しないかも合わせてチェックしましょう(時々点灯するくらいは問題ない)。インターフェースのゲインを上げすぎてMAX付近まで行くと急にサーノイズが大きくなることがありますが、仕様なのでその領域は使わないようにしましょう。

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ところで、発声するときの声の音量について、個人的に思うところがありまして、そちらは演者としての表現にも関わることですが、後半パートで触れています。

宅録音源カルテ ~機材ノイズ編~

こればかりは、機材や細かな環境を聞いてみないとなんとも言えませんが、若干名ノイズが入っている方がいらっしゃいました。環境ノイズとは違う、サーとかジーといった機材由来の電気的ノイズですね。マイクやケーブルが何かノイズを拾っている(故障も含む)、オーディオインターフェースの故障、アースや電源由来のノイズ、などなど原因は様々です。オーディオインターフェース&マイクというシンプルな構成において、機材由来のノイズはあまり発生しません。それが仕様である(どうしようもない)ケースもほとんどありません。もし、発生してしまったら、ゲインの上げ過ぎ、機材の故障、各種ケーブルの故障、ノイズ源が付近にある、などを疑ってみましょう。

メーカーのサポートに問い合わせるのも手です。何かトラブルがあると、まずは不安を解消するために、手近な人に聞いてみる方もいると思いますが、メーカーのサポートは頼るべき相手の最有力候補です。環境面を聞かれたりいろいろ面倒なやり取りが発生することもありますが、メーカーサポートは仕様や説明書に書いていない技術情報や過去の不具合事例も持っているものです。それが思わぬ解決法に繋がることもあるので、躊躇わずにメーカーへ問い合わせしましょう。

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ちなみに、録音中ヘッドフォンのボリュームを大きく上げているときのサーノイズは問題ありません。どんな機材でもある程度聞こえるものです。録音された音源を、普通~少し大きめの音量で聞くときにサーノイズが大きいとか、ビーとかブーとかのノイズが聞こえるなら異常が疑われます。

宅録音源カルテ ~DAW・アプリ編~

まず、無料アプリのAudacityはやめた方がいいと思います。私は、それほど使っていませんので、操作感とか使い勝手については何とも言えません。ちょっと使った限りでは、使いにくくてビックリしました。端的に言うと、音質面で不安があります。まず致命的なのがASIOドライバーに非対応な点。頼みの綱のWASAPIは共有モードで動いており、排他モードではないので、モニターの音にシステムSEなどが混ざる(混ざる現象が起きうる)状況です。残念ながら、これでは音質面のクオリティが担保できません。録音するにしても、再生するにしても。ピュアオーディオの世界では、WASAPI排他で再生するより、ASIOで再生する方が音が良くなることも実際にあります。それも気のせいというレベルでは無いほどの歴然とした差で。難しい話になりましたが、『Audacityは音質面のクオリティが担保できない』という部分だけ知ってもらえれば大丈夫です。

Audacity以外だと、オーディオインターフェース付属(バンドル)のDAWが手っ取り早いですね。Cubase AIやStudioOneArtistなど。StudioOneArtistはバンドル版の中でもDAWとしての制約(最大トラック数とか)が少なめじゃないかなと思います。私もライセンス持っているのですが、まだ使ってません 汗  (写真は本文とは関係ありません)

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宅録で本格的に仕事をしていきたいなら、Adobe Audition(月額2728円)や、Pro Tools 永続ライセンス版(¥77,309)がおすすめ。現場でプロが使っているのは、Pro Toolsサブスクリプション版です。永続ライセンス版は、1年間の更新期限が切れる直前までのバージョンなら期限が切れても使用し続けることが可能です。また、そのインストーラーを使って再インストールもできます。問題なのはOS(Mac/Win)の対応状況です。OSのバージョンが古いと、新しいPro Toolsはインストールできなくなっていきます。私はMacでPro Toolsを使っていますが、古いMacOSのまま使い続けたことがありました。新しいMacOSにすると今持っているPro Toolsのバージョンがインストール出来なくなるからです。一方で古すぎるOSは使用出来るプラグインの範囲も狭まっていきますので、意地でも永続ライセンスで使い続けるのは制約と隣り合わせを覚悟しなければなりません。いずれは、年間35300円/月額3500円のサブスクリプション版に移行することを検討する必要があるでしょう。(一部の人にとって頼みの綱の再加入版は、2019年12月末で選択肢から消えました… 私も10月に買っていつの間にか販売終了してて驚きました😢 参考記事はこちら

【2023年10月追記】

昨年、新しい無償版Pro ToolsであるPro Tools Introがリリースされました! とても実用性の高いアプリになっているので、皆さんに知っていただきたく、記事を執筆しました。Pro Toolsは業界標準のDAWであり、現場のエンジニアさんもほぼ100%使っています。永続ライセンスも最近になって復活し、映像尺合わせができるPro Tools Studioは、新規価格が92,290円となっています。将来を見据えれば、プロ仕様に発展できる余白があるPro Tools Introは注目のアプリといえるでしょう。
本格的な録音編集アプリを使ったことがない方にも分かるように、優しく丁寧に解説しました。画面キャプチャーもたっぷりです。ぜひご一読下さいませ!

【追記ここまで】
時代の流れなので、プロ向けのソフトウェアは、サブスクリプションを契約するのがスタンダードになっていくでしょう。嘆いてもしょうがないので、たくさん稼いで余裕で契約更新できるようになりましょう!

宅録音源カルテ ~ローカット編~

プラグインで掛けるローカットは、やらなくていいと思います。ローカットは、EQの一種でハイパスフィルターとも言います。特定の帯域から下をカーブする曲線のようにカットしていきます。要らない低音をカットしてあげる訳です。先方にエンジニアがいればその人に任せましょう。ただし、ギャラの発生する同人案件などでその辺りに無頓着な人が音声の実装を担っていたりすると、そのまま使われてしまうこともあるようです。

録音物として聞いたとき、自分の声が一番気持ちよく聞ける周波数バランスは、本人が分かっていた方が望ましいというのが私の持論です。特に低域をどの程度活かすか(録るか、残すか)は重要なポイント。マイキングである程度追い込みつつ、プラグインでも処理します。

明らかに要らないと思われる50Hz以下はともかく、人によっては150Hzとかからローカットを掛けた方が聴き心地のいい声になることもあります。ローカットのプラグインを使って、一番自分の声がベストな状態になる設定を探ってみるのもいいでしょう。ただし、低域が聞こえない、あるいは低域のバランスが悪いヘッドフォンだと、まともな調整ができませんのでモニター機器にはこだわって下さい。私だったらこう掛けるという実例は後半パートで紹介しています。

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宅録音源カルテ ~コンプレッサー/マキシマイザー編~

コンプレッサーは、掛けなくてよいです。何か事情があって、自分で掛けなくてはいけないときは、掛け過ぎに気を付けましょう。コンプレッションで圧縮し過ぎた音声は、平べったくて抑揚のない声になります。貴方がマイクに吹き込んだ繊細な表現をいとも簡単に破壊します。自分で掛ける場合は、マスターにラウドネスメーターを挿してそれを見ながら調整するといいでしょう。複数のコンプを使い分けたり、マキシマイザーで最終的にラウドネスを目標値に近づけるのも一案です。コンプレッサーについては専門的になるので、後半パートでもいわゆる基礎の基礎には触れていません。その代わり、実際の音声を使って1段でコンプを掛ける具体例をご紹介しています。基本は、先方のエンジニアに任せましょう。

話は逸れまして、ノーマライズについて悩まれている方が何名かいらっしゃいました。ノーマライズはやらなくていいです。ノイズ除去の過程で入力・出力のレベルを増減する必要もありません。演者の皆さんは、録音段階で適切なレベルで録ることに集中しましょう。もし、何かの事情で自分でノーマライズするときは、最大値を-1dBFSとして、天井に余裕を設けましょう。

宅録音源カルテ ~整音&ノイズ除去編~

音声がない部分のカットと、音声の頭とケツのフェード処理(FI/FO)は、適正実施しましょう。これは実践している方も多かったです。フェード処理が適正かどうかは、違和感がないかどうか、自然に聞こえるかどうかで判断します。基本はヘッドフォンで聞くか、スピーカーの音量を上げてノイズをちゃんと聞ける状態でチェックします。音声が始まる前の数msで、環境ノイズやマイクのセルフノイズから音声が始まる瞬間、無音から急に音声が始まると不自然なのが分かると思います。音声の終わりも同じ。あまりにバツーンと無音に移行すると不自然になります。ここでいう無音とは、波形データがない部分のことです。(写真は本文とは関係ありません)

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自動で無音部分をカットしてくれるストリップサイレンスを使う方法もありますが、人間の音声表現は繊細なので簡単にはいきません。スレッショルド値を変えたり、前後のギャップを設けても、それが一定値である以上、不自然さは出てしまいます。不自然な部分を事後修正するのもありですが、最初から手動カットの方がいいかもしれません。これは、オペレートの慣れ度合にもよります。DAWのショートカットキーを使いこなすとか、素早く作業を進められる人は、手動でやるのも手です。どちらにしても、フェード処理は必要だと思います。なお、BGMと混ぜる場合は無理にやらなくてもいいです(ブレス処理のためのフェードとかは別)。

リップノイズの除去は、最初からノイズ除去プラグインに頼らずに、まず波形と格闘することを覚えてほしいと思います。それは、自分の癖と向き合う時間でもあります。具体的には波形のカットとペンシルツールによる修正が基本。手動修正が大変すぎる(リップノイズの箇所が多すぎる)なら、根本的に発声側の対策をしましょう。

波形と格闘してもカットしきれないノイズは、RXのプラグインなどを使って局所的に除去。宅録するボイスの分数が長いと、波形を見ながらカットなんてしてられないという人も居ると思います。便利なものは活用して、他のことに時間を使った方がいい。確かにその通りです。

iZotope のRXのようなプラグインを使って除去するときは、強く掛け過ぎないようにしましょう。声の鮮度が劣化して、いかにも加工した感じがするデジタル音声になってしまいます。実際にWAVなのに圧縮音声みたいに聞こえてしまいます。鮮度の劣化が起こっているか、ピンと来ない方は試しにわざと強くノイズ除去を掛けてみましょう。比較すると一目(一聴)瞭然。声の鮮度劣化を聞き分けられないなら、モニター環境を見直した方がいいでしょう。このあたり、後半パートで実際の音声を使って紹介しています。

宅録音源カルテ ~提出方法編~

ブラウザ上でそのまま聴いてもらうとかでなければ、ZIP形式(圧縮率は無圧縮)で送るようにしたほうがいいと思います。ZIPファイルは、生データを送るより確実性が高いので、私は必ず圧縮してから送っています。WAVをそのままアップした場合、何らかのトラブルがあると送った先で再生出来ないなんてことも。ZIPで送るときは、念のためアップロード前に自分のPCでファイルを解凍して再生出来るかは確認しましょう。Macで圧縮したZIPをWinで解凍すると文字化けすることもあるます。それを避けるためのアプリもあります。音声データのファイル名は、DAWに取り込むことも考慮し、半角英数字が望ましいですね。見やすさを考えて大文字小文字を使い分けるのも吉です。(今回提出してくれた皆さんは日本語でも無問題です)

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実際に私が使っている圧縮/解凍用のアプリは後半パートで紹介しました。ちなみに無圧縮で送るのは、精神衛生上、その方が安心できるからです。圧縮率によって音質に影響があるのかないのかといった論争は、興味がありません 笑

前半パートまとめ

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ということで、いかがだったでしょうか。今回いただいた宅録音源を聞いて、気付いた点をまとめただけでも膨大な量になりました。自分としては、商業スタジオで録音する場合以外は、宅録の延長だと思っていますので、自宅・市民センターや区民会館の音楽練習スタジオ・普通のリハスタなども宅録の範囲です。こういった必ずしも録音には向かない環境で、どこまで音のクオリティを向上できるか。宅録でお仕事をしていくなら、演者の皆さんもぜひ音のクオリティアップに気を遣う人になっていただきたいと思います。

さて、ここから先の後半パートは、これまで紹介してきた各項目の実践編です。私ならこうするという実例の紹介になっています。前半まで読んでいただいて、共感やわかりみが深かった方は、さらに面白い内容になっていると思いますので、買っていただけると幸いです。

私はこういった活動を様々なかたちで続けて行きたいと思っています。そのための機材購入費やモチベーション維持などのため、ご協力いただけると嬉しいです。書いてある内容自体は、ネットでググれば無料で見られるものもありますが、私なりの経験を交えて書きました。裏話っぽい話も盛り込んでます。おすすめです!

本記事配信を受けて、大きな反響が寄せられました。ご質問などをまとめて、リアクションしたおかわり編も公開しています。合わせてご覧いただけるとより理解が深まると思います!

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