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クライオ電子顕微鏡(cryo-EM)とは?

1.5Å以下の分解能で分子構造を解き、原子分解能で構造を解明するために使用する手法。
構造解析分野で代表的なX線結晶構造解析法を補完し、結晶試料がなくても構造の詳細を究明する。

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方法の概要として、ガラス質(非晶質)の氷で凍結水和することで固定した試料に、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用し、観察することにより、試料の超微細構造、緩衝液、および配位子分布が元の状態のまま保持される。

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サンプルは、超分子集合体またはマシンにおける分子の相互作用のほか、ウイルス、小さな細胞器官、および高分子の生物学的複雑性を研究するのに適しており、さらに、90 kDaより大きい試料の研究が可能となる核磁気共鳴(NMR)を使用した構造解析も補完する。


メリット
・自然な水和状態で構造を観察・・・標本や緩衝液の濃度など、生物学的に関連した環境に試料を維持

・より大きな集合体の研究が可能・・・不均一、準安定性、または結晶化が非常に困難である複数のサブユニットを含む150 kDaより大きな分子のキャラクタリゼーションに有効

・原子分解能の構造を解明・・・αらせん、βシートに加え、非対称側鎖、水素結合、および水分子の観察が可能

・化学的な環境を制御・・・さまざまな機能状態で分子を観察するために実験条件を変更可能

・結晶化のステップを排除・・・時間を要する不確定な試料準備が不要、論文のパブリッシュまでの時間を短縮

・生体内に近い試料の構造を観察可能

・標的の結晶化が不要


創薬での強み
・生体内に近い環境で標的の構造解析が可能

・結晶化が困難であった複合体や膜貫通タンパクなども観察が可能

・より多くのタンパク質の構造解析が可能となる


方法
ステップ1: 精製

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ステップ2: 急速凍結
各試料は、電子顕微鏡の真空内での凍結乾燥を防ぐために、ほぼ瞬間的な凍結される。これは試料の構造を破壊する水の結晶が形成されるのを防ぐため。

溶液中の少量の試料をTEMグリッドに付着

ろ紙で余分な液体を取り除く

TEMグリッドを液体窒素、液体エタン、または液体エタンと液体プロパンの混合液に浸して試料を素早く湿らし熱を奪うことで、非晶質またはガラス質の氷を生成。

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ステップ3: TEMへの搬送
試料を凍結したら、液体窒素温度に試料を保持する専用のTEMホルダーに移動。試料の汚染を防ぐため、試料をホルダーに装填する際には、クライオワークステーションが試料を保護。また、ワークステーションからTEMに移動する際には、クライオシールドがカプセル化。


ステップ4: 試料の像観察

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原子線から多数のタンパク質から画像を取得する。
試料の構造は、電子線照射により損傷を受ける。通常、高分解能の構造情報が失われる前までに、合計10~30e⁻/Ųの電子線照射量。試料の損傷を防ぐには、低電子線照射量イメージング法を使用して目的の場所に移動し、像を取得する直前だけ電子線を絞る必要あり。

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ステップ5: 解析と再構築

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多数の撮影画像の加算平均をとることでノイズを低減し、2Dでの平均化、3D構築での平均化。
像の撮影が終了したらソフトウェアが、複数の3次元的な分子配向を区別するため、これらの画像は画像分類アルゴリズムを使用して分類、整列、平均化などの解析をサポートしデータを様々なフォーマットへとエクスポート。

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クライオ電子顕微鏡法の種類
(1)単粒子解析法 (single particle analysis)、 (2) トモグラフィー、(3) 二次元結晶、(4) 三次元微小結晶 (micro electron diffraction)

(1)単粒子解析法は結晶化の困難なタンパク質についても近原子分解能での解析が可能となっており、ウイルス、リボソーム、ミトコンドリア、イオンチャネル、酵素複合体、膜タンパク質などの構造が得られている。

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