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名前も知らない隣人の家に入った話

2021年に何があったか思い出したとき、
一番に思い出したのは名前も知らない隣人の家に入ったことでした。

勿論勝手に入ったわけではなく、招待をされて?入ったわけですが、
そうそう無い経験だったので、記憶が鮮明なうちに
書き記しておくこととします。

まず前提として、私は渋谷区のアパートで一人暮らしをしている
社会人二年目のサラリーマンです。アパートはオートロック付の4階建て、所謂一人暮らし向けアパートといった感じの物件です。

隣人の部屋に入ったきっかけはまず2021年の夏にまで遡ります。
私はいつも通り20時ごろまで残業をした後、
帰路に着き、自宅へと向かいました。

自宅が見えてくると、自宅のオートロックの前にはひとりの女性が
佇んでいることに気が付きました。

最初私は、彼女はオートロックの前で誰か人が来るのを待っているのだと
思っており、一瞥だけしてそのままオートロックを解錠するために
鍵を取り出そうとしました。
するとその時、その女性が話しかけてきました。

そして彼女は第一声、
「虫って得意ですか?」
と聞いてきました。

聞くところによると、彼女はこのアパートの住民であり、
二階に住んでいるが、二階の廊下に虫が居るので家に入れないため、
駆除をして欲しい、という内容でした。

事実、私は虫は大の苦手です。
出来ることなら関わらないでおきたかったのですが、
一つ大きな問題がありました。

それは私も2階に住んでいる、ということです。
自身も2階に住んでいる以上、2階の廊下に虫がいるということは、
こちらも彼女と同じく虫のせいで家の中に入れない状況にあると言えます。

よって、背に腹は代えられず、彼女へは自身も2階の住民であることを
伝え、まずは状況を確認するためにオートロックの鍵を解錠して2階へ向かいました。

そこで私は、私自身もっとも恐れていた事態を目の当たりにしました。


なんと虫が私の家の玄関ドアに張り付いているではありませんか、、、!
(虫はおそらくG)

こうなったからには、自身も当事者です。
そして衝撃の事実が彼女より告げられました。

なんと、彼女は私の隣の部屋に住む女性だったのです。。。!!

これまで人が住んでいることはお互い認識をしていましたが、
一度も交流することはなかったので、ここで隣人さんと
初めてご挨拶することになったわけです。

そして隣人さんと、廊下に出た虫を倒す、という、現代の
都内一人暮らしではなかなか遭遇しない経験をすることとなりました。

しかし、早速問題が発生しました。倒せるアイテムが手元にありません。
殺虫スプレーは家の中で、玄関ドアに張り付いている以上、
私は部屋の中に入れないからです。

隣人の彼女こそ入れるのではないかと思われるかもしれませんが、
彼女は2階に虫がいる、というだけでオートロックの外に避難するほど虫が苦手です。彼女に期待をするのは酷だと思いました。

そこで、まずは近所のコンビニに殺虫スプレーを買いに行こうということになり、二人で家からすぐそこのコンビニへ向かいました。
しかし、そこでも問題が発生します。


そのコンビニに殺虫スプレーが売っていなかったのです。


なにか使えるものは無いかと少し他にも探しはしましたが、
特にこれといって使えそうなものはありません。

そしてまた、このまま虫がどこに行ったか分からなくなるのも
恐ろしい事態でした。

そこで私と隣人は一旦状況を確認するためにも、
何も買わずに再び2階の廊下を見に行くこととしました。

そしてその時隣人の女性はと言うと、自分はここで待っていると言って
完全に駆除を人任せにしてきました。。。

ただ、私自身は玄関に虫が張り付いている当事者でもあり、また、
女性から頼られている状況である以上、
なんとかしないわけにはいかないと思い、
虫嫌いを必死に押し込めながら再び恐る恐る二階へ向かいました。

すると、今度は虫は私の部屋の玄関ドアではなく、
二階から一階へ向かう階段の途中の隅にまで移動をしていました。

私はかなりビビりながらも間合いを計り、しばらく様子を伺いました。
見ている限り、特にいきなり動き出す、という状況はなさそうに思えました。

そこで、私は自身を鼓舞し、最も虫から離れられる距離を取ったまま、
勢いよく虫を通過して自身の部屋まで駆け抜けました。
そして玄関のドアの前で一瞬で鍵を取り出し、
動悸も収まらないまま鍵を開け、玄関の扉を開けて
自身の部屋に帰ることに成功しました。

思えば、自分の部屋にはこれで帰れているので、
別にもうあとは放置したっていいとも思えました。

しかし、隣人に頼まれている以上、頼られたという事実を
無碍にできなかった私は、まずは会社帰りの荷物を置いて、
家の中から殺虫スプレーを取り出します。
そしてまずは一呼吸を置いて、再び戦場へと赴こうとしました。

すると、その瞬間に私の部屋のインターフォンが鳴りました。
隣人がオートロックの外からインターフォンを鳴らしたのか?とも
思ったのですが、インターフォンのカメラを見たところ、
どうやらそういうわけでも無いことは一目みて分かりました。
なぜなら隣人とは別の人がそこには写っていたからです。

怪訝に思いながらも、私はインターフォンの通話に出ました。
その時の第一声で私はすべてを思い出しました。

「Uber eatsです。」

そう、私は会社から帰る途中にUber eatsを注文していたのでした。
しかし私はこの戦いでそのことをすっかり忘れてしまっていたわけです。

せっかく注文して料理を持ってきてもらったのに、
ここで配達員を返すわけにも行きません。

悩んだ末に、とりあえず何もなかったかのようにお願いしますと言って
オートロックのドアを解錠しました。

そして届けてもらった夕食を受け取るためにも、
まずはまた廊下に出てみました。

虫は私が部屋に入る前の位置から動いていません。
そして下階からは隣人と配達員が話している声が聞こえます。
虫が出て入れない、といった内容を伝えているようでした。

私はこのとき、ある淡い期待を抱いていました。
それは、この配達員が虫を駆除してくれるのではないか、という期待です。
しかしそんな淡い期待も一瞬で崩れ去ります。

配達員は一階から二階に上がる階段の途中で、
私に荷物を受け取るように言ってきました。
それこそ虫の近くではあるのですが、配達員はそれ以上は来てくれません。

完全な部外者である配達員をこれ以上巻き込むのも悪いと思ってしまい、
私はそのまま荷物を受け取りました。そして配達員は、
渡すだけ渡してそのまま帰ってしまいました。

とりあえずは届けてもらった夕食を私は部屋に持っていき、
虫を駆除するという当初の目的を達成するため、
気合を部屋内の玄関で入れ直しました。

殺虫スプレーを再び部屋から取り出した私は、スプレーを構えたままで
虫のいる階段にまで近寄ります。そして下階で駆除を待つ隣人に、
部屋に入ることが出来て殺虫スプレーをゲットしたこと、
今からスプレーをかけるので暴れて下に行く可能性もあることを
伝えました。

それを伝え終わった後、一息入れて、私はスプレーを猛噴射しました。
虫はなかなかしぶとく、すぐには倒れませんでしたが、しばらく
吹きかけていると腹を見せ倒れ込んで死んだことが分かりました。

一仕事を終えた私は下階にいる隣人に倒したことを伝えました。
しかし、まだこれだけでは駄目だったのです。
虫を一目見てオートロックの外にまで逃げるような人です。
死んだ虫であっても、そこにいると行けない、と。

このあたりから、なぜ私は名前も知らない隣人のためにここまでしてるんだ?と思い始めましたが、そこはやはり隣人から頼られた以上、また、平凡な日常にこんな非日常が巻き起こった以上、協力をすることにしました。

協力をすると言っても、ここからの処置方法は一つしかありません。
虫を見えないところに移動させることです。

そのために私は、部屋に戻って殺虫スプレーを置き、
今度は部屋にあったミニほうきセットを取り出しました。
かなりビビりながらも私はそのミニちりとりに虫を回収し、
ビビってしまうのでなるべく直視をしないようにしながら、
オートロックの外側の茂みに捨てに行きました。

これでようやく当初頼まれた仕事が完了です。
隣人の女性からは、本当にありがとうございました、と、
とても感謝をされました。

自身も知らない人のために無償でこんな一仕事をすることは
早々なかったので、新鮮味を感じ、情けは人の為ならずという言葉を
思い浮かべながら、部屋に戻って戦いの最中に届いていたUbereatsで
注文した夕食を食べました。

しかし、この戦いはこれから巻き起こる一連の事件のほんの
きっかけにしか過ぎなかったのです。


続く。

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