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海街のトースト

私には「どこの何が美味しい」という感覚があまりない。好きなものは美味しいし、嫌いなものは食べないというスタンスで生きてきて、もう立派な大人になってしまった。馬鹿舌と言われれば否定できないし、「ここの牛乳は絶対に飲めるよ」と言われたって挑戦しようとは思わない。
だけど、唯一、私が固有名詞を入れて好きなもの。これ!これだよ〜!とバンザイをしてしまいそうなものがある。祖母が作るトーストだ。
祖母とは離れて暮らしている。
年に一回お盆の間に家族で帰省するのだ。海の近くに住む祖母の家では、私の住む地域では食べられないような新鮮な魚をいっぱい出してくれた。孫が一年に一回帰ってくるのだ。気合いを入れて寿司なんかも握ってくれていた。もちろんそれもとても美味しかった。寿司は美味いものだから。
でも、私は翌朝、祖母が私が起きてくるころに焼いて待っていてくれるトーストが好きだった。山型で、ちょっとへにょへにょしている。べつに祖母が小麦粉を捏ねて作ったわけではない。おそらくスーパーで買った普通のパンだ。それをフライパンで焼いてくれる。これがとにかく美味しい。バターを乗せたり、ママレードを塗ったりして食べるように勧めてくれるけど、私は何も塗らずにそのまま食べる。
今日は海へ行くか、買い物に行くか、朝はテレビなんもやってないねなんて話しながら食べる。そのトーストが大好きだ。
私は結婚し、コロナもあり、しばらく祖母の家には帰っていない。まだ元気にトーストを焼いてくれるだろうか。私が起きるのを待っていてくれるだろうか。

#元気をもらったあの食事

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