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脳卒中患者に対する自主トレーニングのエビデンスと臨床応用 #3【ランダム化比較試験編Ⅰ/回復期 2020年版】

回復期に務める理学療法士、作業療法士の先生であれば、患者さんに自主トレーニング資料を渡したことが一度はあるのではないでしょうか?

私が回復期で働いていたときは担当患者さんに必ず自主トレ資料を渡していましたが、今思えばとてもお粗末なものでした。

なぜお粗末だったかというと、このあたりが原因であるように思います。

①どの患者さんにも同じような自主トレ(ストレッチ、ブリッジ!)
②どの患者さんにも同じような回数(10回3セット!)
③自主トレを患者さんが継続してくれているか把握していない(「やっといてくださいね!」で終わり)

セラピストから指導された自主トレーニングを半年以内にやめてしまう脳卒中患者さんの割合は35%程度と言われています(Kristine K, 2017)。そしてやめてしまう理由のおよそ50%が「他の運動をやっているから」。他の運動をやる理由はそれぞれかもしれませんが、セラピストが指導する自主トレーニングが患者さんにとっては続けたいと思われないことが多いということですね。自分が指導していた自主トレのお粗末さを思い返してみると、それも当然かと反省します。

さてさて、患者さんにとって価値のある効果的な自主トレを指導するには何が必要なのでしょうか?

脳卒中は脳の病気なので、症状を改善させるためには自分自身の脳活動が必要なのはいうまでもありません。私たちセラピストはそれを手伝い、誘導する立場ではありますが、脳活動の主体は患者さんにあります。

理論的には、効果的な自主トレーニングを患者さんが行えれば、患者さん自身で症状を改善させていけるはずですよね?

"効果的な自主トレーニング" が何か?を考える上では脳科学に基づく理論的な要素や先生方の臨床経験も重要な判断材料ですが、"効果があった" と報告している先行研究も重要な判断材料です。

Linder SMら (2015)は、回復期〜慢性期脳卒中患者に対する上肢機能のホームエクササイズ(3時間、週5回、8週間)を指導することで、日常生活動作(Activity of Daily Living: ADL)や手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living: IADL)、筋力、手の運動機能などが向上したことを報告しています。

Olaleye OAら (2014)は、脳卒中患者に対するの課題指向型訓練ベースのホームエクササイズ(45〜60分、週2回、10週間)により、歩行速度や運動パフォーマンスが向上したことを報告しています。

先行研究は、いわば論文著者の先生方の経験が文字起こしされたものですので、先行研究を読むことによってその先生方の経験を私たちが吸収することができます。つまり、経験年数が少ない若手のセラピストでも、先行研究を読むことによって経験を補うことができるということですね。

システマティックレビューは概観を掴むために有益な情報ですが、実際の患者さんに応用していくためにはランダム化比較試験や観察研究といった対象者がはっきりしている研究から学ぶことが大事です。

そして、得られた情報をもとに治療アルゴリズムを作る。これにより患者さんの状況に合わせて効果的なトレーニングを即、選択することができるようになります。

この記事では、著者が厳選した信頼性の高いランダム化比較試験の情報をまとめています。

それでは、早速見ていきましょう!

上肢の運動パフォーマンス向上を報告したHarris JEら(2009)の自主トレーニング

Harris JEら(2009)は、発症から21日程度、年齢69歳前後の(亜)急性期の脳卒中患者を対象に、Graded Repetitive Arm Supplementary Program (GRASP)の効果について検証しました。

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