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マラソンSub2を達成するために…

2017年5月6日、マラソンSub2(2時間切り)に挑戦するNIKEのプロジェクト「Breaking2」がイタリアのモンツァ・サーキットで行われました。

結果は惜しくもSub2ならずではありましたがエリウド・キプチョゲ選手が、現在の男子マラソン世界最高記録2:02’57”(デニス・キメット,ベルリン,2014)を大きく更新する2:00’25”という記録(非公認記録)を樹立しました。

●マラソン2時間の壁は破れるのか!?

1991年にJoynerによって人間がマラソン競技で2時間を切れる可能性が報告されました(1)。

この報告では、最大酸素摂取量、乳酸性作業閾値(LT)、ランニングエコノミーの3つの指標からマラソン競技の男子世界最高記録を予測しているのですが、最大酸素摂取量が84 ml/kg/minに達し、LTの水準がその85%に相当し、かつ高いランニングエコノミーを発揮することが可能であった場合1時間57分58秒の記録が達成されるとされています。

この報告で用いられた最大酸素摂取量及びLTの値は、その時点でそれぞれ実在する値であったことから、そう遠くない将来にマラソン2時間の壁を打ち破ることが期待されていた訳ですが、この報告から四半世紀が経過しても尚、人間は2時間の壁を打ち破ることが出来ていません。

●マラソン競技は、なぜ42.195kmなのか!?

余談ですが、マラソン競技の起源は紀元前490年ギリシャとペルシャの間で起きたマラトンの戦いに勝ったギリシャ兵が、その勝利の知らせを約40㎞離れたアテネまで走って伝えたことにあるといわれています。

そして、このいい伝えにちなみオリンピックアテネ大会(1896年)でマラトンからアテネ競技場までの約40㎞のロードレースが行われました。

その後のオリンピックでもマラソン競技は行なわれましたが距離は統一されておらず、およそ40kmくらいの距離で行なわれていたようですが、現在の距離である42.195㎞でマラソン競技が行なわれたのはロンドン大会(1908年)のことでした。

このロンドン大会で42.195kmという距離が採用された理由には多くの説が存在しているといわれています。

もともとは26マイル(41.834km)を採用しようとしていたが、イギリス王室関係者の要望で、どこかの城の前をコースに入れたため伸びてしまったとか、これまたイギリス王室の要望で、ゴール地点を競技場内の王室席の目の前に設定したため距離が伸びてしまったとか・・・

いずれにしても、1921年に国際陸上競技連盟によって、このロンドン大会のマラソン競技の距離42.195kmが正式なマラソン競技の距離として定められた訳ですが、当方は、これは「神様のいたずら」なのではないかと思えてしょうがありません。

なざなら、イギリス王室のわがままであろうが何であろうがこの42.195kmという半端な距離がマラソン競技の距離として設定されるに至ったのは、とても人間の理屈だけではないような気がするからです。。。

そもそも、マラソン競技の距離は40kmでも、26マイルでも「きりのよい」距離で良いにも関わらず何故42.195㎞になったのか・・・

仮に、マラソン競技が42㎞であったなら、今回、キプチョゲ選手は2時間の壁を打ち破っていたのかもしれません。。。

この何とも不思議な距離42.195㎞だからこそ人々は魅了され、そこに飽くなき挑戦が生まれているのではないかと当方は考えています。

●マラソンSub2を達成するためには?

では果たして人間はマラソンで2時間切りが出来るのか!?改めてキプチョゲ選手の記録を振り返りつつ人間がマラソンで2時間を切るための要素を考えてみたいと思います。

上記は、キプチョゲ選手のスプリットタイム、ラップタイムですが、25㎞までは確実にSub2を達成できるペースでカバー出来ていますが、30㎞を超えてから大きなペースの落ち込みがみられます。

このことから、30㎞以降のペースの落ち込み、特に35㎞以降のペースの低下を如何に防ぐかがサブ2達成のポイントであり、これは市民ランナーを含む全てのマラソンランナーがマラソン競技パフォーマンスを向上させるための共通のポイントであること、すなわち「Sub4を達成するため」「Sub3を達成するため」「Sub2を達成するため」その目標レベルに関わらずマラソン競技において良い結果を収めるためには35㎞以降のペースの低下を如何に防ぐかが重要であることを再確認することが出来ます。

そして、この35㎞以降のペースの低下を防ぐ上で重要な要素になるのがランニングエコノミーではないかと当方は考えており、それは、Daniels JとDaniels Nが「ランニングエコノミーは特に競技レベルの高いランナーにおいて重要な指標である」ことを示唆している(2)ことからも支持される訳ですが、ランニングエコノミーは「最大下のある走速度における酸素摂取量(3)」と定義され、最大下の走速度で一定時間のランニングテストを実施し酸素摂取量を測定することによって得られる指標であることから、LTを超えない強度(ランニングスピード)で評価されることが一般的でありLTを超える強度(ランニングスピード)になり得るレースのパフォーマンスを予測する、あるいは決定付ける要因としては不十分である可能性も考えられます。

*ランニングエコノミーに関しては以下の記事も参照下さい。

そこで、最近ではランニングエコノミーをエネルギーコストという視点から評価する試みがなされています(4)が、このような試みによって多くの知見が得られれば、ランニングエコノミーがより効果的なトレーニング指標として活用出来ると共にランニングパフォーマンスを推定するクオリティも向上し、マラソンSub2の壁を打ち破ることが出来るのではないかと当方は考えています。。。

いつ、どこで、誰がマラソンSub2を達成するのか今後も注目です!

(1)Joyner, M. J:Modeling: optimal marathon performance on the basis of physiological factors. J Appl Physiol 70:683-7,1991.

(2)Daniels J, Daniels N:Running economy of elite male and elite female runners. Med Sci Sports Exerc 24: 483 - 489,1992.

(3)Cavanagh P R, Kram R:The efficiency of human movement –a statement of the problem. Medicine and Science in Sports and Exercise 17, 304-308,1985.

(4)Fletcher J R, Esau S P, MacIntosh B R:Economy of running: beyond the measurement of oxygen uptake. Journal of Applied Physiology 107: 1918-1922,2009.


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1998年ナイキジャパン退職後,筑波大学大学院修士課程体育研究科に進学.持久系スポーツ時における疲労とパフォーマンスの低下に関する研究活動を行なう.2001年修士課程修了後,ストレングス&コンディショニングコーチ(トレーニング指導者)としての活動を開始.

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