寅さん観察日記#あとがき

男はつらいよの第一作目を見て、寅さんが頭の中の印象よりも随分と粗暴な性格で驚いた。そこでいつ頃から皆に愛される寅さんへと変化していったのかに興味が湧き、一作目から順に見ていくことにした。

という事で見始めた「男はつらいよ」全50作品。
少し間が空きましたが、全部観終えた感想を、これから観る方にネタバレしすぎない程度につらつら書いてみます。

【好きな作品ベスト3】
第17作寅次郎夕焼け小焼け
マドンナ:太地喜和子
ロケ地:兵庫県龍野市
→寅さんが飲み屋で出会った無一文の爺さんを連れて帰ってきちゃって、とらやの2階へ住まわせちゃう。この爺さんは実は。。
一歩先が読めない展開にあっという間の2時間でした。

第19作寅次郎と殿様
マドンナ:真野響子
ロケ地:伊予大洲(愛媛)
→旅先で出会った爺さんと意気投合、この爺さんのお願いを聞いてあげようとしているうちに寅さんが使いっぱしりのように走り回るはめに。。
出だしからコメディ要素全開で小ネタも大いにハマり、傑作回の一つ。
 
第32作口笛を吹く寅次郎
マドンナ:竹下景子
ロケ地:備中高梁(ひろしの父さんの故郷)
→寅さん、旅先でお寺さんに居候してるうちに居心地良くなっちゃって居着いちゃう。そこのお坊さんに代わって法事に出席などやりたい放題。。
これまたコメディ回の傑作。たぶん何度見ても笑えると思う。

こうして並べてみると、筆者は人情モノとコメディ回のバランスが取れた話が好きなようだ。
とらやファミリーでのアットホームな軽妙トークと、旅先での見事なシチュエーションコメディが合わさったとき、得も言われぬ幸福感に包まれる。
全体を通しては、内容が充実していたのは10作目中盤から30作目前後であろうか。

上記以外では、初期の第1~8作目(おいちゃんが初代・森川信さんが演じていた頃)は一作品ごとに味わいがあって良かった。
第2作続・男はつらいよ」は坪内散歩先生と寅の生みの親(=ミヤコ蝶々)が登場し、人情物語の傑作回。
第4作新・男はつらいよ」は話の筋がほぼ落語そのもので、それを柴又のとらやファミリーでやる面白さが頭抜けている。
こうしてみると、初期作品で話の振り幅を広げており、後々これが予測不能な寅次郎ワールドへと視聴者を引きずり込む伏線にもなっていた。
筆者もまんまと引きずり込まれた。

恋愛回では、リリーさん(浅丘ルリ子)うた子さん(吉永小百合)など、同じキャラクターが複数回登場するのが好きだった。
このような話はあまり多くなく、個人的にはもっと同じマドンナを何度も登場させてほしかった気もする。
その点、終盤の満男(吉岡秀隆)泉ちゃん(後藤久美子)はあっぱれな仕事をしてくれた!
後藤久美子の回を追うごとの魔性っぷりにはヤラれた。

ここで好きなマドンナを書き連ねてみようかと思ったが、筆者の中で永遠のマドンナは結局さくら(倍賞千恵子)に落ち着く。
きっと同感の方も多い事でしょう。
惜しむらくは、一作目で結婚しちゃう事だろうか。
さくらの恋愛パートなんていうものも観てみたかった気がしてならない。
マイケル・ジョーダンに絡まれてたくらいか。

【ロケ地】
前半戦は日本昔ばなしに出てくるような何でもない田舎の風景が印象的。
後半に行くにつれ、高度経済成長の街並みが印象に残った。
日本という風景が、劇的に変わっていった時代をそのまま切り取った貴重な映像資料集にもなっている。

ロケ地は、ほぼ全て自力で割り出していった。
実はこの作業がなかなか楽しかった。
映画を観ながら会話の中の地名、宿の名前、バス停などの僅かな手がかりを頼りに、一つずつGoogleMapで検索。
これなかなか楽しいので、これから見ていく方がいたらぜひオススメです。気分だけでもロケ地巡りをしている気になれます。

【主題歌】
主題歌は、聴きながらキーを拾ってみた。
基本的にキーはGだったが、第3作目だけ一音高くてキーがAだった。(第4作から元に戻った。)
一作目からずっと新録で歌詞も時々変わっていたが、途中からは過去の録音が使われており、終盤では寅さんの歌声が若いママをキープできたのも良かった。
歌詞を全部書き出した訳ではないが、大まかに分けると3種類あったように思う。

パターン1
♪俺がいたんじゃお嫁にゃ行けぬ~
パターン2
♪どうせおいらは底抜けバケツ〜
パターン3
♪アテもないのにあるようなそぶり〜

あのイントロでパーンと始まるあの感じがめでたくて良い主題歌だ。この映画のハッピーなイメージを決定付けていた。
いつでも江戸川の風景と富士山が頭をよぎる。

【寅さんの変化について】
冒頭で書いたように、粗暴な性格の寅さんがいつから愛されキャラに変化していったのかに興味があり、全作品を順を追って見てきた。
見始めは、きっと時代の移り変わりによってシナリオも変化し、寅さんも大人になり‥などと勝手な予想を立てていたが、事実はまったく違った。
結論を言えば、初代おいちゃん役の森川信さんの急逝(第8話公開後)が大きな転換点になっていた。
森川信さんを失った中でとらやファミリーが結束して作品を楽しいものに作り上げようとした努力と、座長としての渥美清さんの覚悟。
このような空気感が第9,10作目あたりは全体を大きく包んでおり、揺れながら寅さんのキャラが確立していったように見える。
予想よりももっと人間臭くて、ある意味この映画シリーズらしいリアルな理由だった。

終盤は渥美清さんご自身が病魔と戦いながらの撮影だったようだ。
最後の出演となった第48話、立つのもやっとのはずの渥美清さんが阪神淡路大震災の被災地長田区に降り立ち、寅さんを演じきった。
あのラストシーンは、ドラマであると同時にドキュメンタリーでもあった。
涙が止まらなかった。

最後まで追いかけてみて、本当に良かったです。
まだまだ書きたいことだらけですが、この辺で。

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