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冬場のドローン運用の秘訣

 2017年当時の記事です。文末にアップデートされた情報を更新しています

東京に11月としては数十年ぶりの雪が降り、冬の訪れを感じながら原稿を書いています。今回は、ドローンの冬場の運用の秘訣についてお話しましょう。

「寒いと飛ばない!?」


通常の撮影機材の場合、メーカーは寒冷状態での入念な検証をして、動作確認をしてから世に送り出しています。しかし撮影機材としてのドローンは、一部の愛好者の間でのラジコンヘリコプターから普及したため、世に出始めてから日が浅く、検証も入念とは言えない状況です。市販された機体でさえ、気象条件によっては様々なトラブルが起きます。そんな寒冷時のトラブルもドローンを飛ばす人には悩ましい問題です。

現在のドローンは特殊なものを除いて、一般的にリチウムポリマーバッテリーで動作します。リチウム他の化学物質が染み込ませてある冷えピタシートのようなゲルが何層もアルミパックされたような形状で、ここに電気を溜め込み、放電をします。化学反応で電気を溜め込む特性なので、温度が低くなるとその特性は低下します。
外気温5℃以下になると性能の低下が顕著で、フライト可能時間が通常の半分以下になったり、バッテリー性能の低下予測を外すとバッテリーの電圧降下が早すぎて、ドローンを墜落させたりするケースが多発するようです。その為、現在のDJI等が発売しているインテリジェントバッテリーの多くは、バッテリー本体温度が15℃以下だと起動しない仕組みが追加されました。これで、バッテリー性能低下で墜落する機体は少なくなりましたが、冷えたバッテリーではそもそもフライトできない事になってしまったので、寒冷地でのドローン撮影の際はバッテリーを加温、保温することが必要となりました。

バッテリーを温めると離陸温度をクリアできるだけでなく、バッテリーの効率が上がりフライト時間が伸びたり、バッテリーを酷使した際の急激な電圧低下を防げたりします。

そこで様々なドローンオペレーターがそれぞれに知恵を凝らし、バッテリーの保温、加温グッズを工夫しています。

 「バッテリー保温方法あれこれ」


・車のヒーター

大抵、ドローンでの撮影の場合は機体運搬のため、自動車での移動となることが多いので便利です。フライト少し前にヒーターをデフロスターモードにして、温度設定を高温にし、バッテリーをダッシュボードの上などに置いて、数本温めて使用します。ただし車から離れてさらに移動する場合、保温材などがないと徐々にバッテリーの温度は下がり、やがて起動温度を下回ります。

・  DJI専用バッテリーヒーター

DJIから、1本ずつ挿入してバッテリーの電気を使い、ケースに仕込まれたヒーターで加温するバッテリーヒートシステムが発売されています。サーモスタットが搭載されていて、温度が上がりすぎたりしないようになっています。非常に便利なので、他の保温手段があっても1−2個あったら便利に使えるグッズです。 

・  クーラーボックス+保温材

市販のクーラーボックスに保冷剤ならぬ保温材を入れる方法です。保温材の量によって保温する時間をコントロールできます。予め保温材を温めておくので、電気や電池がなくても保温できます。車や電源から離れた場所でバッテリーを保温するのに、一番適しています。

・  レジャー用保温庫

ペルチェ素子を使った保温保冷庫
内部温度を測る為に温度計がつけてある

市販の12Vや100Vで駆動し、車のシガーソケットなどから電源を取り保温をします。サイズも様々で、バッテリーを5−6本入れるのに丁度良い大きさのものもあります。しかし1万円以下の比較的安価なレジャー用保温庫の多くはペルチェ素子を使った省電力なものが多く、保温庫もバッテリーも冷えた状態から30℃前後まで加温するには機能不足です。まずは暖房のきいた部屋でバッテリーを保管し、保温庫自体も前の晩から予熱しておいて、車でも常時加温するようにします。その際、温度設定が細かくできないものが多いのと、発熱部だけが熱くなりすぎるものもありますので、要注意です。

内部温度がわからないものも多いので、温度計を蓋裏に貼り付けて、内部の温度監視をしています。

・  カスタム保温庫

シートヒーター内蔵バッテリーケース

私は普段、バッテリーの保管、運搬をペリカンケースもどきのプラスチックケースにいれていますが、その中に12Vで駆動するフィルム状のシートヒーターを敷き詰め、INSPIRE1などのフライトに適さないくらい傷んだバッテリーを12Vに降圧して繋いで使っています。フライトするには傷んでいますが、プラスチックケースをホカホカにするにはもってこいの容量と使い心地です。

沢山のドローンオペレーターの方が様々な創意工夫でバッテリーの保温の方法を考えておられます。私の紹介したものはほんの一例ですが、この方法を複数組み合わせて安全にフライトしています。皆さんのご参考になれば嬉しいです。

 2022年3月加筆

上記の記事を書いてから5年が経ち、ドローンの常識が変わったり、業務利用が増えたためか、メーカーも寒冷地の事を考えた仕様に変わりつつあります。エンタープライズモデルの多くが、蓄えた電気を熱に変えて放電する自動放電の仕組みを取り入れていますが、それを利用した寒冷時のセルフヒーターを内蔵するバッテリーも増えつつあります。とはいえ、バッテリー本来の性能を引き出す為に、条件の良い温度に加温するに越した事はありません。
弊社で最近導入したゴキゲンなグッズをご紹介いたします。

温冷庫

漢字にすると3文字、とてもシンプルです。
上記の温冷庫よりもはるかに高性能です。(金額もはるかに高いですが)
・100V、12V 、HiKOKIのバッテリーの3電源で運用可能です。
・-18℃から60℃まで5℃刻みで設定が可能です。
・中仕切りついていて、仕切りの左右で違う温度設定ができる。
(バッテリー保温25℃、缶コーヒー用60℃みたいなことも。温度差30℃まで)
・電源を繋いでおけば、HiKOKIバッテリーにも充電されます。
(ライバルのマキタの温冷庫は充電されません。)
・バッテリー(別売りを装着)内蔵なので、車のエンジンを止めていても、保温保冷される。
・庫内照明つき
・USB電源出力付き(あんまり使わないけれど)

100w程度の出力があるので、加温までできます。
以前のペルチェ素子での保温庫は数W程度だったので、保温剤をたくさん入れておくとギリ保温できますが、冷えているバッテリーなどを加温するほどの能力がありませんでした。

そのほかに付加する能力といえば、簡単に保冷庫、冷凍庫に切り替えられるので、撮影、観測の旅先の冷凍、冷蔵なお土産を買って帰ることができるということでしょうか・・・

ビデオSALON2017年1月号「前略 空からお邪魔します。」掲載
2022年4月加筆修正


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