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手繰り寄せた奇跡〜日本対スペイン〜

日本のグループ突破を賭けたスペイン戦は、手に汗握る熱い展開でした。
そして、日本は勝利しグループ突破を決めました。
日本はどのようなプランで試合に臨み、どのようにしてグループ突破ができたのでしょうか?

日本の出方

まず、スペインのスタイルについて説明します。
スペインはバルセロナのメンバーを中心としたポゼッション×ハイプレスの攻撃的なチームです。
事実、初戦のコスタリカ戦は7対0で勝利しています。
そして、今大会で1番戦術的に完成されているチームで、チームの完成度でいえば大会最高のチームでしょう。
そんなスペインに勝つ上で、守備時の立ち振る舞いを決めることは重要です。
日本は今まで4-4-2のミドルプレスとブロックを使い分ける守備をしていました。
しかし、スペインにとって4-4-2は最大の鴨といっても差し支えないでしょう。
なぜなら、スペインのキーマンであるブスケツが配置上空いてしまうからです。
さらに、インサイドハーフのガビとペドリがボランチの背中を取ることにより、ボランチが前に出ていけない状況を作ります。
そのため、4-4-2の場合2トップの1人がブスケツのマークに付かなければいけないのですが、その場合はCBが2対1で数的優位になるため、ドリブルでボールを持ち運ぶことができ、2トップが背中でブスケツを消す守備をした場合はサイドバックを経由したり、降りてきた前線の選手に1度ボールを当てることによりブスケツにボールを入れることができます。
そのため、4-4-2でブスケツを消すことは高い集中力と個人戦術が必要です。
また、スペインは攻撃時5トップになるため4バックだと数的不利になってしまいます。
そして、5トップの優位性を活かして得点したのが日本戦のドイツです。
ドイツのPKを取ったシーンは左SBのラウムが完全にフリーでした。
これらの理由から、戦前5バックで行くべきでは無いか、という声が多く聞かれました。
そして、実際に日本は5-4-1のフォーメーションで試合に臨みました。
さらに、SHがかなり内に絞り、5-4-1というよりも5-2-3のような形でブロックを組んでいました。
これはおそらく、スペインのキーマンであるブスケツ、ガビ、ペドリにボールを入れさせない狙いがあったのでしょう。
しかし、日本はCBにはプレスに行かず、かなり引いた位置で構えていました。
また、SHが内に絞っているため、スペインの4バックは全員フリーのような状況が続きました。
そのため、スペインはピッチの横幅を目一杯使い、左右に揺さぶりながら、日本を徐々に押し込んできました。
スペインのSBがフリーのような状況が続いており、そこに日本のSHが出ていくとブスケツにパスを通されるという状況が続きました。
日本のボランチはガビとペドリを見ているため前に出ることができず、左右にボールを回されながら徐々に押し込まれていきました。
そして、左右に揺さぶられたところからのクロスに対して日本のマークがズレたところから失点しました。
その後、日本は5-4-1の完全な撤退守備に変えました。
守備のファースラインである1トップがブスケツに付いているような状況でした。
そのため、スペインの2CBは常にフリーであり、自由にボールを運ぶことができました。
日本のファーストラインは機能不全に陥っていたといってもいいでしょう。
さらに、状況を難しくしたのがペドリです。
ライン間とCB横を行き来し、日本の選手が捕まえづらいポジションを取り続けていました。
仮に、ペドリにボランチがついていくと開いたスペースでダニオルモがボールを受けることができ、ボランチがポジションを守った場合はペドリを捕まえることができない状況になりました。
このように圧倒的にボールを持ったスペインでしたが、追加点を奪うことはできませんでした。
そんな中、日本が変化を見せます。
スペインの左CBがボールを持った時、田中碧が前に出て2トップの形でプレスを掛け始めました。
そして、田中碧が開けたスペースは右CBの板倉が埋めて、瞬間的に4-4-2のような形になっていました。
得点を取らなければいけないこともあり、前半途中から前からプレスに行くシーンが増えました。
これにより、何度かボール奪取に成功します。
しかし、そこから奪ったボールを繋ぐ術を持っていない日本は攻撃に繋げることができず、スペインのカウンタープレスに掛かってしまいました。
ただ、どうにか追加点を奪われずに前半を終えることができました。
スペインが追加点を奪えなかった要因は色々あると思いますが、個人的に感じたのは早い時間に先制点を取れたことにより、スペインに緩さが生まれたことでは無いかと思います。
現に、常にボールを持てていましたし、いつでも崩せるという慢心があったとしてもおかしくはありません。
しかし、そのツケを払わされることになります。

狙い通りの奇襲

このままでは敗退が決まってしまう日本、後半どう出るかに注目が集まっていましたが、案の定切り札の三笘を入れて、攻撃的な布陣にしてきました。
さらに、後半開始直後にハイプレスを掛けました。
そして、プライドもあるのでしょうが、スペインはこのハイプレスを正面から叩き潰しにきました。
つまり、ロングボールに逃げるのでは無く、繋いできたのです。
そして、日本は最高の形で同点弾を決めます。
ハイプレスの流れから、スペインのキーパーの緩めのパスに対して、伊東が猛然とプレスを掛け、ボールを奪います。
WBの伊東が低い位置にいるSBにまでアタックに行く、勇気あるハイプレスでした。
その後、こぼれたボールを拾った堂安が、カットインからのミドルシュートを決めました。
堂安のシュートも世界基準でしたが、チームの狙いとしたハイプレスの流れからゴールを奪いました。
このゴールで流れに乗ると、堂安のクロスに対して、ラインを割るギリギリの所で三笘が中に折り返しました。
そして、そのボールを田中碧が押し込みました。
ゴールの瞬間足が止まっていたスペインに対し、最後まで諦めなかった日本の気迫は凄まじいものでした。
そして、プラン通りリードを奪った日本は、試合を終わらせにかかります。
つまり、1点を死守するために、5-4-1の撤退守備を退いたのです。
さらに、守備を固くするためSBに冨安、ボランチに遠藤を入れます。
日本の守備ブロックはコンパクトで、しっかり連動しており、スペインでも崩すのに苦労していました。
日本としては、戦術上サイドにスペースができてしまうので、そこからのクロスに対して合わせることができる純粋なCFのモラタが下がったのも追い風になったでしょうか。
その後、スペインは得点を奪うため攻め込みますが、綺麗に崩すことにこだわっているのか、なかなかチャンスになりません。
この状況になると怖いのがミドルシュートです。
特に、CBながらかなり高い位置まで侵入していたロドリのミドルシュートは恐怖でした。
しかし、日本は辛抱強く守り切りました。
それはまるで、バルセロナに対してリードを守り切るアトレティコマドリーのようでした。

まとめ

結果的にスペインに勝利した日本は、首位でグループを突破しました。
大会前、日本がドイツとスペインに勝つと心から信じていた人はどれほどいるのでしょう。
少なくとも私はそう思っていませんでした。
日本がこのグループを突破するのは奇跡かもしれません。
しかし、運が良いところがあったのも事実ですが、日本の選手たちが最後まで勝利を信じ、やるべきことをやったからこそ起きた奇跡です。
即ち、日本の選手がやるべきことをやったからこそ、勝利の女神が微笑んだのでしょう。
だからこそ、起こるべくして起こった奇跡なのではないでしょうか。


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