エージェント会社ストレートエッジコラム第六回『胡散臭さナンバーワンな職業、エージェントとは?』


前職は小説の編集者をしていました、三木一馬と申します。2016年3月31日をもって、株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局を退社し、新たに作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げました。最終職歴は電撃文庫編集部編集長、電撃文庫MAGAZINE編集部編集長、主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。


エージェントといっても、普通の編集者となにが違うんだよ、と思われるかもしれません。なにより、言葉が超胡散臭い。出版詐欺っぽいにおいがします。


僕が目指すエージェント像ですが、近年、一番近いと思われるのは、先達であり成功例、株式会社コルクの佐渡島さんがやっていることがエージェントと呼ばれる仕事でしょう。

ここの会社が、既存のエージェント会社(実はいくつもすでに日本にあるのです。解説されているブログを参照ください)と違うところは、バリバリの現役編集者、しかもメディアミックスもどんどん展開している最高潮のときの漫画家、小説家を契約クリエイターとして抱え、既存のプラットフォームにとらわれず、とくにIT系も積極的に展開していっているところでしょう。


それ以外にも、実はビジネス書周りには個人の『出版エージェント』と呼ばれる存在がかなり昔から存在していました。ようは、作家ではないけれども、書籍を発売しうる知識や技能、才覚を持つタレントにお声がけして執筆してもらうという仕事です。たとえばスポーツ選手やアーティスト、有名企業の重役などに自伝や得意分野のハウトゥーの執筆依頼をするのですね。そして、その原稿を持って自分のつてがある出版社に売り込みをするのです(直接版元の編集者が声をかけるケースもあります)。そして、持ち込んだ出版社で本になったときの印税や編集費が、出版エージェントの収入源となります。

どのエージェント系の仕事も共通することは、コンテンツ、作家に寄り添うということです。そして、その「寄り添い方」の違いが、各エージェントの特性に今後はなっていくでしょう。たとえば、IT系に強いエージェント、メディアミックスに強いエージェント、少女漫画に強いエージェントetc...

作家や作品にあらゆる多様性、ジャンルがあるように、実は編集者(エージェント)にも多種多様なカラーとキャラクター、スタイルがあるのです。それが今後オープンになり、クリエイターが望むかたちでマッチングできるようなサービス、仕組みが出来れば、『面白い作品』が生まれる確率が高まると思いませんか?


ところで、僕は元の職場では、とてもとても良くしてくれて、やりたいこともたくさんできました。不自由もほとんどなかったのです。にもかかわらず、外に出てしまった理由のひとつに、

『ジャッジメントの早さを重視したい』

というものがあります。ジャッジメントとは、「風紀委員(ジャッジメント)ですの!」by 白井黒子! ……ではありません。「判断」という意味です。

自分でいうのもなんなのですが、僕は仕事の判断速度が速いほうで、いろんなタスクもどんどんてきぱきと白黒つけて、それ以降そのことはスパッと忘れて次の仕事をこなし、コストパフォーマンスをあげていく、ということを癖づけていました(判断し、それをスパッと忘れて次にいく、という行為の重要性については、以前『東洋経済オンライン』でコラムを書かせていただきましたので、後日、このnoteに再編集+項目を追加して掲載したいと思っています)。

会社勤めですと、チェックルートがしっかりと決まっていて、そこを経ないと物事が進まない、ということがあります。

もちろん、それはとてもとても大切なことです。世に出る前に決定的な大問題がそのチェックルートによって洗い出され、本当に助かった、ということが何度もありました。ですから、それを否定するわけでは無いのですが、どうしても複数人の目が通るため、とにかく時間がかかってしまいます。

IT業界もそうですなのが、いまのご時勢、とにかく即判断即実行をしないと旬が過ぎてしまったり、好機を逃してしまうことも同時に多く経験してきました。

これはエージェントだから、というわけではないのですが、この即決というジャッジを「自分一人で、自分の責任で出来る」というメリットが僕の中ではとても大きいことでした。もちろんその「勇み足のリスク」も、自分の会社にかえってくるのだから、これは因果応報でいいと思うのです。

エージェントなんてカッコ良い言葉つかってるけど、結局何が出来るんだよ? という声も聞こえてきます。はい。実際今はまさにその状況で、これから、なにができるかを証明していかなければなりません。少なくとも、僕と契約をしてくださった作家さんは、今のパフォーマンス以上のことを期待しているはずですから(もちろん、出版社の方々も)、これからはPUNKな気持ちで頑張りたいと思います!


■今日のストレートな回答

● ハコさん

> つまり、三木さんが今回独立を決断されたのは全て作家さんの環境、そして今後の編集者達のビジネスを安定させるためと言うことでしょうか?

→ビジネスの安定ではなく、シュリンクしていく業界において、作家も編集者も、次の新しいシーン(ビジネス、クリエイティブともに)を開拓するため、ということです。


●pick_up_paperさん

> 管理職よりも現場を優先できるポジションでこれからも行動し続けることを選ばれたということですか

→そうです。


●ヒメコさん

> この新会社は社員募集をしていたりはするんですか?

→今はしておりません。


●ペンギンディスコ(菊地康之)さん

> エージェントと言えば真っ先に思い浮かぶのはアメリカの作家のエージェント制なのですが、そこからまず知らない人が多いので、日本という特殊条件での三木さんのこれからすることとの相違点を解説していただけると嬉しいです。

→前のコラムにも書きましたが、欧米のエージェントは、まさにプロ野球選手の代理人のように、原稿内容には介入せず、窓口として交渉に徹しているパターンが大半です。一方、僕が考える日本式エージェントは、プロ野球選手のバッティングorピッチングコーチ兼代理人、ということになります。つまり、従来の編集者としての仕事と、作家側に立ったリーガル、ビジネス双方の戦略やプロモーションも担うということです。


●どるん。さん

> 1.ストレートエッジ社のお仕事について 文中で、『版元の社員が、まったく何もしなくても【中略】会社に利益がもたらされる』(何もしないのに版元が儲かるような? 中間マージンを取っているのかな?)と記載がありますが、ここまで出来るのなら新たに出版社を作った方が……と思ってしまいます。既存の出版社様との違いは何でしょうか。出版社様から見ると、出版社名を貸してもらえたら作品作りから広告、販路開拓、メディアミックスまで全部やっておきますよ? 作家様から見ると、作品の品質向上、書籍化までのアドバイス、版権、契約管理やら節税対策まで何でもしますよ? といった感じでしょうか。また、なぜ既存の出版社様が「利益を追求」するために切り捨てたことをストレージエッジ社は掬い取ることができるのでしょうか、そこがエージェント費用として作家様が金銭負担する部分でしょうか。(作品にはならないかもしれないけれど、エージェント費用を払っている間はアドバイスしますよ的な)それともジャンプでは進撃の巨人は扱えないが、マガジンなら可能であるといった需給の問題を、ストレートエッジ社では解決できるといった方向でしょうか。

→僕の考える将来の編集者は「媒体を編集する」ことをイメージしていますから、むやみにプラットフォームを持つことは得策ではないと考えています(プラットフォームとは、レーベルであったり出版社であったりです)。出版社と作家に提供するサービスについては、ほぼ合っています。既存の出版社が切り捨てたことではなく、マンパワー的に難しかったり、そこまで編集者が手を回すことをしなかったので(ここは人によりますが)、自分はサービスとして提供できると考えました。もちろん自分は、「他の編集者よりも自分に任せてくれたほうが成績が上がる」ことを前提に仕事をしているつもりです。「ジャンプでは進撃の巨人は扱えないが、マガジンなら可能であるといった需給の問題」については、そもそも問題と考えている方はいないと思います。


> 2.出版社様との関係について ストレートエッジ社との作業の結果、どこに持ち込んでも出版にたどり着けるであろう作品ができた場合、複数の出版社様に持ち込んで一番高く評価してくれたところにお願いするようなことは可能なのでしょうか。そんなことしたら、出版社様側からすると、俺たちを比較するとは生意気だ! お前のところの作家は出禁だ! といったことになる危惧はあるでしょうか。漫画家の場合、他紙に移ろうとする際に制約がある場合が……といった話も聞こえます。それとも、現在最強は電撃文庫様であるというお話から、電撃文庫様に出版してもらうことを目的にされるのでしょうか。※社外取締役の方のお名前を見るに、特定の出版社様のパートナー会社のようなイメージで考えればよいのでしょうか。それとも箔を付けるためにお名前を借りたのでしょうか。

→出版社をコンペするような立ち振る舞いは、パートナーシップを取っている相手に対して礼を失する行為ですから、軽々しく考えてはいけません。作家さんのお考えもあるでしょうし、一概には回答できないですね。電撃文庫が現在最強であることは、もちろんそのとおりです!


> 3.対象とする作家様について ストレートエッジ社はいわゆる「ライトノベル」の作家様を対象としているのでしょうか。それとも純文学・大衆文学・詩歌、出版物なら何でもござれといった感じでしょうか。また、ターゲットとしている作家様はどのレベルの方を想定しているでしょうか。例えば「ライトノベル」作家様の場合、複数タイトル出版済、メディアミックス経験済みのメジャーリーガー様でしょうか。面白い作品は多数あるけど、惜しいかな売り出し方の問題かメディアミックスがなされないベテランプロ野球選手様を盛り上げていくのでしょうか。それとも1~2作品出版できたけど、その後が続いていない新人プロ野球選手様も対象でしょうか。兼業しつつ趣味でWeb小説サイトに投稿しているが、いつかは書籍化も! と野心を持つセミプロ様もご相談に乗っていただけるのでしょうか。なお、作家様の立場によって「最強に面白いものを創りたい!」であったり、「3ヶ月に1冊は出せないとメシが食えない!」であったり立場が異なるかと思いますが、ターゲットは「最強に面白いものを創りたい!」という方だけでしょうか?

→おっしゃる全員の方が、エージェント対象です。ただ、エージェント個人(ここでは僕)もキャパシティがあり、どんな万能な人間も一日は24時間しかないため、何十人も担当することは不可能です。そういう意味では、作家もキャパシティに応じた発行速度があるように、エージェントも担当人数に限りはあります。


●Masanori Andouさん

> 全くの私見で恐縮ですが、更にその上の出版(権利)の自由を実現できなければマーベルの様な動きは難しいのかと感じました。目指せスタン・リーと言うか、パラレルと継承の許される土壌の様な物を作ろうとしているのではないかと勝手に夢想しております。極端ですがドラゴンボールのスピンオフが電撃で読めたり、映像やアニメにも良い形でトータルクオリティコントロールが出来るような世界が来て、その作品が世界を席巻する事を楽しみにしております。一方的な期待で申し訳ございませんが、是非頑張ってください!

→おっしゃるとおりです。偶然のタイムリーですが、『ぴあ映画生活』でこのような記事が掲載されています。日本は良くも悪くも、一人のタレントによって作品は作り上げられます。そしてその広がりは当然出版社が源流となって展開していきます。それを否定するつもりはなく、日本式のコンテンツも、中心にいるプロデューサーがきちんとした意思をもって立ち回ればマーベル的展開も夢ではないと思っています。もちろんまだまだハードルは超高いわけですが、目標として、そう考えています。



ほか、すやまさん、千奈@どこでもドア(ジャンク)さん、フォルトさん、☆たすき☆さん、神裂火織さん、すみ わたるさん、alt_mmさん、コメントありがとうございました!!


■今日のストレートフォト

2016年3月に、アメリカのシアトルで行われたアニメイベント『SAKURA-con』に、『ソードアート・オンライン』チームで参加したときイラストレーターのabecさんが描いた色紙です。血の繋がっていない妹さん。

■『ストレートニュース』

すみません! これを読んでいただいている皆様にご相談です。ブログ書き続けていると絶対にネタが枯渇するので、心優しい閲覧者の皆様、質問とかいろいろ送ってください。それに答える形で記事を書いていきたいと思ってまして……!! 罵倒・糾弾・誹謗中傷も大歓迎です!! ヘイトを浴びるとなんか気持ちいいよね。よろしくお願いいたしますm(_ _)m


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