エージェント会社ストレートエッジコラム第五回『とある編集の起業目録(スタートアップ)』
前職は小説の編集者をしていました、三木一馬と申します。2016年3月31日をもって、株式会社KADOKAWA アスキー・メディアワークス事業局を退社し、新たに作家のエージェント会社『ストレートエッジ』を立ち上げました。最終職歴は電撃文庫編集部編集長、電撃文庫MAGAZINE編集部編集長、主な担当作は、『とある魔術の禁書目録』、『ソードアート・オンライン』、『灼眼のシャナ』、『魔法科高校の劣等生』、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』などなどです。
『会社の作り方』
僕は大学を卒業してからずっと十六年間、サラリーマン生活だったので、確定申告すらしたことがありません。
そんな僕に会社なんて作れるのか、と思っていたのですが、そんな悠長なことを言っていられない状況になり(というか焦燥に駆られ)、突貫工事で企業のことを調べ始めました。
すると、インターネットって本当に便利ですね。調べると、うじゃうじゃ出てきます。
「公証役場」なんて言葉、会社を作ろうと思わないと一生縁が無いものでしたが、調べていくうちに必ず通らなければならない関所であることが分かったりなど、どんどん身についていきました。
最近は、会社設立代行をビジネスにしている会社もあって、お金をかければ誰でも株式会社をつくることができるので、そんなに大層なことではないのですが、ここでどうも編集者としてのクセというかサガというか、とにかくなんでも「一回自分でやってみる」精神が沸き立ち、行政書士であるとか、起業支援サービスとか、そういうものを一切使わず、できるだけDIYでやってみることにしました。
JOJO第四部の岸部露伴も、クモを描くためにクモの内蔵(?)をぺろぺろなめたりしてしたじゃないですか! つまりは人間の行動原理すべては探究心で出来ているのです!
非常に余談ながら、この、「一回自分でやってみる」という面倒臭いというかだから管理職向いてないんだよ的な精神は、僕が子どもの頃、徳島に住んでいるときに兄と一緒に乗ったジェットスキーがきっかけでした。
まだ存命だった父と一緒に、海に遊びに行ったとき、ジェットスキーに兄弟で乗ることになったのですが、僕と兄は6歳違いで、当時僕は小学3年生くらいだったと記憶しています。
兄は中学3年生だったのですが、ジェットスキーに乗り、二人で海を疾走しているとき、兄がもの凄い勢いでカーブを曲がろうとするのです。僕は初めてジェットスキーに乗っていたものですから、メチャクチャ怖くなって、「兄ちゃん、やめてーや! こけて海に落ちるで!」と叫びました。すると兄は、「なにゆうとんねん。どうせ落ちても海だろうが。ギリギリ限界まで曲がろうとしてわざとコケるねん」と言うのです。そしてそのまま、猛スピードでカーブに入り、バランスをくずしコケて、ものの見事に二人とも海にザブンとおちました。僕は慌てながら、「兄ちゃん、なんでコカすんや!」と非難しました。すると兄は、「な? 一回思い切りやってみてコケてみたら、どこらへんが限界かわかるやろ、次はそれでミスらんようになるでー」というのです。
なるほど。
つまりこういうことです。限界を超えるジェットスキーのカーブを経験しなかったら、どこか「これ以上スピードを上げるとコケるか」を理解出来なかったというわけです。その経験を出来なかった人間よりも、その経験を知った人間のほうが、ジェットスキーはうまくあつかえるだろう、そういうことなのです。
これは、人生にも置き換えることができると思いました。何事も、将来起こりそうな些細な不安にビビッて、限界を超える経験をできなかったら、その経験は永遠にできなくなってしまうのです。コケる感覚を熟知している運転手のほうが、ジェットスキーはうまく乗ることができるのです。
ようやく本題に戻りますが、というわけで、会社設立は、誰の力も頼らず、まずは独力で、行政書士にも頼らず、ベンチャー起業した後輩にも尋ねず、まずはできるところまで自分でやってみようと思いました。それで失敗したとしても、別に誰に怒られるわけでもないですし、人生が終わるわけでもないのですから。
それからは、毎日ネット検索の日々です。もちろん、業務中にやるわけにはいきませんから、仕事から帰るときの深夜タクシーの中でスマホ検索や、朝早く起きてから自宅のPCで調べるなど、内職のようなことをチマチマやっておりました。それは2月~3月頃のことです。昨今は、ほんっっとに、ネットって便利ですね。ガセネタ情報も、うようよ存在しますが、きちんとリテラシーを持って取り組めば、会社設立の手順をしっかりレクチャーしてくれるサイトが山ほどありました。「だから本が売れなくなるんだよ! まったくもう!」と、どこに向けて良いかわからない腹立ちと共に、検索しながら知識を得ていると、会社というのは、なにはともあれ、その設立目的を記載した書類が必要なことがわかりました。つまりは、その組織はどういうルールで、なにを母体とし、どんなことで利益を上げるかの決めごとを記載している書類のことです。それは一般的に、「会社定款」と呼ばれます。
『ファイトクラブ』でいうなら、『the first rule is Do not talk about Fight Club』(『ファイトクラブ』のことは口外するな)ってやつです。これは鉄の掟であって、絶対に誤ってはいけない約束事を記載している書類です。
というのも、『定款』に書かれていることは、あとでどんな言い訳やフォローをしようとも、絶対に守らなければならないことであり(それは会社法という法律で決まっています)、ここに書かれていることに準じて、その会社で働く人間は生きていかねばならないため、絶対に間違ってはいけません。
なので僕は、とても丁寧に、インターネットからサンプルをコピペして、適当にちょちょいっと作りました。それがあとで、クソ面倒くさいことになるなんて、このときは思ってもみませんでした……。
つづく。
■今日のストレートフォト
2016年3月に、アメリカのシアトルで行われたアニメイベント『SAKURA-con』に、『ソードアート・オンライン』チームで参加したときイラストレーターのabecさんが描いた色紙です。キリトさん。
■『ストレートニュース』
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